風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

房総半島最南端初日の出ツーリング
#4 2つの安房国一の宮

<2012年1月>

今年の初日の出は房総半島南端の野島崎に一人でバイクに乗って出かけました。(全6ページ)

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6、2つの安房国一の宮

地理院の地図
房総半島南端の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

内房を南下して房総半島の最南端の野島崎まで来たので、そのまま反時計回りに外房を周っていけば房総半島をぐるっと一周できる。

そういう選択肢もあるが、それは何度も行っているし、そのルートではやりたい船旅ができなくなってしまう。かといってそのまま真っすぐ来た道を北上しても面白くない。

地図をよく見ると、見落としてしまいそうな感じで館山の左側に半島がちょこっとある。ここに行ってみよう。もしかしたら秘境的な何かがあるかもしれない。と思い立って、今まで素通りしてきた州崎半島をじっくりと回ってみることにした。

空は晴れてきて、もう雨は降りそうにない。濡れたものなどをビニールに入れ、リックの中に押し込んだ。

出発の準備は完了。洲崎半島への旅の開始だ。野島崎から国道410号線を西へ向かってバイクを走らせた。

走り出して少しすると、後ろの方から急に日が差してきた。ようやく太陽が分厚い雲から出てくることができたようだ。長かったな・・・。そして色々あったな・・・。

バックミラー越しだったが、まぶしい太陽を拝み、ようやく一年が開けたといった気分になれた。

安房神社の境内図 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
安房神社の境内図

国道410号線を西に走っていき、最初の目的地は洲崎半島に入る手前にある安房神社。

この付近は昔の安房国にあたり、ここで一番の格式、一宮を誇っていたのがこの安房神社になる。

由緒書きを読むと、とても古い歴史を持っているようで、なんでも今から2670年以上も前に創始されたとなっている。しかもその創始に登場するのが、初代天皇である神武天皇だったりする。

伝説はあくまでも伝説。でも伝説は漠然と真実を伝えていることもある。ちょっと興味深く感じた話なので、少し詳しく書いてみよう。

天富命が祀られている下の宮 安房神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
天富命が祀られている下の宮

神武天皇は、天富命(神武天皇に仕えた日本神話に登場する人物)に肥沃な土地の探索を命じた。天富命は、まず阿波国(徳島県)に上陸し、そこで麻や穀(カジ=紙などの原料)を植えるなどして開拓を行った。

その後さらなる肥沃な土地を求め、阿波国に住む忌部氏の一部とともに海路で旅をし、房総半島南端であるこの地にたどり着き、この地を開拓した。

この時に先祖にあたる天太玉命と天比理刀咩命をお祭りしたというのが、安房神社の起源となっている。

なるほど。それで「阿波」「安房」が同じ「あわ」という読みなんだ。房総半島、伊豆半島、紀伊半島は類似性が多いと言われているけど、四国もそうなんだなと、ちょっと勉強になった。

安房神社拝殿 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
安房神社拝殿
趣きのある社殿 安房神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
趣きのある社殿

安房神社を訪れてみると、境内は山を背にしているので、周囲に木々が多く、とても落ち着いた雰囲気だった。

参道を歩いていくと、雨上がりというのもあり、境内がしっとりと優し感じ。特に木造の社殿は艶やかで、幽玄といったような雰囲気を少し感じたりする。

とはいえ、2670年の歴史を感じるかというと、そこは微妙なところで、まあ普通の格式ある神社かなといった感想になる。

拝殿ではお参りをしている人もそれなりにいたが、行列ができるほどでもないのが、この地域の人口の少なさを表しているような気がした。

モミジのある正月 安房神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
モミジのある正月

初詣の参拝をした後は、ぐるっと境内を一回りしてみた。洞窟遺跡など色々と惹かれるものがあったが、一番印象に残ったのが、元旦だというのにモミジの紅葉がきれいなことだった。

今年は暖かいから特別なのだろうか。それとも元々遅い種類なのだろうか。よくわからないけど、初詣に訪れたのに季節が晩秋に逆戻りしたかのよう。もの凄く違和感を感じてしまった。

地理院の地図
房総半島南端の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

安房神社を後にすると、いよいよ州崎半島へ。まずは3キロほど砂浜が続く平砂浦を走っていくことになる。

地図で見ると、長い砂浜と並行して道路が通っている。きっと砂浜と海を見ながらの気持ちのいい道中となるのだろう。そう思って走るのを楽しみにしていた。

しかし実際に走ってみると、道は砂浜からは結構離れていて、しかも砂防林などが続き、海や砂浜がほとんど見えなかった。

砂浜の反対側もゴルフ場などが続き、道の左右とも単調な風景の連続。広々とした感じは良かったが、思い描いていたほど楽しい道ではなかった。

line

ゴルフ場や砂浜が終わると、集落や岩場といった風景が続き、ここからは半島独特の岩の多い地形と変わっていった。

洲崎半島での最初の目的地は、先端部の集落にある州崎神社。走っていて何もない感じの土地だったので、神社があればすぐにわかるだろうと緊張感なく走っていたのが失敗。

ちょうど道が曲がっている場所に神社の入り口があり、鳥居も道路から少し奥まった場所にあったので、発見が遅れてしまい、止まり切れずに通過してしまった。

州崎神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
州崎神社

一人のツーリングでよかった。うっかりとしたミスでもバタバタしないで済む。ちょっと先でUターンして、神社に戻ってきたのだが、鳥居前を通って駐車場に入ろうとすると、鳥居の奥にとんでもなく長い階段が見えた。

