風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~
バイクのエッセイ

愛車を語る3
ブラックバード(CBR1100XX)

特に珍しいバイクを所有していたわけではないのですが、私のバイク生活とこれまで愛用してきたバイクを紹介しています。ここでは大型の免許を取得し、日本の各所を一緒に巡ったホンダのブラックバードを紹介しています。

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1、愛車4号 ブラックバード

晴れて大型免許を取得した後、バイクを探してバイク屋を回りました。雑誌やインターネットなどで色々と情報を得て、最初はアメリカンタイプの大きなやつを買おうと決めていました。

形はやはり愛着のあるカワサキのバルカンが一番しっくりきます。バルカンの最上位車種であるバルカン1500を中心に店を見て回っていたのですが、リッター10キロと燃費の悪さが悪印象。長距離を走る事の多い私には車並みの燃費の悪さでは不経済で仕方ありません。

それと実際にまたがったときの感触がいまいちしっくりときませんでした。タンクが低く、平らすぎるのがその原因で、急ブレーキをかけたら体が前に移動してしまいそう。後10cmタンクの位置が高かったらな。燃費がせめて15キロあればな。高い買い物なので、慎重になってしまいます。

他のメーカーのアメリカンにしようかな。でもデザインが・・・などと色々と物色していたら、展示してあったホンダのブラックバードが気になり始めました。私のバイクライフはツーリングがメイン。ツアラーと呼ばれるタイプのバイクもツーリングするには良さそうだ。ちょっとの間NSRに乗っていたので、カウル付きのバイクにもあまり抵抗がなくなっていました。

う~ん、どうしよう。アメリカンも捨てがたいしな。でも燃費がバルカンに比べたら随分といいし、何よりアメリカンと比べるとスピードが段違いなのも魅力だ。なんせメーターの目盛りがありえないことに320キロまでついている・・・。どっちにしよう。えいっ、これにしてしまえ。ある店に展示してあった中古車を衝動的に買ってしまいました。これが私の愛車4号となるブラックバードとの出会いでした。

納車日にバイク屋で撮った写真
納車日

バイク屋の人と一緒に納車記念。

ブラックバード。正式名称をホンダCBR1100XXといい、排気量が1100㏄のバイクです。国内仕様と、海外仕様があり、国内仕様だとスピード制限が180kmとなっているのですが、海外仕様では無制限。スピードメーターも時速320kmまで目盛りがついています。どっちを買おうか・・・と、迷うまでもなく、スピードは出るに越したことはないと海外仕様の逆輸入車の方を購入しました。

一体時速300kmとはどういうスピードなのだろう。レースや新幹線の世界だな。しかし現実問題として時速300kmなんてどこで出すんだ。時速100kmの3倍速だぞ。そもそもそんなスピードを素人が出せるものなのか。

普通に考えてそんなスピードは無用の長物というか、出なくて構わないというか、出たら危険極まりないのですが、320キロまで目盛りが刻んであるスピードメーターがとてもカッコいいし、スピードが出ることで色々幅が広がりそうだし、新幹線並の320キロまで出ることが自慢になるしと、とまあ色々な理由を考えつつ決めました。

なんて言うか、やってはいけない誘惑いうか、怪しい魅惑というか、禁じられた魅力が時速300キロ出るバイクから漂っていました。

大観山の駐車場で撮った写真
大観山の駐車場で

すぐにアップスクリーンにして、リアキャリアを付けました。

2、ブラックバードに乗ってみて

実際に乗ってみた感想は、でかい!重い!につきます。もちろん試乗して購入したので、それは分かっていたのですが、日常で取り回していてそれを感じない事はありません。昔乗っていたバルカンも重かったのですが、バルカンは重心が低く、足もべったりと地面に着いていたので、取り回しは慣れると楽でした。

しかし、このブラックバードは重心が高いので、なかなか厄介です。バイクを降りて押しているときにちょっとでも反対側に体重がかかると、バランスを崩してヒヤッとします。特にガソリンタンクの位置が高いので、満タンにしている時には要注意です。

Uターンする時にもハンドルの切れ込みが大きく、何度も転びそうになりました。最近ではみっともないけど、バタ足で確実にUターンしていたりします。取り回しの点ではアメリカンのほうが楽だと感じました。

ブラックバードの写真 ブラックバードの写真
ブラックバード

当時としては特徴的なヘッドライトと
リアのテールランプをしていました。

町乗りでは、やはり車体が大きいので色々な場面で苦労します。小回りが利かないので狭い路地に迷い込んだりすると一度降りてバックしたり、ちょっと停める際にも場所を選びます。下り坂に頭から突っ込むものなら自力で脱出不能になってしまうこともあるので、これには一番気を使いました。

