風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~
異文化のエッセイ

旅のちょっと臭い話(トイレ事情)

海外へ出て困ることの一つがトイレです。ここではトイレにまつわるちょっと臭い話を書いてみました。

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1、清潔好きな日本人が海外で困ること

日本は世界的に見ても清潔な国で、国民も清潔好きと言えます。お風呂も毎日入らないと気持ち悪いという人も多く、海外の人から見たら清潔過ぎると感じる事もあるようです。とはいうもののこれは一般論であって、こういった習慣はそれぞれの性格によるところが大きく、日本人だから清潔な人ばかりとも限らない・・・、というのが実際のところでしょうか。

でも総じてきれい好きの人が多いというのが一般的な認識で、実際に海外の町を歩くと、日本以上に体臭が気になることが多々あり、また匂いのきつい香水で体臭をごまかす人も多く、鼻の利く私は匂いで結構しんどい思いをすることも多かったりします。そう考えるとあまり日本人は匂いがしない人種とも言えます。まあ存在感や個性がないという意味でも無色無臭な人種という表現がふさわしく感じることもありますが。

そういったきれいで清潔な環境に慣れている日本人旅行者が、海外へ出て戸惑うことは多々あります。その筆頭にあげられるのがトイレとなるでしょうか。お風呂大好きな日本人にとって海外へ出るとお風呂が入れなくて困るという話はよく聞きます。ただ、お風呂の場合はいいホテルを選ぶなり、短い期間なのでシャワーで済ましてもそんなに精神的負担になりません。

しかしながらトイレの場合はそうはいってもいられません。そこそこ高級なホテルのトイレはきれいなので、自宅と同じように使用することが出来ますが、観光に出てしまうと外でするしかありません。一日一度、しかもホテルでしか利用しないお風呂とトイレの違いです。

日本の場合だと社会的にインフラが整備され、無料の公園のトイレでさえある程度きれいに保たれていたりします。そういった事が当り前だと感じて町中の公園のトイレに入ると、・・・何これ!と顔を背けたくなるような汚さだったり、或いはトイレを使用するのにお金がかかったり、或いは扉がなかったり、こんな所じゃ用を足せないと焦ることもあります。そして改めて日本はトイレに恵まれている国なんだなと実感します。

古代ローマの公衆便所の写真 旅の情景スケッチ
古代ローマの公衆便所

なんでも社交場だったとか・・・
場所が場所だけにちょっとうさん臭い話でもしていたのでしょうか。

2、海外では有料トイレが当たり前

先進国、特に欧米を訪れる場合、比較的トイレ自体には困らないかもしれません。特にツアーの場合には日本人の性格をよく知っているガイドが付くので、トイレが清潔なレストランが食事の場所として選ばれたり、どこでどこのトイレを使えばいいといった事が予め決められているので、トイレについては特に印象なく帰国することが多いかと思います。

しかしながら個人旅行の場合には、有料トイレというものに悩むことになります。公園はもちろん、駅やバスターミナルなどの公共の場、国や地域によってはマクドナルドでさえ有料といった場合もあります。トイレは無料が当り前といった感覚のある日本人にとって一回使用ごとに100円前後(1ユーロ、1ドルといった単位が多い)払わなければならないというのはちょっと悩んでしまいます。

その分、トイレは比較的清潔に保たれ、係の人がいるので治安的にもまあ安心できるのですが、これぐらいの清潔さなら日本では当り前と考えると、なんか割り切れない感じがするものです。そして海外へ行ったら我慢する癖が付いてしまったという人もいたりします。まあ郷には入れば郷に従えという言葉にあるようにチップと一緒でこういう文化なんだと切り替えるしかありません。

もちろん無料で使用できるトイレもありますが、トイレというのは人目に付かない場所であり、結構治安的に問題が起きやすい場所でもあります。トイレの100円をけちったために財布やカメラを盗まれたといったことになる恐れもあります。そういう意味では有料トイレは保険的な安心料と考えれば若干気持ち的に納得できるでしょうか。一応貧乏旅行者は町中にある高級ホテルに入ったり、ショッピングセンターを利用したりして出費を抑えていますが、あまりケチケチしているとトイレに振り回される旅行になってしまいます。

