風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

超極寒の富士五湖初日の出ツーリング
#2 極寒の本栖湖へ

<2008年1月>

初日の出を見るために富士五湖の一つ本栖湖を訪れた。ある程度覚悟はしていたものの極寒の世界でした。(全5ページ)

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2、極寒の本栖湖へ

地理院の地図
中央道の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

マイナス5度という予報だったので、事前に防寒対策としてハンドルカバーや冬用の防寒ズボンなどを購入しておいた。今回は今までになく寒さ対策はばっちり。中途半端に寒いよりも、思いっきり寒いほうが精神的にも経済的にも覚悟が決まって、準備の方もしやすいかもしれない。

集合は午前4時半に中央道の談合坂サービスエリア。当日は、朝3時に起きて出発の準備を始めた。

寒いだろうな・・・。念のために薄手のセーターをもう一枚着こんでおこう・・・と沢山着込んでしまい、防寒着を一式着込んでみると、モコモコの雪だるま状態。

バイク乗りとして、いや、普通に見た目が格好いいとは言えないが、知った人には友人としか会わないので、見た目よりも防御力重視ということで何も問題はない。

さて出発するか。もたもたしていると遅刻してしまう。早朝に住宅地でエンジンの暖機をすると喧しいので、少し先の大通りまでバイクをよっこらっしょと押していったのだが、いきなり「暑っ~~」と茹蛸状態になってしまった。

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実際にバイクを走らせてみると、モコモコして動き辛い。着込んだ分だけ関節などの曲がる部分の許容範囲が狭まるし、手を伸ばすと肩付近に突っ張った感じがする。

でも着込んだかいはあったようで、ほとんど寒さを感じない。寒さに対する準備と投資をしたかいがあったというものだ。

10分ぐらい走ると、最初に感じていた突っ張るような違和感もほとんど感じなくなった。そういうもんだと体が慣れてきたようだ。この感じなら思っていたよりも寒さは大丈夫かも。と、にんまりしながら国道20号を西へ向けて走った。

地理院の地図
中央道の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

深夜の閑散とした国道20号を西へ向かって走り、調布インターから中央道へ入った。道は空いているし、そんなに寒くない。鼻歌混じりに夜の中央道を疾走していった。

しかしバイク乗りが鼻歌を歌っていられたのは八王子までだった。周囲の景色が都市から山に変わっていくにつれて、気温もどんどん下がっていき、ちょっと寒さが気になってきた。でもこれぐらいは想定内。そのために寒さ対策をしてきたのだ。

少しぐらいは寒くなってくれないとやりがいがない。マイナス5度に挑むバイク乗りの覚悟は伊達ではないんだぞ。などと強がりながら寒さに耐えていたが、小仏トンネルを抜け、相模湖が見えたと思った瞬間、バイク乗りをあざけるように強烈な冷たい冷気が前方から襲ってきた。

これは強烈だ・・・。体に電流が走るようなしびれを感じ、一瞬ふらつく。まるで魔法呪文の氷風をくらったかような感じ。この強烈な冷気の攻撃により、一気にバイク乗りのヒットポイントゲージが4分の1減ってしまった・・・かのようだった。

なんだこの寒さは・・・。体の芯にまで冷たさが伝わってきて、震えが止まらない。しかもどんどんヒットポイントが削られている。かなり厳しい展開だ。

このままではヒットポイントがゼロになってバイク乗りは力尽きてしまう・・・。と、一人で乗るバイクなので、ヘルメットの中の頭はいつも以上に妄想が湧き出てくる。

やばいぐらいに寒いというのは事実だったが、集合場所の談合坂SAはここからすぐだったので、バイク乗りは力尽きる前に仲間の待つ集合場所へ到着することができた。

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談合坂SAで他のメンバーと合流した。私同様にやっぱりみんな雪だるま状態となっていて、もともと横幅のある友人にいたっては「相撲取りに転職したのかよ!」って突っ込みたくなる姿になっていた。

「明けましておめでとう」と、みんなと挨拶を交わした後に続く会話は、当然寒さのこと。今氷点下何度だろうか。向こうはどれくらいの寒さだろうか。これ以上寒くなるのだろうか。地面は凍っていないだろうか。といった不安ばかり。

ここまで来るだけでも結構な冒険といえば冒険だったので、この後のどれ程厳しい環境になるのかが心配。

でもバイク乗りは力強い仲間を得て、独りから4人のパーティー(集団)になった。間違いなく全体の防御力が上がったはず。今度はさっき程度の攻撃では怯むことはないだろう。

ここから目的地の本栖湖までは途中に休憩する場所がないので、一気に行くことにしている。出発する前に万全にしておこう。先ほど失ったヒットポイントを回復させるために暖や食事をとった。

十分に体が回復したのち、お互いの無事生還を願い、そして気合を入れるための一本締め。そして河口湖に向けて出発した。

って、まだ始まったばかりなのに締めてどうするんだと、後から突っ込まれたのは笑い話だ。

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高速道では照明がついていて比較的明るいし、それぞれのバイクや性格によって走りやすいペースがあるだろうから、河口湖ICまでは隊列を組まずに自由走行とした。

「飛ばすと風を切る量が増えて寒いので、適度に80~100キロ程度でゆっくりと走る。抜くなり、付いてくるなり、もっとゆっくり走るなり好きにしてくれ。」と仲間に伝え、先頭で出発した。

走ってみると、設置されている照明が少なく、またほとんど車が走っていないのもあって、思いのほか暗くて走りにくかった。

そしてやっぱり寒い。一度サービスエリアの暖かい場所に体が馴染んでしまったので、再び氷点下の世界に戻ると、結構体に堪える。なるべく風が当たらないように、バイクの風よけ(風防)の中に体を入れて走った。