また足つき性がよくないので、信号待ちばかりしていると足が疲れるし、エンジンが大きい分、発熱が多く、ノロノロと走っているとバイクのフレームまで熱くなってきます。夏に渋滞にはまったりすると、太ももが火傷するほどです。

一方、峠では強烈に加速するバイクなので頑張れば速いには速いのですが、ブレーキングやコーナーでは車体の重さにてこずります。切り替えしで思わず「よいしょ」などと掛け声をかけたくなるほどです。曲がりそうな形はしていても、思うほど曲がらないバイクなのかもしれません。もちろん私自身がそんなに峠を攻めたりするのが好きではないので、そう感じるだけかもしれませんが・・・。

海とブラックバードの写真
海とブラックバード

広々とした風景がよく似合います。

得意な分野は長距離のツーリング。特に緩やかなワイディングや高速道路などといった速度変化がない場面ではとても気持ちよく走れます。パワーに余裕があるので、アクセルワークが少なくてすみますし、高速での直進の安定感は抜群です。

世の中の高性能化の中で、各社最高速を争った時期に生まれたのがブラックバードです。峠を攻めたり、町を便利に乗るために造られたバイクではないので、色々と欠点はありますが、長距離を走るツーリングにおいてはとても乗りやすく、完成度の高いバイクだと思います。

しかしながら排気ガス規制などによって2008年には生産中止となり、今では絶版車となってしまいました。排気ガス規制がなかったとしても、車種が豊富なホンダのラインナップの中では最高速番長という肩書だけではやっぱり立ち位置的には微妙なので、絶版となるのもしょうがないところでしょうか。

屋久島とブラックバードの写真
屋久島とブラックバード

頑張って東京から屋久島まで行ってきました。

メカニカル的な部分では、燃費の方は状態のいい時で、ツーリングが19キロぐらい、町乗りが15キロ弱ぐらいでした。年を重ねるといまいち安定しなく、同じような感じのツーリングでいいときは19キロいけば、15キロぐらいのときもありました。

寒くなったりするとインジェクションが安定しなく、始動してしばらくするとエンジンが止まるといったことが起こっているので、古くなったインジェクションの影響かなと思ったするのですが、どうなのでしょう。

一番弱いと感じているのは電気関係。初期型はレギュレーター(発電機)が弱く、この型では改良が加えられたのですが、私も8万キロぐらいの時に一度交換しています。

インジェクション自体もインジェクションが登場して間もない頃のものなので、電気消費量が大きく、ちょっと不安定な印象。スイッチ類の配線や接触を含め、電気が通わないと動かないインジェクション車なので、もう少し電気関係がしっかりしていればなと思うことが多かったです。

その他はベアリング、特にハンドルのベアリングがよく壊れるのが厄介でした。アップハンドルにしている影響があるのか、ないのかわかりませんが、3度壊れ、結構痛い出費となりました。

消耗品関係は乗り方次第なのでなんとも言えませんが、タイヤもツーリングタイヤを履けば、前が15000キロ、後ろが20000キロ以上はもっていたし、ブレーキやチェーンも2,3万キロ交換しなくてもいいしと、バイクの剛性がしっかりとしているせいか、大きなバイクの割には意外と経済的でした。

熊野古道とブラックバードの写真
熊野古道とブラックバード

山の景色にもよく似合いますが、
車体が重いので悪路はあまり得意ではありません。

3、バイクから引退

バイクは乗っていて楽しいですね。風をまともに受けるのも気持ちがいいし、体とバイクを傾けて一体となってコーナーを曲がっていく感じも好きです。

敏感な手でアクセルを調節し、体全体でバランスをとって動かす乗り物なので、人馬一体という言葉がふさわしいですね。そして運転している人が主役と感じる乗り物でもあります。

私にとっては旅の相棒としてバイクは手放せない存在でしたが、東京から広島に引っ越すと、目的地へ着くまでの渋滞や、目的地での駐車場の心配をほとんどしなくてもよくなり、積載力のある車を利用することが多くなりました。車だと使うかわからないカメラ道具もとりあえず載せておけるし、着替えや傘なども邪魔にならないし、毛布を入れておけば、朝早く出かけたとしても途中で仮眠できます。

一度そういう便利さに慣れると、「天気が悪そうだから・・・」、「今日は暑いから・・・」、自分に言い訳をしながら車に乗っていたりします。

更に悪いことに車がハイブリッド車なので燃費がリッター当たり25キロとブラックバードよりも10キロ近くもいいのです。バイクのメリットが・・・、立場が・・・と、なかなかバイクには厳しい現実です。