えっ、何あれ・・・。と二度見した瞬間、バイクをエンストさせてしまい、危うくコケそうになってしまった。やっぱり一人の時でよかった・・・。

しかし、あれを登らないと参拝できないのか・・・。元旦の初詣に長い階段を登るのは慣れているとはいえ、いきなり現れるとビックリする。いつも私に付き合わされ、無理やり階段を登らされている友人たちの気持ちが少しわかった気がした。

大漁の絵灯籠が設置された鳥居 州崎神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
大漁の絵灯籠が設置された鳥居

バイクを停め、鳥居をくぐって境内に入ると、平地の部分には社務所などがあり、ちょうど建て替えが行われているようで、建物は作業用の囲いで覆われていた。

ちょっと目を引いたのが大漁祈願を掲げた簡易的な門が設置されている事。絵灯籠といった感じで、夜には万灯としてライトアップし、参拝客を迎えていたのだろう。簡素ながら漁村らしい情緒を感じる。

お神酒 州崎神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
お神酒

奥に進んでいくと仁王門があり、この先から強烈に長い階段となる。覚悟を決めて仁王門をくぐろうとすると、門の下にお神酒が置いてあった。

どうぞご自由に、と正月の祝い酒がさりげなく置いてあるところが、のどかな地方らしくていい。もっとも他の地域からお参りにくる人がほとんどいないのかもしれない。

長い階段 州崎神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
長い階段

せっかくだから一杯。バイクだから駄目か・・・。いや、バイクでなくても長い階段を登る前に飲みたいと思わない。行きはよいよいというやつで、下っているときに足を踏み外して・・・ってことになりかねない。

でもここにお酒が置いてあるということは、やっぱり地元の人は景気づけに飲んでから登るのだろうか。漁師の人はたくましいからな・・・。

なんて思いつつ階段の下に立ってみると、階段が真っすぐ天までそびえているかのよう。まるでスキーのジャンプ台みたい。見上げた瞬間、くらくらとめまいがしてきた。酒は飲んでないが、どうやら階段に酔ってしまったようだ・・・。

やれ、登るか。ずっと見上げていても階段がエレベーターのように動いてくれるわけではない。腰が重くなるだけだ。覚悟を決めて階段を登っていった。

数を数えたりなんかすると、気が滅入ってくるので、無心で登っていくのだが、なんか登りにくい。歩幅が合わないというか、リズムに乗れない。

よく見ると、階段の段差や幅がきれいにそろっていなかった。これって地元の人の手作りだろうか。そんな感じがする。

それとともに、雨で濡れた靴の中がまだ少し湿っぽいのも気になる。踏ん張った時に微妙にヌルっとするような感触がして気持ち悪い。家に帰ったら靴の中が臭くなってそう・・・。

州崎神社拝殿 州崎神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
州崎神社拝殿

少し息を切らしながら登ると、小さめの社殿が正面にあった。木々に囲まれてひっそりとした雰囲気。ほんの少し秘境に来たような気分だ。

まずは参拝。今日二度目のお参りだな。今回は頑張って登ったので御利益もきっとあるに違いない。同じ願いにしようかな・・・、別の願いにしようかな・・・、ってそんないい加減な願い方では願いが叶うわけがない。

沢山お願いがあるわけではないので、いつも通り交通安全の祈願をした後は、社の周囲を回ってみた。この神社がある場所は小さな広場になっていて、小さな社も幾つか建てられている。丘の中腹にぽっかりとある秘密の場所といった感じだ。

この広場を一回りして驚いたのが、車で来れる道がなかったこと。最近はトロッコみたいな機械で建築資材を運び上げる事ができるが、昔は材料を運び上げるのがとんでもなく重労働だったに違いない。

現在でも、普段の祭礼などで道具を運ぶにしても、賽銭などを管理するのにも、この長い階段を登らなければならない。日常的に管理するのがとても大変そうだ。

安房国一之宮の扁額 州崎神社 房総半島最南端初日の出ツーリング12'
安房国一之宮の扁額

この州崎神社で興味深いのは、先に訪れた安房神社と同様に安房国一之宮の額が掲げられていることだ。

一宮はその地域で一番の格式を持つ神社に与えられる称号なので、同じ地域には一つしか存在しない。二番目は二宮となる。

結論から言うと、先ほど訪れた安房神社の方が正式な一宮で、こちらは一宮と言われているだけの一宮となる。

江戸時代の文化9年(1812年)に、この地を巡視した老中、松平定信公が、源頼朝公と洲崎神社との歴史的な関係に深く敬意を表し、「安房国一宮洲崎大明神」という扁額を奉納した。それがきっかけで正式ではないけど、安房国のもう一つの一之宮と言われている。

ただ神社の歴史は安房神社と同じで、天富命が御祖母神天比理乃咩命の奉持された御神鏡を神霊として、洲辺の美多良洲山に祀られたことに始まるというから、気が遠くなるような2600年前の世界である。

設置されている由緒書きを読むと、鎌倉時代にこの地に逃がれた源頼朝が戦勝と源氏再興を祈念して神田を寄進したり、妻政子の安産を祈願したとされている。

室町時代には江戸城を築いた太田道灌が江戸の鎮守として明神の分霊を勧請し、戦国時代には房総里見氏も当社を尊崇して、七代義弘が神領五石を寄進したとされている。

江戸時代には幕府が朱印状を与え、そして老中松平定信が一宮の扁額を奉納したなどと伝えられているといった由緒が残っている。

人がいなく、ひっそりと秘境ムードが漂う神社でありながら、実はビッグな名前が沢山登場するといった凄い神社だったりするようだ。なかなか興味深い神社だった。

房総半島最南端初日の出ツーリング12'
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