風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

天狗と深海魚ツーリング
#3 霧の天狗寺散策

<2008年4月>

天狗寺と言われる大雄山最乗寺などに寄りながら、西伊豆の戸田へ深海魚料理を食べに行ったバイクツーリング記です。(全6ページ)

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4、霧の天狗寺散策

奥の駐車場に行ってみると、山奥だというのに駐車場がとても広くて驚いた。よほど多くの人が訪れるのだろう。とはいえ、それは行事や季節のいい時のことのようで、今日は車が数えるほどしか停まっていなかった。

バイクを停め、境内の案内板を見ると、駐車場から本堂へは脇道を通って行くのが、平坦だし、近いようだ。

でもそれでは味気ない。せっかく雰囲気がいいし、少し階段を下って、趣のある参道を登っていく事にした。

参道の石畳の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
参道の石畳

駐車場から参道に降りた。ここはさっき歩いた杉林の遊歩道よりもちょっと上になるようだ。

相変わらず霧が濃く、霧で霞む杉林の中を階段が真っすぐ伸びている様子はとても美しく感じる。その反面、このまま階段を登っていくと、山の中に吸い込まれていくのではといった不安にもなる。

一人だとその吸い込まれような感覚に進む足取りが鈍ったかもしれないが、今日は後輩がいるので心強い。進む足取りも軽いというものだ。

ただ、石畳の階段が濡れていて、歩くとヌルっとした感触がする。よそ見をしていては危ない。

後輩に「滑りやすいぞ。」と言おうと振り向いた瞬間、「わぁ~~~」と、まさに滑って転びそうになっていた。何てタイミングのいい奴・・・。

しかしこんなに滑りやすいとは思っていなかった。後輩は底に滑り止めがほとんどないバイク用のブーツを履いてきていたので、この後は「まるで氷の階段をのぼっているようだ。」と、腰が引けながら慎重に階段を登っていた。

山門前の階段の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
山門前の階段
本堂の隣にある書院の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
本堂の隣にある書院

少し登ると、立派な石灯籠があり、ここからは少し長めの階段が続いていた。上を見上げると、立派な山門がある。この先が本堂だな。

これぐらいの階段はちょろいちょろい。と、階段を登って山門をくぐると、本堂などの建物が並ぶ大きな広場に入った。

ここがまた凄い。霧が更に濃くなったようで、目の前にある巨大な建物が霞んでよく見えない。霧の中に佇む巨大な建造物。幻想的で、山岳信仰的な雰囲気満点だ。

建物も凄いけど、何気に石垣も立派だった。まるでちょっとした城みたい。昔はやっぱり竹やりなんかもって、治外法権だ!自治権拡大!なんて叫んでお侍さん・・・、この辺りだと北条氏とかと戦っていたのだろうか。

それにこの霧の雰囲気。僧兵部隊の他にも幻惑を得意とする天狗部隊もいたかもしれない。

大雄山 境内の案内図の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
境内の案内図

ここ大雄山最乗寺について少し書くと、曹洞宗のお寺となり、全国に4千ほどの門流がある。開創は了庵慧明禅師。およそ600年の歴史をもつ関東でも有数の霊場として知られている。境内山林は130町歩、堂や塔は30余棟に及ぶというからビックリするほど大きなお寺だ。

ここ大雄山を有名にしているのは天狗伝説。了庵慧明禅師の弟子だった道了は、最乗寺を建立する際に近江の三井寺から天狗の姿になって飛んできて、寺の建設を手伝った。

そして了庵慧明禅師がこの世を去った時にも天狗の姿で現れ、山中深くに飛び去ったと言われている。こういったことから道了尊=天狗として寺の守護神として祀られている。

大雄山 開山堂の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
開山堂
大雄山の鐘楼の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
鐘楼

本堂のある広場から奥の院に向けて進んでいった。開山堂や開山当初から脈々と水が湧き出ている金剛水堂を過ぎると、鐘楼があった。

普段なら鐘楼に心を奪われることはないのだが、ここの鐘楼は違った。鐘楼を支える4本の柱には彫刻がぎっしりと刻まれて重厚感が半端ない。とても素晴らしく、近づかずにいられないといった鐘楼だった。

