天狗と深海魚ツーリング
#6 富士宮焼きそばを求めて
<2008年4月>
天狗寺と言われる大雄山最乗寺などに寄りながら、西伊豆の戸田へ深海魚料理を食べに行ったバイクツーリング記です。(全6ページ)
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9、修善寺温泉へ
もう4時か・・・。大分日が傾いてきたな。さあどうしよう。私はツーリングに出かけるときはプランA、プランBなどと複数の行動パターンを用意している。
今回のプランAは戸田で深海魚を食べた後、この辺を観光するなどし、夕食は富士宮に行って富士宮焼きそばを食べるといったものだった。
伊豆半島から富士宮となると、東京に戻る我々からしてみると反対方向になる。でも、せっかく名古屋の仲間がこっちへ来てくれたのだから少し付き合おうといったといった気持ちと、前々から富士宮で最近流行りの富士宮焼きそばを食べたいといった願望があったので、この機会にといった思いがあった。
プランBは半島の大瀬や、沼津御用邸などを見て、沼津で夕食を食べて帰るといったもの。ただ、時間的に御用邸はもう間に合わないだろう。
どちらがいい?と二人の後輩に聞いてみると、名古屋に帰る後輩は富士宮は帰り道なので、「こっちへ来てもらえるとありがたい」と賛成。
東京の後輩も「自分も富士宮で焼きそばを食べたかったのですよ」と言い、二人とも富士宮で焼そばを食べるプランに賛成だった。
旅は移動してなんぼのもの。行動力がある後輩と一緒だと、旅も楽しい。じゃあ富士宮まで焼そばを食べに行こう。
まずはこの半島の僻地から沼津まで出なくてはならない。海岸沿いを海を見ながら進んで行くか、内陸をバイパスなどを使いながら一気に進んで行くかと迷っていると、名古屋の後輩が修善寺のすぐそばを通るのなら、「一度も行った事がないので是非行ってみたい。」と提案してきた。
沼津御用邸を見れなかった分、修善寺を訪れるのも悪くないか。ちょっと時間的に厳しくなりそうだけど、後輩の希望というのなら修善寺に寄って行こう。
戸田から山を越えて修善寺温泉に到着した。バイクを停めて、まずは修善寺の名の由来となっている修善寺を参拝。
修善寺は平安時代に弘法大師が開いたとされる寺で、鎌倉時代に二代将軍、源頼家が幽閉されたことでも知られている。
山門をくぐって境内に入ると、まず新緑が美しいのに目を奪われた。ちょうどいい時期に訪れたようだ。
本堂に向かって境内を歩いていくと、とても気分良く感じる。新緑が美しいのもあるが、境内の手入れがとても行き届いているのもあるようだ。
奥にある本堂は西日をほんのり浴び、少し控えめな感じで佇んでいた。せっかく来たので願掛けをして行こう。
それぞれ願掛けを行うと、お寺を後にした。「素敵」という言葉がよく似合うお寺だった。
お寺を参拝した後は修善寺に幽閉されたという鎌倉幕府の二代将軍、源頼家の墓所を見に行ってみることにした。
温泉街を通り抜けていくのだが、日曜日のちょっと遅い時間だからだろうか。寂れた感が漂っていた。どうも年を追うごとに元気がなくなっている気がする。
その温泉街の先、少し登った高台にひっそりとした感じで頼家の墓があった。頼家と言えば鎌倉幕府の二代目将軍なのだが、知っている人はほとんどいないのが実際だろう。
まあどの幕府でも二代目は影が薄いものだ。頼家は18歳で将軍となったものの、在位6年にしてあっさりと権力闘争に負けてしまい、この地に幽閉された。
そして最後は北条時政に暗殺されてしまう。享年23歳だった。この後を引き継いで三代将軍となった実朝も、鎌倉の鶴岡八幡宮の大銀杏の前で暗殺され、源氏の天下はあっけなく終わってしまう事となる。
修善寺温泉と聞くと、どこか文学的な響きを感じる。実際、明治や大正期、静かな環境を求め、夏目漱石など多くの文豪が訪れ、この地での滞在を楽しんだそうだ。
修善寺温泉街の中心を流れる桂川沿いには古くからの日本風旅館が建ち並び、川辺に立つと今でも落ち着いた雰囲気が感じられる。
桂川の中にある東屋は独鈷の湯と名が付けられている足湯だ。弘法大師が独鈷杵(仏具)で川中の岩を打ち、そこから霊泉を湧出させたと言い伝えられていて、ここが修善寺の始まりの場所ともいえる。
お寺も参拝したし、お墓参りもしたし、ちょっと休んで行こう。独鈷の湯を訪れてみると、先客が2組いて、簡単な会釈をして入った。
私は靴を脱ぐのが面倒だし、タオルもないし、足湯には入らなかったのだが、後輩二人はせっかくだからとブーツを脱ぎ始めた。
好奇心は旅のスパイスだ。何でもやってみることはいいことだ。ただ、この場合は少々問題があった。
考えてみてほしい。足湯に使っているときに、横でバイク乗りがバイク用のブーツを脱ぎ始めたら、どう感じるか。
ブーツを脱ぐのに夢中になっている後輩たちは知らなかっただろうが、先客の人たちの顔から最初の笑顔は消えていた。きっと思ったに違いない。入ってこないで・・・、って。
10、富士宮やきそば
修善寺温泉からは沼津を抜けて富士宮へ。そんなに時間がかからずに行けるだろうと思っていたのだが、それは甘い読みだった。
