風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~
旅の雑学のエッセイ

一年の旅は初日の出から

「一年の計は元旦にあり」と言われるように、元旦の朝に頑張って初日の出を見に行くと、一年がいい年になるかもしれません。ここでは初日の出について少し書いています。

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1、一年の計は元旦にあり

「一年の計は元旦にあり」という言葉があります。一年の最初から頑張ろう。最初が肝心。物事は計画を立てて行おう。などといった意味合いで使われています。

この言葉は中国の書物「月令広義」に書かれている四計から広まった言葉で、原文では「一日之計在晨、一年之計在春、一生之計在勤、一家之計在身」と前後がつながっている文となっています。

訳すと、一日の行動は朝から起こし、一年の計画は新年から行うべき。そして人生は勤勉に、家を守るために健康であるべき」といった感じです。人生の教訓であり、生きる上での基本的なことですが、「そうだよね」と思いながらもなかなか実行に移せないという人が多いことかと思います。

千葉県九十九里浜(2011年) 初日の出の写真
千葉県九十九里浜(2011年)

大勢の人が砂浜に並んで日の出を迎える様子は圧巻です。
日本が世界に誇る元旦の風景です。

旅人の間では「一年の旅は初日の出に始まる」という言葉が広く使われては・・・・・いなく、私が勝手に言っているだけですが、初日の出を見に行くことは旅だけではなく、日常でも「一年の計は元旦にあり」に繋がる意義あることだと感じています。

初日の出は元旦の朝に見る一年の最初の太陽のことで、新しい一年の始まりの象徴です。元旦の朝に多くの人でにぎわった場所が、翌日の2日の朝には数えるほどしか人がいないことを考えれば、やはり元旦の日の出が特別に大切にされていると感じます。

初日の出を見に出かける人は、新しい年の始まりを日の出とともに祝い、今年一年がよい年でありますようにと願をかけます。

もちろん初日の出が神々しい存在と感じる人もいれば、単なる1年のうちの1日、365分の1日の普通の日の出としか感じない人もいるでしょう。寒い中わざわざ見に出かける価値を見出す人もいれば、そうでない人もいるのは当然のことです。

静岡県御前崎(2004年) 初日の出の写真
静岡県御前崎(2004年)

バイク仲間と訪れましたが、あいにくの曇り空でした。

初日の出を見に行くことで重要なのは、「朝日を見ること」ではなく、「見に行くこと」だと思っています。

家の近所で見るにしても初日の出を見に出かけるということは、明日の天気は?から始まり、どこへ見に行く、何時に起きて、と多少なりとも計画性と行動力が必要です。適当な時間に起きて神社に初詣へ行くのとは違います。

たまたま早く起きてしまったにしても、一年の始まりに寒い中をわざわざ出かけるという事が、今年一年を積極的な気持ちにしてくれたり、今年一年を頑張ろうといった気持ちにしてくれるはずです。

それに寒い中を家族や友人と一緒に出掛ける場合は、一緒に行動し、過ごす事が親交や絆を深めることにもなります。誰かと一緒に新しい年を迎えることも俗に言う運気アップにつながるのではないでしょうか。

だからきれいな初日の出が見られなくても、ガッカリすることはありません。寒い中を早朝に出かけること自体が今年一年を頑張ろうという決意表明となっていて、いい一年を送れる種まきになっているのです。

「せっかく来たのに一年の幸先が悪い」とか、「今年は縁起が悪い」と言っている人もいますが、そんな貧乏性な考えをしていると本当に貧乏になってしまいます。プラス思考で考えましょう。

宮島SAの朝日 初日の出の写真
宮島SAの朝日

初日の出スポットになっていますが、
元旦を外すと人が少ないです。

移動することが本分の旅人にとっては、殊更初日の出というイベントは大事です。一年の旅の始まりであって、初日の出を見に出かけなくて旅人が務まるか!というのは言い過ぎですが、「一年の計は元旦にあり」という言葉にかけるなら「一年の旅は初日の出に始まる」となるでしょうか。

旅とは自分の意志で、そして自分の足で興味ある目的地へ出向くことです。テレビやインターネットでも見れるけど、わざわざ時間と手間をかけて自分の目で確かめる行為ともいえます。

寒い、しかも早朝、そして元旦と、外に出たくない条件がそろう中、わざわざ太陽が昇るのを見に出かけるというのは旅人でなくともためらいます。いや、普段出かけていない人の方がこういうお祭り的なイベントでは好奇心が働くでしょうか。

