風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~
バイクのエッセイ

愛車を語る1
バルカン400(kawasaki)

特に珍しいバイクを所有していたわけではないのですが、私のバイク生活とこれまで愛用してきたバイクを紹介しています。ここではバイクに乗り初めるきっかけや最初に乗ったカワサキのバルカンを紹介しています。

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1、バイクに乗るキッカケ

私がバイクに乗り始めたのは大学生になってからでした。バイト先の人が乗っていて、これは移動に便利だし、かっこいいぞと欲しくなったのがバイクに興味を持つきっかけでした。

もちろんただ格好良さに憧れただけではなく、バイクなら機動力と行動範囲が広がり旅のパートナーに持ってこいだと考えたからです。

バイクに乗るまで私の旅は鉄道が中心で、しかも切符代が高いので各駅停車の乗り放題ができる青春18切符での旅ばかりでした。それはそれで面白く、時刻表を調べたり、各駅停車ならではの風情は好きだったのですが、夏休みを中心とした長期休暇の時期しか切符が売っていないし、各駅停車なので好きな時間に好きな場所に効率よく行けないといった制約が多いものでした。

高校生の時にはそんなに不都合は感じなかったのですが、比較的時間の融通が利く大学生になってみると、もっと手軽に旅に出たいと思い始めました。たとえば朝早くにふと湘南の海に朝日を見に出かけたいと思った時、電車では難しいものです。そういった当てのない旅をするにはバイクというのは理想的に思えたのです。

すぐにでもバイクの免許を取ってバイクに乗りたかったのですが、当時の免許制度は理不尽な制度となっていて、車の免許を取ってから自動二輪免許を取らないと、同じような学科の授業を2度受けなくてはならないといった金銭的にも時間的にも不利なものでした。簡単に書くなら、バイクの免許は車よりも下位であって、上位互換ができなかったのです。

どうせ車に乗る機会なんてほとんどないのだから先にバイクの免許を取ってしまい、大学を卒業するまでに車の免許をとればいいや。そう思いつつも、いずれ車の免許を取るのは確実だから・・・と考えると、なんだか損な気分。

やっぱり先に車の免許を取ったほうが将来的にも金銭的にお得ではないか。無駄に教習所に通ったり、お金を払うのは「もったいない」。そう、私は典型的な日本人らしく貧乏性の性分なのです。目先の損が強調されることは非常に嫌なのです。

実際のところはどっちが得だったのか、損だったのかは分かりませんが、まずは車の免許を取るべくバイトに精を出す事にしました。

バイクに乗るのが少し遅くなってしまうけどしょうがない。その分、教習所の待ち時間などに地図を見ながら日本中をバイクで走れたらな。いや世界中を旅できたら面白いだろうなといった感じで、バイクで旅をする未来のことに夢膨らませていきました。

JOGとDOGの写真
JOGとDOG

最後の方は自分でスクーターに色を塗って楽しんでいました。

2、愛車1号 YAMAHA JOG

バイクの免許を取る前に車の免許を取ることにしたのはいいのですが、現実的な問題として、車の免許を取った上でバイクの免許を取り、更にはバイクを買うことを考えると、ちょっとバイトしたぐらいではお金が足りません。

親戚から大学の入学祝をいくらかもらいましたが、そんなものでは到底足りませんし、ローンを組むにしても収入が不安定な大学生だと大きく借りることが出来ません。何より学生時代から学生の本分以外でローン地獄になってしまうのも・・・あまりいいことではないのは確かです。

バイトに力を入れて稼ぐしかないな。でも免許は取得まで時間がかかり、お金が溜まってから取り出しては貴重な学生時間が無駄に消費されてしまいます。免許に関しては学生用のローンが組みやすいのもあり、ローンを組んで教習所に通うことにしました。

教習所のローンを払いながらバイク代をなんとかしなければ・・・ということで、大学の授業と部活とバイト2件の掛け持ちと、恐ろしく忙しい生活を送ることとなりました。

大学やバイト先には自転車で通っていたのですが、教習所まで加わると移動が多くて大変。しかも結構きつい坂があるので、足のしんどいこと。これでは体がもたない・・・。

次のスケジュールに遅れないかと冷や冷やするのも嫌だし、それならば原付のスクーターを買おうではないかと思いつきました。大学の入学祝はまだ使っていなかったのでそれを使えばいい。原付の免許を取り、近くのバイク屋でセールとして売り出されていた型落ちのヤマハ「JOG」を購入しました。これが私の最初の愛車となりました。

