世界情景素写
エジプトの情景#10

アモン神殿と死者の山(シワ)

Temple of Amun and Gabal al-Mawta, 1996, 2001

シワ・オアシスはアレクサンダー大王が遥々アモン神に神託を受けに来た土地です。古くから人々の営みがあり、エジプト王朝時代からローマにかけてのアモン神殿に関わる遺跡や古代の墓が残っています。

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* エジプト情景素写 *

ウム・ウバイダ神殿 シワ・オアシスの写真 Temple of Umm Ubayd
ウム・ウバイダ神殿
Temple of Umm Ubayd

建物の形はなく、大きな石と壁のレリーフのみが残っています。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

ウム・ウバイダ神殿のレリーフ シワ・オアシスの写真
ウム・ウバイダ神殿のレリーフ

壁には青で彩色された彫刻と象形文字が刻まれています。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

シワオアシスの町の中心部から東に1.7km、クレオパトラ鉱泉の北、アグルミの南にアモンにささげられた神殿の一つウム・ウバイダ神殿(Temple of Umm Ubayd, or Temple of Om Obaidah)があります。

小さな丘の上にはかつてあった建物の面影はなく、記念碑のような形で壁に使われていたレリーフと幾つかの石材が置いてあります。

アモン神殿へはアレクサンダー大王が神託を授かるために訪問したとされていますが、このウム・ウバイダ神殿だったのか、北にあるアグルミにあるオラクル神殿だったのか、両方だったのか、確かではありません。

神殿の歴史に関してもあまりはっきりしていなく、碑文の象形文字からウェナメンと呼ばれるシワンの小王と第30王朝のネクタネボ2世に関連付けられています。

かつての神殿は、前庭に列柱が並び、建物の壁面はきれいに彩色された浮き彫りと象形文字で装飾された立派な建物だったと推測されています。

現在残されている壁は聖域に続く部屋の東壁で、彫刻には王のカルトゥーシュを守っている女神ネクベトや数々の神々、そして口開けの儀式の様子が象形文字で描かれています。

口開けの儀式は埋葬に関連するもので、遺体安置所の寺院や墓の壁などに描かれていることが多く、この場所は埋葬に関連付けられた施設として、或いはウェナムンの葬儀の記念として建てられたのかもしれません。

ヤシの木とアグルミの丘 シワ・オアシスの写真
ヤシの木とアグルミの丘

ヤシの木の向こうに高さ30mあるアグルミの丘が見えます。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

霞むアグルミの丘 シワ・オアシスの写真
霞むアグルミの丘

高さ30mある石灰岩の台地です。
砂嵐のために霞み、少し幻想的です。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

アモン寺院の北の馬蹄形をした高さ30mの石灰岩の台地がアグルミです。アグルミとはシワ語(ベルベル語)で小さな村の意味です。

アグルミの丘には放棄され、崩れかかった土と石で造られた民家が並んでいますが、そういった民家に交じるようにアモン神に捧げられたオラクル(神託)の神殿があります。

この神殿だけ大きな石材が使われ、壁の石組も正確なので、他の建物と区別は容易にできますが、外観、内部ともに崩壊が酷く、神殿だったという格や趣きはあまり残っていません。

オラクルの神殿は、様々な説がありますが、第26王朝時代にアフモス2世によって建てられ、丘の上に王宮も建てられていました。

紀元前331年にアレキサンダー大王がアモン神の神託を受けるために訪問したことが歴史的に有名です。ここで大祭司に歓迎され、無事に神託を授かりました。そういった話で拍が付いたのか、その後のギリシャ、ローマの時代にも栄えました。

キリスト教が広まるにつれてこのアモン神殿は廃れていきました。そしていつしか周囲にある12世紀から19世紀までの建物と同様に住居として使われていたようです。おそらく神殿としてよりも住居として存在していたほうが長かったのではないでしょうか。

現在では修復に力が入れられていて、前庭やホールや聖域が整備されていますが、神殿らしい面影はあるけど・・・といった感じです。

アグルミの住居跡 シワ・オアシスの写真
アグルミの住居跡

丘の上は石と泥で造られた住居の跡が沢山あります。
昔の遺構の上に居住跡が乗っかっているといった感じです。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

アグルミのモスク シワ・オアシスの写真
アグルミのモスク

塔のような建物はモスクとして使われていたようです。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

オクラル神殿 シワ・オアシスの写真 Temple of the Oracle
オクラル神殿
Temple of the Oracle

入り口の石などに神殿の面影を感じられますが、
普通の民家と変わらない佇まいでした。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