あちこちを旅している人や、一年中旅をしている人ほど朝日が昇るという単純なことに感動が薄れ、元旦の朝に「わざわざ」という気持ちが強くなってしまいます。好奇心や旅への情熱が家から出たくないという怠惰な心に負けないか。一年の始まりの朝に旅人としての覚悟と資質が試されるのです。

そしてそういった気持ちに打ち勝つことで、今年一年いい旅に巡り合える可能性がきっと上がるはずです。だから「一年の旅は初日の出に始まる」なのです。

インド、ダージリン(2001年) 初日の出の写真
インド、ダージリン(2001年)

タイガー・ヒル・サンライズ天文台です。
あいにくの天気でしたが、多くの人が訪れていました。

2、初日の出の習慣

森羅万象、様々なものに神が宿ると考える日本人は、「ご来光を拝む」と言うように古くから朝日が昇る様子をありがたいものとしていました。1年の始まりの朝日を特別に大事にするのは自然な流れで、初日の出を見に行くと、太陽に向かって柏手(かしわで)を打つ人も見かけます。

日本では初日の出を見ることは一般的な風習となっていますが、海外では初日の出を見に行く風習はないようです。パーティーをしたり、ディスコに行って踊ったりと、新し年が始まる夜を友人、家族等と一緒に過ごすのが普通です。

その一環として、或いは朝になっちゃったから日の出スポットに出かけてみようかということはあるようです。正月にインドのダージリンを訪れたとき、普段から日の出スポットになっているタイガー・ヒルを訪れると、地元の人も多く訪れていました。

普段から日の出ツアーが組まれているような観光地では長期の休暇で訪れる観光客に交じって、地元の人もちらほらと訪れ、いつも以上に賑わうといった感じでしょうか。

初日の出の写真
岡山県鷲羽山(2018年)

恐らく中国地方で一番賑わう初日の出スポットです。

日本ならどこでもきれいな初日の出が見られ、毎年多くの人が初日の出を楽しみにしているというのも違います。地域によって初日の出の習慣に温度差があります。

小さな例えでは半島の東岸と西岸では太陽が昇る東岸の方が初日の出を見に行く習慣が根付いていますし、海岸と内陸部でも同様です。大きな例えだと日本列島の太平洋側と日本海側では圧倒的に太平洋側に初日の出を見る習慣があり、イベントが多く行われています。

私自身日本海側で育ったのですが、子供の頃、周りに初日の出を見る人はいなく、学校でも初日の出が話題になることはありませんでした。地理的に冬の日本海側は山の陰になるので日の出に関心がないというのもありますが、根本的な問題として正月に晴れないから見ようという気が起こらないのです。

そりゃ大袈裟に言い過ぎ。そう思った人は太平洋側でしか暮らしたことのない人です。日本海側で元旦の朝に晴れ、初日の出が見られる確率は10年のうちに2回ぐらいでしょうか。雲の隙間から何とかというのならもう少し増えるかもしれませんが、初日の出よりも帰省の人も多いので交通の支障になる雪さえ降ってくれなければいいといった感じです。

私自身、太平洋側に引っ越して冬の晴れが多いことに驚き、そして友人にて初日の出を見に出かけると、初日の出が見れたことよりも大勢の人が初日の出を待っている様子に新しい文化を見た気持ちで感動してしまいました。

山口県日の山(2020年) 初日の出の写真
山口県日の山(2020年)

山頂でイベントがあり、日の出とともに万歳三唱をします。

町を挙げて、集落を挙げて初日の出を祝うといった地域もあります。私が訪れた中では、広島の忠海では黒滝山に、山口の日の山で多くの町民が元旦の朝に山に登っていました。元旦登山といった感じで、そこそこきつい登山になりますが、お年寄りから子供まで参加する地域の年中行事になっているようでした。

こういった元旦の初日の出登山は、集落のすぐそばに手ごろな山があり、そこそこ眺めがいいと条件のそろっている瀬戸内に多いですが、全国各地で行われています。

初日の出のイベントは地域によって浜だったり、港とだったり、山頂や山頂付近の広場だったりと様々ですが、初日の出前に暖かい飲み物などの接待や獅子舞の演舞等が行われ、初日の出とともに全員で万歳三唱をするのが一般的です。