この当時のスクーターは2ストエンジンが主流で、ヤマハのJOGとホンダのDUOが毎年性能アップや、デザインを競い合い、値段も手ごろだったこともあって人気を博していました。

排気量は違えど、一応二輪車、バイクだ。そう思って乗り始めたものの、やはり原付は原付。30km制限、二段階右折にどれだけジレンマを感じることか。信号待ちで隣に並ぶ大きなバイクにどれほどあこがれたことか。

それでも二輪車に乗っているといった喜びは大きく、原付で遠出をしたり、友人と夜中にラーメンを食べ歩きに出かけたり、プチ旅と海の方へ出かけてみたりと原付ライフを楽しみました。

このJOGの凄いのは加速がいいことです。車体が軽いのもあって50㏄ながら信号待ちからの5mぐらいまでは無敵と思えるほどロケットスタートを決めてくれます。排気量が少ないのでその後の伸びも、最高速も出ませんが、出だしだけは異常に速かったのが今でも強烈な印象として残っています。

でもその分油断するとフロントが持ち上がってしまい、ヒヤッとするようなことも多々。この点だけは最後まで慣れませんでした。

何度か転んだりして最後は色を塗ってオリジナルJOGにしていました。私的にはベネトンカラーをイメージしていたのですが、センスが良すぎたのか、なかなか周囲にはそう見えることはなく、いまいち不評でした。でも目立つ存在だったのは確かで、駐輪場に停めていると学校にいるのが一発で分かってしまいました。

原付は大学を卒業後に使うことがほとんどなくなったので後輩に譲りました。これを書きながらまだJOGは売っているのだろうか・・・。と、久しぶりにヤマハのサイトを見てみると、現在では2ストエンジンの廃止や環境対応とともに50㏄でありながら4ストのフューエルインジェクション付きのエンジンと、これが原付なのか・・・と昔のJOGのイメージで止まっている私の感覚ではありえない仕様と価格になっていました。

バルカンの写真
朝の町を行くバルカン

写真家を目指す友人が撮ってくれた写真。

3、愛車2号 バルカン

めまぐるしく大学とバイト先を原付に乗って移動し、バイクへの憧れを持ちながらバイトと学業を頑張り続けました。そして夏から通い始めた車の免許を冬に取得し、終了後に次の教習を申し込むと割引が効くのですぐに自動二輪の免許の申し込みをしました。

教習には学科がほとんどなく、実習ばかりなのですぐに取得できるだろう。車と違ってバイクは小さいから車幅や取り回しが簡単、簡単。といった最初の目論見は外れ、重い車体をバランスを取りながら乗るのが思っていたよりも難しく、なかなか自転車や原付のようにひょいといった感じでUターンなどができなく、四苦八苦しました。

早く取りたいという焦りもあり、検定で不合格という憂き目にも遭いましたが、なんとか1年生が終わる頃に晴れて自動二輪の中型免許を取得できました。

これでやっとバイクに乗れる。どのバイクにしよう。昨年から色々とバイク雑誌を眺めながら勉強し、上野のバイク街を訪れて現物にまたがったり、話を聞いたりしながら最終的に私が選んだのはカワサキのバルカンでした。400㏄のアメリカンタイプのバイクです。

今は世間ではアメリカンタイプのバイクが大人気です。各メーカーとも売れ筋のアメリカンに力を入れていて、今年は斬新な新車が何台も登場しました。どの雑誌でもアメリカンの特集を組んで紹介し、ブームを煽っている状態。

そのブームに乗ってアメリカンを選んだと思われるのはシャクですが、重心が低く、ハンドルが高い位置にあるチョッパースタイルの格好良さに惚れたのも事実でした。それに旅とつなげて考えるなら、アメリカンタイプは長距離を走っても疲れないライディングポジションだし、荷物の積載性もいいので実用的です。