しばらくバイクに伏せ、暖かいエンジンを抱え込むように走っていたが、極寒の中の高速道を走るのはやっぱり寒い。足のつま先や手の指先などの先端から冷気の影響を受け始め、徐々に痛くなってきた。

バイクの場合、同じ温度なら一般道よりも高速道路を走る方が格段に体が冷える。速度差が違うから当たり前なのだが、高速の場合は同じ体勢からあまり動くことがないのも原因だ。

一般道だと信号待ちをしたり、ギアやアクセルワークをするときに少し体を動かすけど、高速の場合はそういったことがほぼない。ずっと同じ体勢のまま。だから体全体が少しずつ冷えてくる。

まして寒いとバイクに伏せるように走っていては、余計に体を動かさない。それに同じ場所に空気が当たり続けるので、弱い部分は弱いまま。どんどんと同じ場所が冷やされ、止まらない限り、回復するすべがない。

寒い・・・。痛い・・・。もっとちゃんとしたハンドルカバーを買えばよかった。靴用カイロをもう一個入れればよかった・・・。単調な道なので、無駄に考えることが多い。寒さとともに考え方もネガティブになっていった。

いや、集中、集中。腰が痛くなったので、体を起こしてみると、サイドミラーに仲間のヘッドライトが3つ輝いているのが見えた。

そうだ私には仲間がいるんだ。やっぱり仲間が見える範囲にいるのは精神的に心強く感じる。弱音を吐いている場合ではない。私が少々無理を通して企画したツーリングだ。頑張らなくては。

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通行量の少ない中央道の河口湖線を走り続けると、ようやく河口湖ICが見えてきた。が、何やら様子が変だ。赤色灯が沢山見える。近づくと、パトカーや機動隊車両が路肩にたくさん停まっていた。

なんてことはない。かつて暴走族が大挙して押し寄せていたようで、毎年元旦にはこのように暴走車両対策として物々しい警備が敷かれるそうだ。と言っても実際のところは赤色灯を点けた警備車両がずらっと並んでいるだけで人影は全くない。

警備している人は中でテレビを見たり、お茶を飲んだりしてくつろいでいるのかな。正月だというのにご苦労さま。と思いながら横を通り過ぎた。

地理院の地図
河口湖付近の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

河口湖ICを降りると、ここからは一般国道の139号、通称富士パノラマラインを本栖湖に向けて進んでいく。

ここからは一般の国道。高速とは違って、路面が濡れて部分的に凍結している可能性がある。慎重すぎるぐらい慎重に走っていこう。

一番最悪なのはスリップした時に仲間うちで多重クラッシュになってしまうことだ。一人こけたぐらいなら何とかなるけど、この寒い中を同時に何台も転倒してしまうと、大事になってしまう。いつもよりも間隔を広めにとりながら隊列で進んで行くことにした。

先頭は私だ。バイク乗りたちの先頭に立ち、この凍えるような極寒の世界に道を開こう。もし、万が一の時には私を捨てて先に行くんだ・・・などと戦争映画のようなセリフは吐かなかったが、この状況の中で一番前を走るのはいつもよりも緊張する。

前の車との車間を少し開けつつ、慎重に車の流れに合わせて進んでいった。走りだして間もなく、意外なところから強烈な攻撃を受けた。それは道路脇の気温表示器だった。

なんと表示されている気温表示はマイナス7度・・・。

予想よりも寒いではないか。といっても、冷静に考えればマイナス5度も7度も同じようなもの。でもこの状況ではそんな冷静に2度の差を納得できるはずもない。ただただ衝撃を受けるだけだった。

この先の本栖湖方面はもっと寒いかもしれない・・・。マイナス7度の数字が金縛りの呪文のようになり、道路脇の気温表示器を見てからというもの、バイク乗りたちの動きが一段と悪くなってしまった。

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寒い!冷たい!と、その後は我慢の時間帯だった。刺すような冷たさとはこういうことを言うんだな。まるで冷凍庫に閉じ込められた気分だ。と色々な例えが思いつくが、寒いのを防ぐ方法は何思い付かない。どうすることもできず、ただ我慢するだけ。

一番困ったのが、あまりの寒さにヘルメットのシールドが曇ってしまうことだった。こうなると思ってちゃんと曇り止めを付けてきたのだが、100均の安物では十分ではなかった。

やむなくシールドを少し開けて、空気を入れながら走ると、肌を刺すような冷たい風が顔に当たり、顔がぴりぴりとしてくる。目や口も痛い。

もちろん問題は顔だけではなく、ちゃんと防寒を施した体からもどんどん熱が奪われていき、手足の先端の感覚がなくなってきた。というか、マヒして自分の手足という実感があまりない。

ここは一度休憩したほうがいいだろうか。凍傷とかになったらシャレにならないしな・・・。みんなも同じように悩んでいるのだろうか。バイクだとそれが分からない。

あまりの過酷な条件に色々と不安になりながら走っていると、本栖湖の標識が見えた。もう少しだ。ここは踏ん張ろう。

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少し走ると、本栖湖「右」の標識があり、その交差点を曲がると本栖湖に到着。本栖湖の日の出スポットはどこだろうか。前の車に着いていくと駐車場に到着した。

ここか。いや人が少ない。本栖湖といえば大勢の人がいるはずなのに。おかしい・・・。バイクを降りて設置されていた大きな観光地図をみると、どうやらここは湖の反対側だ。

再びバイクにまたがり湖の反対側に向かうと、途中から車の列がずらっと路肩に並び、湖側の歩道には三脚を立てた人達がずらっと並んでいた。

凄い数の人だ。ここで間違いない。徐々にその数が増えていき、ひときわ多くの人がいる場所が展望台だった。

超極寒の富士五湖初日の出ツーリング08'
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