山頂や浜辺で大勢の人が太陽に向かって一斉に万歳する様子はとても日本らしい風景ですが、都市部で育った人などには異様な光景に映るかもしれません。きっと外国人から見たら怪しい儀式に見えるはずです。

近年では万歳をすることが日常ではあまり見られなくなった気もしますが、一斉にスマホで写真を撮る様子も万歳に見えなくもなく、後ろから見るとどちらも同じだなと少し面白く感じてしまいました。

広島県黒滝山(2019年) 初日の出の写真
広島県黒滝山(2019年)

酒どころだけあって酒樽を担いで山を登り、振舞われます。

初日の出を見たいけど一人で見るのはちょっと・・・と思っている人はこういったイベントを訪れるのもいいのではないでしょうか。地域でのおもてなしがあり、とても温かみのある初日の出を迎えることができます。

また、酒どころの広島では、山頂に青年団が酒だるを担いで登り、登ってきた人に振舞う地域が幾つかあります。獅子舞や太鼓の演奏などは各地で行われていますが、元旦の朝、まだ暗い中を酒だるを担いで山に登るというのは広島らしい初日の出の光景でしょうか。

千葉県野島崎(2012年) 初日の出の写真
千葉県野島崎(2012年)

房総半島の最南端です。
太陽は見えなかったけど、
屏風のようにそびえる雲が美しかったです。

3、関東での初日の出

具体的にいつから初日の出の習慣が行われているのかは分かりませんが、江戸時代には初日の出を拝む習慣があったそうです。

ただこの頃は便利な交通手段や暖かい防寒具のない時代なので、寒い中を初日の出を拝むために長距離を移動する人は少なく、手軽な場所での見るのが一般的でした。江戸だと少し高い場所の愛宕山や神田明神などが人気となっていたようです。

時代が変わっても人間のやることはあまり変わらないもので、現在でも都心部では高層ビルなどの高い場所が人気となっています。都内では六本木ヒルズ、サンシャイン、スカイツリー、東京タワーなどは抽選が行われるほど人気となっています。暖かい場所で待つことができるので子供連れでも安心です。

少し変わったところでは、レインボーブリッジや横浜のベイブリッジのスカイウォークといった空中に浮かんでいるような橋の上からというのも面白そうです。東京湾に浮かぶアクアラインの海ほたるからも人気ですが、ここは早い時間に駐車場が満杯になり、封鎖されてしまいます。

東京都城南島海浜公園(2009年) 初日の出の写真
東京都城南島海浜公園(2009年)

羽田空港の横にあり、朝日を浴びながら頭上を飛行機が飛んでいきます。

東京からだと東南の方向に房総半島があるので、厳密な意味での水平線からの日の出とはなりません。関東で水平線からの日の出にこだわるなら房総半島の東岸、いわゆる外房から北の太平洋側、真鶴半島より南の伊豆半島、そして静岡の御前崎といった場所になります。

特に九十九里浜地域は初日の出のメッカとなっていて、渋滞ができるほど多くの人が訪れます。そして初日の出に合わせて各地の浜でイベントが行われています。

その他手軽に行ける初日の出としては、三浦半島の三浦海岸や城ヶ島、湘南海岸、東京湾に面した公園や羽田空港などには、アクセスの良さから多くの人が訪れています。

山梨県本栖湖(2008年) 初日の出の写真
山梨県本栖湖(2008年)

千円札に描かれている富士山です。
三脚がずらっと並んでいる様子に驚きました。

山に登って朝日を見ることを「ご来光を望む」といい、頑張って登って朝日を見ることは一年の始まりにふさわしいと感じる人も多いです。内陸部では山岳信仰の山、高尾山、御嶽山、大山、筑波山なども人気となっています。

また正月といえば富士山。箱根駅伝の影響か、正月に富士山を連想する人も多いようです。富士山と絡めた初日の出も人気となっていて、本栖湖や精進湖での初日の出、または朝日のダイヤモンド富士を求めて多くの観光客や写真愛好家が訪れています。

特に本栖湖からの富士山は千円札の裏側にもなっている風景で、初日の出のテレビ中継が行われることもあります。日本を代表する初日の出の一つとなるでしょうか。

富士山周辺へは高速道路で比較的アクセスは容易ですが、確実に氷点下の極寒の世界です。じっと初日の出が昇るのを待っていると凍えます。また多くの人が訪れるので渋滞や駐車スペースを見つけるのが大変だったりと、それなりの覚悟と対策が必要です。