沼津市内を抜けようとすると、渋滞にはまってしまい、スムーズに進まなかった。こういう時はバイクの機動力を活かして・・・といきたいところだが、辺りがだんだんと暗くなってきて、周りが見えづらいし、車線も狭く動ける状態ではなかった。
沼津市内を抜けて、国道1号に入ると渋滞はなくなった。順調に進んで行くものの、思ったよりも距離があり、なかなか富士宮に着かない。
こんなに時間がかかるのなら沼津でガソリン代や高速料金分を含めて豪勢においしいものを食べていたほうがよかったかも・・・。途中で思ったのだが、もう今更といった感じだった。
富士宮へ到着してみるともう7時半だった。なんか妙に町が暗く感じる・・・。とりあえず焼きそばを食べよう。
一応幾つかの有名店をピックアップしていたのだが、この時間に開いている店は一軒しかなく、その店に迷いながら行ってみたものの、本日休業の札が・・・。
でもまあ、どこかの店に入ればいいや。そう思い中心部の商店街を訪れたのだが、ほぼ全ての店が閉まっていた。実は富士宮ではやきそばは健全な青少年の食べ物だったりして・・・。
どうしよう・・・。これは参った。せっかく富士宮までわざわざ来たというのに、焼そばを食べられないということになってしまうのか。
限定何食とか、超人気店とか、有名なものとかならわかるが、ここまで来て単なる焼きそばを食べられないというのは、あまりに落胆が大きすぎる。
何処かできっと食べられるはずだ。意地でも探してやる。と苦労して市内をバイクで徘徊し、やっと見つけたのが、居酒屋っぽい感じの富士巻食堂。
富士宮焼きそばの幟が立っているので焼きそばは食べられそうだけど、味はどうなのだろう。居酒屋だと、富士宮やきそばもどきってこともありえる。
その点がまず心配になってしまったが、何も収穫がないよりはましだ。ちょっと心配しながらの入店してみると、店内はやっぱり居酒屋っぽかった。
でも食事にこだわった食堂っぽい雰囲気もある。メニューにちゃんと富士宮やきそばがあるのを確認し、席に着いた。
お腹が空いたので、大盛を頼んだ。しばらく待つと、注文の品がやってきた。
そこそこ値段が高かった分、キャベツに豚肉に結構具沢山なやきそばだった。大盛ということで量も十分。第一印象は合格点。
富士宮やきそばの特徴はラードを使って炒めるのと、ちょっと太目の麺でもちっとしていること。
食べてみると、ここのやきそばは極端に麺は太くないものの、もちっとした感触があり、また味もラードを使っているので香ばしいというか、コクがあるというか、なかなか美味しい。
やはり関東のソース焼きそばとはぜんぜん違うし、お祭りの屋台などの焼きそばとは比べ物にならない。
あまり期待せずに注文したし、何とかありつけたということもあって、食べた後の満足度は非常に高かった。
11、恐怖の富士スカイライン
食事を終えると、もう8時半だった。急いで帰らなければ、家に着くのが夜中になってしまう。夕食を済ませた後は直ちに解散した。
名古屋の後輩は東名で西進していき、朝から一緒の後輩は国道139号を北へ向かい、河口湖へ抜けて中央道で帰るそうだ。私は・・・どうしよう。
地図で見る限り、富士市に下りて東名に乗るよりは、このまま御殿場に向けて東に突っ切っていった方が早そうだ。国道469号と富士スカイラインと二つの道が富士山の南を横切っている。
持ってきたのが広域をカバーする大雑把な地図だったので、どっちも同じような感じで描かれているが、富士山スカイラインの方が最短コースのように見える。この道を通っていこう。
きっと信号もないし、道は空いているし、スイッと御殿場に行けるなら高速代にガソリン代と浮くぞ。
という事で、富士スカイラインを通って御殿場に抜けようと出発したのだが、走り出してから重要な事に気がついてしまった。
富士スカイラインって・・・、スカイラインと名がつくことは山の上を走るの?
等高線の表示のない地図を見てルートを決めたのが失敗だった。どんどんと道が登っていき、それとともに気温もぐ~んと下がっていく。寒いぞ。防寒着持ってくればよかった。
おまけに道が真っ暗で、対向車がぜんぜん来ないもんだから、かなり不安・・・。もし事故ったら翌朝まで誰も助けてくれないとか・・・。
不安にながら走り続けていくと、草むらからにょきっと突き出る顔が・・・。なんだ!!!!!!
追いはぎ、お化け・・・、いや、鹿だ!!!首だけ出してこっち見るなよ。怖いんだから。目が光ってるし、もうやだ~~~。
そういえばサファリパークってのもこの辺にあるんだっけ。トラとか出てこないよな・・・。そんな想像をしたら背筋に悪寒が走り、寒さも心細さも一段と強烈に感じてくる。
対向車の来ない真っ暗の道を時々鹿や猿と遭遇しながら走り続けた。そして顔が引きつる思いをして御殿場に到着。町の光が見えたときのホッとした感じは忘れられない。
なんと恐ろしい道だ。夜の富士スカイラインは・・・。夏だったら更に虫や爬虫類も出てきそう。二度と暗くなってからバイクで通らんぞ。
無事に家に帰ったものの、あまりの寒さに体が冷えてしまったようで、翌朝起きたら鼻水が止まらなかった。
天狗と深海魚ツーリング08'ー 完 ー 風の旅人 (2020年11月改訂)