大雄山 御供橋と結界門の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
御供橋と結界門

鐘楼からは多宝塔の八角堂を通り過ぎると、真ん中部分だけ封鎖されている橋がかかっていた。橋の先には武骨な感じのする門があり、その奥は緑が多く、今までの境内とは明らかに違った雰囲気がする。

この目の前にかかる橋は、実は一つの橋のように見えて、真ん中の封鎖されている部分が御供橋、その両脇が圓通橋と二つの橋に組み合わせとなっている。

真ん中の御供橋は特別な時以外は通れないようになっていて、参拝者は一休さんのとんちのように橋の端を歩かなければならない。

大雄山 結界門の天狗の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
結界門の天狗

橋の先にある武骨な感じの門は結界門。門の横には眼光の鋭い天狗が門番のように立ち、門を通る人をにらみつけている。

結界門という名から、この先が聖域というか、神域となるようだ。やっぱり・・・、心のやましい人間はこの門に張られた結界のバリアパワーにはじかれて入れないのだろうか。

もしくは天狗の像が動き出して通せんぼしたり、目から光線がでたりするかもしれない。って、SFの見すぎだ。

ちょうど目の前、ワイワイガヤガヤと騒々しいおばちゃんの一行が門から出てきたことからも、少々のことでは大丈夫なのは間違いない。

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結界門を通り過ぎると、溶岩が山のように積み上げられていた。都内で見かける富士講による富士塚とか人工富士山みたい。

なんでこんな山の中にあるのだろう。充分山なのに・・・そう考えるとちょっと不思議に思える存在だったが、後で知るところに拠れば、昔の箱根山の大噴火の際に流れ出た溶岩の名残りになるようだ。

大雄山 御真殿前の階段の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
御真殿前の階段

その溶岩の山の前からは御真殿へ続く階段があり、けっこう段差があった。今回はちょっときつそうだな・・・。

普段歩かないようなツーリングをしている後輩が、まだ階段が続くのですか・・・と不平たらたら。聞こえないふりをしておこう。

後輩はどこに行くのか、そこがどんな場所なのかをよく知らずに来ているので、こういう感想になってしまうのもしょうがない。

大雄山 巨大な高下駄の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
御真殿と巨大な高下駄

少し長い階段を登りきると、天狗となった道了尊が祀られている御真殿があった。霧の中から現れたその姿はなかなか立派だ。

そしてその横に目をやると・・・。あった!下駄が。御真殿の横の方には奉納された大量の高下駄が並べられている。これがこの寺の名物で、これを見るためにここを訪れたといっても過言ではない。

目玉となっている一番大きなものは人の背丈ほどの高さがある。もしこれを履くとなると・・・、辺りに聳えている巨大な杉の木ほどの巨人になるだろうか。

一番大きな高下駄以外はそこまで大きくないけど、それでも普通の下駄の5、6倍の大きさがある。大きな下駄が並んでいる様子を見ると、天狗って大きかったのかなって思ってしまう。しかもほとんどの下駄が金属で出来ているので、脚力も相当なものだったのだろう。

大雄山 奉納された下駄の数々の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
奉納された下駄の数々

並んでいる下駄を観察してみると、色は赤が多く、形はいかにも下駄といった角ばったものから、丸っこい女性用のものまでと様々だ。

古いものは錆が酷く、鉄くず状態になっているものもあった。そういった惨状にならないようにか、新しいものは錆び難く、持ち運びに軽いアルミ製が多い。

長い階段を登ってここにたどり着いたのもあって、この高下駄は足に関わること、脚力を競うスポーツでのいい成績を願って奉納されるのだろう。

まず最初にそう思ったのだが、実は違っていて、下駄は左右一対そろって役割をなすところから夫婦和合を願って奉納されているようだ。そういった目で見ると、縁起のよさそうな色合いをしている。