広島県野呂山(2016年) 初日の出の写真
広島県野呂山(2016年)

瀬戸内は島や橋や船の景色が美しいです。

4、日本一早い初日の出など

日本で一番早い初日の出は日本本土の最東端の南鳥島で、日の出時間は午前5時27分頃です。南鳥島は別名をマーカス島と言い、第二次大戦中に軍事基地になっていた島でした。サンゴがきれいな島ですが、一般の人は訪れることはできません。

実際に訪れることができる場所で考えると、南鳥島と同じ小笠原村の島々が一番早いことになります。小笠原村の父島で午前6時20分頃。南にある母島はもう少し早くなるでしょうか。

島ではなく本土で考えると、高いところからの方が早くご来光を拝めることから富士山の山頂が6時42分頃と一番早くなります。雪の積もった富士山の山頂からのご来光はさぞ美しいと想像できますが、現実的に一般の人は訪れることはできません。

ただ近年では初日の出フライトというのが行われていて、富士山上空の飛行機の中から初日の出を見ることができたりします。少しインチキかもしれませんが、このフライトの人たちが日本で一番早い日の出を見れることになるかもしれません(*一般のフライトは除く)。

千葉県犬吠埼(2014年) 初日の出の写真
千葉県犬吠埼(2014年)

地球の丸く見える丘展望館付近です。
渋滞していて中途半端な場所での日の出となってしまいました。

一般の人が訪れることができる場所でいうなら、午前6時49分と日本本土の最東端の北海道の納沙布岬が一番早いと思ってしまいがちですが、実は関東の最東端の銚子の犬吠埼の方が午前6時46分と少し早くなっています。

これは地軸と地球の丸みのためです。太陽は春と秋には真東から登り、夏には北東、冬になると南東から昇ってきます。地球は球体なので春と秋には東方向に、夏には北東方向に、冬には南東方向に日の出時間が早く、また日照時間が長くなります。

といったことから島や山頂を除けば日本で一番早い初日の出が見られる場所というキャッチフレーズの付いた銚子は、初日の出の人気スポットとなっていて、初日の出の時間前になると渋滞が激しくなり、ゆとりを持って訪れないとたどり着けないという場合があります。

千葉県清澄山(2007年) 初日の出の写真
千葉県清澄山(2007年)

あいにくの曇り空でした。
でも僧侶が念仏を唱えると、少し太陽が覗きました。

銚子の日本一早い初日の出に待ったをかけるのが、同じ千葉県の房総半島にある清澄山です。標高が高いと日の出が早く見えることになり、標高400m弱のこの清澄山が銚子よりも計算上は早いかもしれません。

といっても実際にはどうかわからないし、早かったとしてもほんの少しの時間差しかないので気持ち的な問題でしょうが、寒い中をわざわざ出かけるにはこういうこだわりこそが行動の原動力に必要な要素であるには違いありません。

ここ清澄山には日蓮宗大本山の清澄寺(せいちょうじ)があります。日蓮がここで修業し、各地での就業を終えて戻った後、早朝に旭が森に立ち、太平洋から昇ってくる朝日に向かってお題目を唱え、日蓮宗の立教開宗を行ったとされています。

旭が森には日蓮聖人の大きな銅像が建てられています。その下で初日の出を望むのが一般的ですが、日の昇る時間には僧侶が日の出る方向へお題目を唱えるので、少し厳かな気分で初日の出を迎えることができます。

広島県高谷山(2017年) 初日の出の写真
広島県高谷山(2017年)

三次の雲海スポットです。
雲海となるかは気象条件次第です。

この他、少し違った初日の出を紹介すると、雲海からの初日の出というのはどうでしょう。ふわふわの雲の中から現れる日の出は感動的です。

雲海は各地にある雲海スポットで運が良ければ見ることができます。晴れていれば見れるものではなく、気温や湿度が影響するので、普通の初日の出よりも難易度が高いです。

どちらかというと晩秋の方が条件がいいのですが、せっかくの初日の出に出かけるのなら雲海の出現にかけてみるのも新春の運試しみたいで面白いのではないでしょうか。雲海が見れなくても初日の出が見られたならきっとそんなにガッカリしないと思いますよ。それが初日の出というものです。

旅の雑学のエッセイ
一年の旅は初日の出から
風の旅人 (2020年3月改訂)

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