現在の日本では昔からあった和式の便座よりも腰掛けて用を足せる洋式便座の方が多くなっていますが、海外でも洋式便座は広く普及しています。しかしながら日本のように公衆便所なのにウォッシュレットが付いていたり、便座が暖まるような機能が付いているといった贅沢仕様なトイレはまずありません。便座が付いているだけましといったところもあり、腰を浮かせて用を足さなければならなかったり、トイレットペーパーがなかったり、扉がなかったりとその使用には色々制約が多いのが実際のところでしょうか。

特に配水管が細いアジアや南米などではトイレットペーパーを流すことの出来ないトイレが多く、便器の横に籠が置いてあり、そこに使用した紙を捨てなければなりません。いつもの感覚で用を足して、無意識のうちに便器の中に紙を捨ててしまい慌てることも多々あります。又中途半端に紙は少しだったら流せるけど、多く流すとすぐに詰まってしまうといった国や地域もあり、日本と同じ感覚でトイレットペーパー使用すると詰まらせてしまったといった事もあります。

3、カルチャーショックを受ける手式ウォシュレット

近年、日本では電動のウォシュレットが付いたトイレが人気で、公共施設などにも取り付けられていたりします。この電動ウォシュレットの原型と呼べるのか分かりませんが、フランスなど南欧では昔からビデというものが便器の横に置かれていることがあります。蛇口が付いた便器みたいなもので、排便後にこちらで洗ったり、性行為前後に洗ったりするのに使われます。

実際に見ると、何でこんな所に低い洗面台があるのといった感じです。だからそういった文化のない国の人たちはこれで顔を洗ったりと地元の人が見たらビックリするような使い方をしてしまうようです。このビデには笑えるような笑えないような話が多くあります。

また、いわゆる手動というか、手式ウォッシュレットの地域は多くあります。手式ウォッシュレットとは便器の横にある桶に水を汲んでそれを右手に持ち、水をかけながら左手でお尻を洗うといったものです。東南アジアからインド、中東、アフリカにかけて見られるスタイルで、便器は和式に近い形状をしています。一度慣れればどうって事はないのですが、初めはなかなか勇気のいるもので、「もう左手デビューした?」みたいな感じで旅行者の話題となったりします。

手で尻を洗うなら紙で拭いた方がいいではないかと思うかもしれませんが、現地の人にしてみれば紙で拭くなんてこねくり回しているようで汚いとか、不衛生だと思っているようです。これは日本でウォシュレットに慣れた人も共感できるかもしれません。

それと日本ではあまり握手の習慣がありませんが、海外で握手は当り前の文化です。そしてトイレで使用する左手は不純の手ということで、左手での握手はタブーとされています。また、手で食べる習慣がある地域、インドやネパール、インドネシアなどではやはり左手を使って食べるのはタブーです。地元の人は器用に右手のみでカレーなどを食べていたりします。

ベトナムの水場の写真 旅の情景スケッチ
ベトナムの水場

ホームステイ先の水場です。
水はかめに溜めたものを使っていました。
トイレは横にあり、ただいま洗濯中です。

4、水洗ではないトイレ

下水道が普及している日本ではほとんどが水洗便所となっていますが、地方へ行くと未だにくみ取り式の便所を使用している所もあります。このご時世では五右衛門風呂のようにある意味新鮮な用足し体験ができますが、慣れないと匂いがきついのでたまりません。携帯電話などを落とそうものなら、水に濡れたどころの話ではありません。海の底に落としてしまった感じです。もちろんハエなどの虫もわきやすく、色々と大変です。

海外でもくみ取り式の場所、或いは垂れ流しになっているような所もあり、それが熱帯などの場合、恐ろしいほどハエがたかっていて、トイレに入ることすらままならないといったものもあります。基本的には東南アジアやインドなどでは宿のトイレに行くと、ゴキブリの一匹や二匹は覚悟しなければなりません。こういった虫が多いのも熱帯地域のトイレ事情だったりします。