大雄山 御真殿の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
御真殿

大きな下駄に囲まれているといった非現実的な雰囲気を楽しんだ後は、せっかくなので御真殿にも入ってみた。

堂内では祈祷が行われていて、順番を待っている人もいた。この雰囲気の中で祈祷してもらえば、色々と体の中の悪いものが出ていきそうだ。

堂内で目を引いたのが、大きな天狗の木像。素人でも感心してしまうほど、美術ポイントが高そうな代物だった。

奥の院に続く階段の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
奥の院に続く階段

御真殿からまだ先があって、奥の院へ道が続いている。先を急ごう。次から次へと色々なものが現れるので境内を歩くのが楽しい。

道を進んでいくと、再び階段があった。奥の院に行くのだから階段があって当たり前。ちょっと長めだけどこれは想定内。

こんな感じで山の中に寺と階段があり、門をくぐって山に登っていくような感じは、同じく山岳信仰の大山に通じるものがあり、歩いていると時々雰囲気が被る。

天へ続くような階段の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
天へ続くような階段

階段を登り、門をくぐり、階段の頂上にたどり着いてみると、なっ、なっ、なにこれ~~~、と立ちすくんでしまった。

登ったと思ったら天にも続くような階段が目の前に聳えているではないか。ここがてっぺんではなく、まだ先があったとは・・・。しかも今までがウォーミングアップだったというぐらい長い。ちょっと目眩がしてきた。

メインイベントの巨大な高下駄はもう見たし、このまま引き返すか。登りたくない・・・けど、行かなければ後で後悔しそうだし・・・。いや、行っても後悔したりして・・・。

色々な思いが巡るが、まあせっかく来たことだし、まだ午前中だし・・・、頑張って進もう。

天狗像と階段の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
天狗像と階段

登り始めると、階段の脇では天狗が睨みをきかせていた。今の心境からすると、「シャキシャキ登らんかい。おまえら。」と怒られているような感じ。

「はい。頑張りますので、このまま通してください・・・」と言いつつ、やっぱり足が重い。ここまでも結構登ってきたもんな。

それにしても・・・、階段の真ん中に取り付けられている手すりが真っ赤なところが天狗寺らしい。霧の中で赤い手すりが妙にくっきりとしていて、登りながら気になってしまった。

力尽きる後輩の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
力尽きる後輩

天狗の番人の横を無事に通過したものの、その先でアクシデント発生。朝食を食べずにきた後輩が空腹のために倒れてしまった。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ。」「後は頼みました。私のことは捨てて行ってください。」「よし、わかった。お前の死は無駄にしない。きっと登り切って聖なる天狗のうちわを授かってくるぞ・・・。」

って、こんなとこでサボってんじゃない。とっとと行くぞ。遅刻してきたんだから・・・。などと楽しく登っていけば少しは気がまぎれるというものだ。

大雄山 奥の院の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
奥の院

苦労して階段を登りきると、簡素な感じの奥の院があった。堂に近づいてみると、堂の奥に十一面観音が安置されていた。

なにはともあれ、ここまで登って来たのだからお参りしておこう。これだけ登れば願い事もかなうはず。「今日も事故のないようにお願いします。」とお願いした。

下りの階段の写真 天狗と深海魚ツーリング08'
下りの階段

これで無事に天狗寺での任務完了。さて戻るか。下りは楽勝だな。何も考えずに階段を降りようとすると、吸い込まれそうなほど高くて、足がすくんでしまった。行きはよいよいというやつで、結構怖いぞ・・・。

恐る恐る長い階段を降りていき、巨大な高下駄の前を通り、結界門の辺りまで下って来てみると、あれよあれよという間に霧が薄くなっていき、視界がよくなった。

そして本堂に戻ると、もうすっかりと霧が晴れて普通の状態。これで写真が撮りやすくなったと、改めて写真を撮ってみるものの、なんかいまいち。さっきの方が良かったな。雰囲気があって。

やはり靄っているほうが神秘的な山岳信仰の雰囲気にはぴったりのようだ。本当にいいタイミングで訪れることができた。天狗の導きかな。そんなことを思いながら大雄山を後にした。

天狗と深海魚ツーリング08'
#3 霧の天狗寺散策
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