ツーリング仲間がいなくなったのも乗らなくなってしまった大きな要因でした。定期的に出かける仲間がいないので、それに合わせて整備したり、見栄のために洗車したりと愛情をこめた手入れをすることがほとんどなくなってしまいました。

ブラックバードのメーターの写真
ムンクの叫び状態

バイク乗りが絶叫する瞬間です。
メーターの6桁全部が動くのは次の瞬間だけです。

それでも時々気が向いたときに乗るといった感じで維持していたのですが、視力が非常に悪くなり、バイクを乗るのに色々と支障が出るようになってしまいました。

最初から眼鏡をかけてバイクに乗っていたのですが、視力が悪くなるにつれ、これはやばいなと命の危険を感じる場面が多くなりました。

一番怖いのが眼鏡の曇りです。急な雨の時、また湿度が高い時や寒暖差がある時期にトンネルを入った時に一瞬でヘルメットのバイザーが曇るときがあります。空気を入れるためにバイザーを少し開けて対処するのですが、眼鏡まで曇ると全く見えなくなってしまいます。

視力の低下とともに光に敏感となってしまい、夕方から夜にかけては対向車のライトがまぶしかったり、バイザーと眼鏡の間で乱反射するようになりました。そうなると路面が見えにくく、轍などでバランスを崩し、車線から飛び出しそうになることもありました。転倒することのない車なら同じような場面でも対処は出来るのですが、バイクだとそのまま命の問題になってしまいます。

そして一番は眼底疲労というやつで、ヘルメットの中に眼鏡をかけるのですが、顔と連動して眼鏡が動くだけではなく、ヘルメットが風圧や振動で揺れるのに合わせて眼鏡が微妙に動いてしまいます。昔はそこまで気にならなかったのですが、目が一段と悪くなってからは長時間乗ると、長い時間パソコンで作業していた時のように目の奥が痛くなり、次の日に痛みが残って生活に支障がでることもありました。

一緒に走りに行けるバイク仲間も近くにいなくなってしまったし、目のことで危険を感じることが続いたし、車検が切れるし、この辺りが潮時かなとバイクから引退することにしました。

友人のブラックバードとの写真
友人のブラックバードと

派手に転倒した友人のブラックバードは、
気が付いたらピンクバードになっていました。

購入したのがレッドバロンだし、ずっとオイル交換や車検をここでやってもらっていたし、オイルリザーブも残っていたので、何の迷いなくレッドバロンに持ち込みました。

いくらになるだろう。走行距離がかなりいっているので気持ち程度の金額しか期待していませんでしたが、「う~ん、値段は付けられませんね。」という衝撃的なものでした。こういう展開もあるかなと少し覚悟はしていましたが、実際に言われるとショックですね。

聞くと、走行距離が8万キロぐらいになるともう値段がつかないそうです。1年ぐらい前からほとんど乗っていなかったので、もっと早く売ってもよかったなと思っていたのですが、走行距離が13万キロを越えていたので、そういうレベルではなかったようです。

レッドバロンでバイクを購入すると会員証のマイツーリングパスポートがもらえます。整備手帳代わりにもなっていて、その中にはオイル交換の履歴があるのですが、私のは書き込み欄が足りなくなり、増補のページが2ページも付いているといった立派なもの。「なんですかこれ。こんなの初めてみました。ここまで長く乗る人も珍しいですね。」と店員の方がたまげていました。

結局、処分料無料といった粗大ごみのように引き取られていきました。他のバイク屋に持っていったり、使えるパーツをバラしてオークションで売るなどといった方法はあったかもしれませんが、廃車手続きや残った部品の処分などといった手間を考えると、一気にすっきりさせたかったです。家にだらだらと置いておくと未練が残りそうだし・・・。

乗っていた本人からするとまだまだ走れる感じだったのですが、このバイクは中古車用として販売はしなく、部品取りにするとの話でした。まあよく考えれば13万キロ近くのメーター表示があるバイクをわざわざ買う人もいないですね・・・。

そして月日が流れ、最初はバイクがないことに寂しさを感じていましたが、今ではバイクがないのが当たり前になってしまいました。もう乗ることは・・・どうなのでしょう。ごくまれにブラックバードを見つけるとバイクに乗っていた日々がとても懐かしく感じます。

HONDA CBR1100XX SuperBlackbird(スーパーブラックバード) ・1999年仕様
エンジン:水冷4サイクルDOHC4バルブ直列4気筒 排気量:1137cc 最高出力:164ps/9,500rpm 最大トルク:12.7kgfm/7,250rpm 変速機:常時噛合式6段リターン 車体寸法:全長2.16m、全幅0.72m、全高1.20m、乾燥重量:223kg

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愛車を語る3 ブラックバード(CBR1100XX)
風の旅人 (2020年3月改訂)

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