日本で富士山が世界遺産に登録されることになりましたが、一度目の申請では駄目でした。その理由の一つにちり紙(ティッシュ)などがたなびく風景が見苦しいといった理由がありました。富士山の山小屋に設置されたトイレは排泄物をタンクにためて登山シーズン後に山腹に投棄という処理方式が行われていました。冬の間に雪が積もり、春になると溶け、その時に排泄物も処理されるといった訳なのですが、ちり紙などは処理されずに残ってしまったというわけです。現在ではバイオトイレといった環境対応型のトイレが設置され、ティッシュが雪のように斜面を埋め尽くすといった光景は解消されました。その代わり使用料200円がかかります。

このように水の不便な地域、自然の中でのトイレといった場合、人間の排泄行為が環境に悪影響を与える場合があります。ティッシュは確かに便利なものですが、環境を考えるとやたらめったら使用すべきものではないようです。使用したら燃やすのがエチケットなどと書かれたものもあります。ティッシュ以外にお尻を拭くものとして、ジャングルなどでは木の葉っぱ、砂漠では灼熱の太陽で消毒された砂が使われたりしているのは生活の知恵というやつでしょうか。これもなかなか真似できるものではありませんが・・・。

自然の中に排泄物を循環させている地域は今でも多くあります。例えば浜辺。東南アジアの辺鄙な浜辺を歩くと時々波打ち際で排便をしている人に出会います。排便後は海水で洗ったり、便も満ち潮と共に海へ帰っていくといった感じです。水上にある水上集落ではそのまま海や川に垂れ流しといった場合が多く、中には川に浮かんだトイレといった珍しいものもあります。

これは筏に小部屋が造られ、中に入ると真ん中に穴が開いていて、そこに排泄物をし、そのまま川の水でお尻を洗うと行った、原始的な水洗便所です。四角い穴にまたがると筏の下で待機していた魚が集まってきて、排便をするとそれをぱくぱくと食べ始めます。魚に下から見られながらトイレを行うのも変な感じですが、何よりこういった魚が漁師に捕獲され、市場に並んでいると考えるとちょっと微妙です。昼間はまだいいのですが、夜になると足下が暗くて危ないし、何より川の仲からワニとか、伝説の大ナマズとかが出てきて、尻をかじられないだろうかと心配になってしまいます。

川に浮かぶトイレ 旅の情景スケッチ
川に浮かぶトイレ

トイレだけ川沿いにある地域もあります。

川沿いにあるトイレの様子 旅の情景スケッチ
川沿いにあるトイレの様子

トイレのそばで洗濯したり体を洗ったりしていました。

5、トイレは貴重な思い出となることも

一般的な人が砂漠やジャングルで用を足すということはまずないかと思いますが、海外に出るとトイレで不便な思いをする可能性は十分あります。そもそも海外へ出ると水や食べ物の違いでお腹がゆるみやすくなるものです。大丈夫と思っていてもいきなり緊急事態といったこともありえます。

そして付近の住民の好意で民家のトイレを借りるといった事もあるかもしれません。その時に慌てないように少なくとも訪れる国ではトイレットペーパーが流せるのか。或いはどういった便座が一般的なのかは調べておいた方がいいでしょう。

近年では単三乾電池で使用できる携帯用ウォシュレットも販売され、トラベルウォシュレットとして人気となっているようです。これならインドに行って用を足した後に「えいやっ」と気合を入れて黄金の左手を使用しないで済みますね。いや、逆に旅の思い出としては味気ないのかな。やっぱり海外へ出たなら現地の人と同じような生活を体験することに面白さがあるような気がします。

旅のトイレこそ冒険なり。と誰かが言ったかどうか分かりませんが、現地のトイレに挑戦してみるのもいい旅の思い出になるのではないでしょうか。ちょっと臭い思い出となるかもしれませんが・・・。

異文化のエッセイ
旅のちょっと臭い話(トイレ事情)
風の旅人 (2020年3月改訂)

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