アグルミの壁 シワ・オアシスの写真
アグルミの壁

30mある丘の上からの眺めはいいです。
ただ石の壁や土台となっている岩盤の崩壊が進んでいて危ない状態です。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

アグルミの下にある村 シワ・オアシスの写真
アグルミの下にある村

アグルミの周囲にはナツメヤシの畑と集落が広がっています。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

死者の山(ジャバル・アル・マウタ) シワ・オアシスの写真 Gabal al-Mawta
死者の山(ジャバル・アル・マウタ)
Gabal al-Mawta

石窟の穴が沢山開いているといった特徴のある丘です。
(At Siwa Oasis, 30 Apr. 2001)

町の中心から北に1kmに「死者の山(MOUNTAIN OF THE DEAD)」と呼ばれるジャバル・アル・マウタ(Gabal al-Mawta)があります。

ここは岩山全体が古代の人々の墓地になっていて、沢山の石窟が掘られています。死者の山と呼ばれるだけあって、その数は相当数です。

最も古い墓は第26王朝およびプトレマイオス朝時代のもので、グレコローマン時代にかけての墓があります。シワには多くの古代墓地がありますが、適切に発掘されているのはここだけです。もちろん目立つ場所なので多くが盗掘されていたようですが。

岩山の側面に多くの石窟が彫られているのが確認できますが、丘の地面にも多くの墓が掘られていて、地下迷宮のようになっています。実際、シワの人々は、第一次世界大戦および第二次世界大戦中にここに隠れていたようです。

死者の山(ジャバル・アル・マウタ) 岩窟 シワ・オアシスの写真 Gabal al-Mawta
岩窟

上の方は岩壁に掘られた石窟となっています。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

上から見た様子 シワ・オアシスの写真 Gabal al-Mawta
上から見た様子

上から見ると、多くの墓が埋まっているのが分かります。
まるでアリの巣状態です。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

穴が沢山ある様子 シワ・オアシスの写真 Gabal al-Mawta
穴が沢山ある様子

沢山の穴があり、かつて防空壕として使われたのも納得です。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

死者の山(ジャバル・アル・マウタ) 壁画のある墓 シワ・オアシスの写真 Gabal al-Mawta
壁画のある墓

壁画が描かれている石窟もあります。
おそらく身分の高い人になるのでしょう。
色々探検したかったのですが、ミイラがそのまま置いてある墓もあり、
呪われてしまう・・・と気分が萎えてしまいました。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

死者の山から見たシャリ シワ・オアシスの写真
死者の山から見たシャリ

霞んだ感じで見える様子が印象的でした。
(At Siwa Oasis, 29 Apr. 2001)

アル・ダクルル山 シワ・オアシスの写真 Jabal al-Dakrur
アル・ダクルル山
Jabal al-Dakrur

2つの岩山が連なっています。
これは北側の岩山で、山の下には集落があります。
(At Siwa Oasis, 13 Aug. 1996)

シワの中心から南西に約5kmに2つの岩山が並んでいるアル・ダクルル山があります。この山から採石した石でアモン神殿が造られたとされています。山の上部にはローマ時代のものらしい墓や石窟もあります。

この山には伝説が残っていて、なんでも古代シワ王である「イブリック」王の宝物が山のどこかに埋めて隠されているそうです。また毎年10月の満月の夜に大きな祭りが行われ、シワの人々が祈るためにアル・タクルル山に向かうそうです。

アル・ダクルル山 2つの丘 シワ・オアシスの写真
2つの丘

東の湖の方から見たアル・ダクルル山です。
風向きの関係なのか、こちら側の斜面は砂が多いです。
(At Siwa Oasis, 13 Aug. 1996)

* 感想など *

陸の孤島のようなシワ・オアシスにエジプト王朝時代の遺跡が残っていることに驚きました。

訪れる前までは、アレクサンダー大王がわざわざアモン神殿に神託を受けるためにこのような辺境の土地に来るわけがないよな。などと思っていましたが、実際に訪れてみると立派な神殿があった痕跡があり、まんざら伝説ではないのかなと思うようになりました。

ただ砂漠の地にある遺跡。風化が進んでいました。朽ち加減が素敵というか、味があるというか。砂漠にある遺跡らしくてよかったのですが、そのうち痕跡もなく消滅してしまいそうでした。

エジプトの情景#10
アモン神殿と死者の山(シワ)
Temple of Amun and Gabal al-Mawta, 1996, 2001
-風の旅人- (2020年1月更新)

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