更に自分の車の運転から考えると結構飛ばしたがる性格をしていそうなので、事故を防ぐためにスピードが出ないバイクというのはある意味リミッター的要素を含んでいていいかもしれない。そしてまだ発売されたばかりというのも魅力的でした。

そういった事を考慮して足りない分はまたローンを組んで・・・と思ったら、学生は二つのローンを組めないようで、既に車の免許のローンを組んでいたので審査に通りませんでした。免許のローンが終わるのが夏。それまで待っていられない。時間は金なり。とまあここは人生の中でも頑張るところだと判断し、親を説得し、無担保、無期限、出世払いで借りることに成功しました。

一番最初のツーリングでの写真
一番最初のツーリングで

まだ何もいじっていない状態です。

いくつかの店を回って、乗り出しの値段が安く、納車が早い店で私にとっての愛車2号となるバルカンを購入しました。納車されてから1ヶ月間はうれしくて頻繁にあてもなくバイクに乗っていました。なんて気持ちのいい乗り物なんだろう。さすがに原付スクーターと違ってずっしりとした存在感があります。

それに4輪車と違って走っているぞといった実感がわくのもいいです。なんていうか、四輪の場合だと箱が動いているといった感じなのが、二輪だと自分がマシンと一体となって動いているといった感じなのです。とにかくバイクの虜になってしまいました。

それに乗り始めの頃は珍しいバイクだったのでかなり目立ち、ちょっと鼻が高い状態だったのも所有感を満たしてくれました。信号待ちなのでなんてバイクですか?とか、スタンドで給油しているときに大きなバイクですね。排気量は?などと聞かれるとうれしいものです。このバルカンは400㏄と800㏄が同じ大きさだったので、結構車体が大きいのです。

アメリカンブームも後押しし、ちょっとはましな格好をして乗った方がいいかも・・・とちょっと調子をこいて、アメリカンらしくブーツを買ってみたり、アメリカンなら改造だろう・・・と、マフラーを換えたり、鞄を付けたりと、バイクをいじるのもなかなか楽しく、おかげで乗り始めた一年目はバイト代がバイクにどんどん羽ばたいていきました。

最初の夏ツーリングでの写真
夏のツーリング中

最初にマフラーを交換しました。

4、バルカンに乗ってみて

バルカンに乗ってみて思ったのは、バイクの初心者ということもあって、とにかく重く、取り回しが非常に大変だという事でした。シートが低いのでまたがっているときには足がべったりと地面に着き、安定するのですが、降りてから押したりしているときに何度かバイクを倒してしまいました。いわゆる立ちごけというやつです。

1年近く原付に乗っていたとはいえバイクに乗りたての素人に、この重さはしんどかったです。世の中ではステップアップという言葉があるように、やはり段階的にレベルアップしていくのがバイクでも理想的だなと感じました。でも大きなバイクに憧れるのは必然でしょうから、この部分は痛い目に遭いながら自分が成長していくしかないのでしょう。

バイクを倒すと傷が付いたり、へこんだりといいことがないのですが、バルカンの場合は厄介なことに足を置くステップ部分がほぼ確実に折れてしまいます。部品を交換しなければならないので、痛い出費になりますが、何より出先でやってしまうと、走行中に足を置く部分が無くなるわけで、走るのが困難になります。ツーリング先でやってしまった時には応急的に車載工具のドライバーを差し込んで帰ってきたことがあります。

2年目のバルカンの写真
2年目のバルカン

ツーロング用に鞄などを揃えました。

加速、最高速などのスピードに関しては、アメリカンの宿命ってやつで、他のバイクと勝負にはなりません。大学のバイクサークルに所属していましたが、ツーリングの最中に他の人がバヒューンと飛ばした時に、頑張ってアクセルを回しても追いつけません。

峠などでも頑張って他の人についていこうとすると、コーナーでガリガリとステップを擦ってしまいます。ステップは少々擦っても大丈夫なように設計されているので、乗っている方としてはそんなに気になることではないのですが、「お前の後ろを走ると火花が飛んでくる!」とよく言われました。

メーターの目盛りも140キロまでしかないので、こういうバイクに乗っている時点で、飛ばそうとか、コーナーを攻めようとかいった発想を持つべきではないのでしょう。

一応最高速はエンジンの調子がいい時で160km程度まではでるようです。しかしスピードはともかく、このバイクの問題点はブレーキが利かない事です。これはスピードを出していると怖いです。それに足を前に出して乗るスタイルなので、スピードを出し過ぎると風圧で足のブレーキを踏み込めなくなります。

といった感じでスピードを出すにはふさわしいバイクではなく、スピードを出したい人はスピードを出しやすいタイプのバイクを選んだほうがストレスなく乗れます。バルカンに限らず400ccのアメリカンはアクセルワーク、エンジンの振動などを含め、100kmぐらいまでのスピードでゆったりと走る方がいいようです。

4年目のバルカンの写真
4年目のバルカン

ウインカーを変えてみたり、小さな変更を行いました。

アメリカンといえば改造も醍醐味です。最初の頃はあれを変えて、次にこれを変えてと夢中になったものです。雑誌や街を行くバイクなどからヒントを得て、色々と改造の夢を膨らませていきました。

お金のある人ならハンドルはこうで、リアはこうで、全体的にはこういう感じでアレンジしてくれとショップに任せて改造を行うのでしょうが、学生にそんなまとまったお金はありません。それにバイクばかりにお金をかけるよりも若いうちは多くバイクを走らせ、多くの風景を見たり、町を訪れるほうが有意義に違いありません。ということで少しずつ気に入ったパーツを買い、先輩や友人に取り付け方を聞いて自分で取り付けていきました。

色々な改造で個性を出せるのがアメリカンの良さでもありますが、私の改造の基本は乗りやすさでした。車高を下げたり、シートのスポンジを抜いたりするのは、長距離を走るのに疲れます。ハンドルにしても高くすれば肩が疲れますし、広げればすり抜けがしにくくなりますし、変わった形のものはコーナーでのハンドリングを不安定にします。

ミラーを小さいのにするとかっこいいのですが、後方の視界が狭くなり、白バイの餌食になりやすいです。色々と利便性を追求していくと、外見が少し変わる程度で、基本的な部分は標準が一番という結論に至りました。

5年目のバルカンの写真
5年目のバルカン

この頃には手を加えることはなくなっていました。

大学を卒業した後は一時期通勤にも使っていました。ツーリングと違って通勤の利用だと毎日混雑した道を停まったり、動いたりとバイクに負担がかかり、エンジンはまだまだ元気でしたが、ギア関係を中心にあちこちガタがき始めていました。

走行距離は5万キロを超え、このまま乗り続けて10万キロは走るつもりにしていたのですが、2000年から2年近く日本を離れる事になったので、やむなく売ることにしました。その頃には家の前に置いていていたずらをされるなど、バイクも傷だらけの状態。走行距離もかなりいっていたので、たいした値段になりませんでした。

思えばこのバイクで色んな土地に行ったな。乗り始めてから5年の付き合いか。自分にとって最初のバイクだったので、愛着もなかなかのもの。ドナドナド~ナ♪といった気分でした。その後、他の人に可愛がってもらえた事を願っています。

バルカンが登場したころはアメリカン自体がまだ珍しかったので、走っていて随分と鼻が高かったものです。それがアメリカン自体がありきたりとなり、更には気が付かないうちにこの型のバルカンは絶版車になっていました。

振り返ってみると、乗っているときは400㏄なのに800㏄と同じ車体と大きいのが誇らしく感じましたが、後から考えると無駄に大きかったなというのが、率直な感想でしょうか。やはりそれ相応の大きさ、ホンダのスティードぐらいの大きさでよかったのかなと思えます。

Kawasaki VULCAN
エンジン:水冷4サイクルOHC4バルブV型2気筒  排気量:399cc  最高出力:33ps/8,500rpm  最大トルク:3.3kgm/4,500rpm  変速機:湿式多板5段  車体寸法:全長2.360m、全幅83.5cm、全高1.175m

バイクのエッセイ
愛車を語る1 バルカン400(kawasaki)
風の旅人 (2020年3月改訂)

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