風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~
旅の雑学のエッセイ

旅の写真の基礎

せっかくの旅の思い出は写真に収めておきたいものです。旅で初心者に陥りがちな落とし穴と旅写真についてのアドバイスを書いています。

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1、操作に慣れる

一眼レフを持って旅行していると、「旅の写真のコツとかアドバイスを教えてください。」「旅での写真は普段撮るときと何か変えた方がいいのですか?」「旅の写真の撮り方で気をつけた方がいいことはありますか。」などと尋ねられることが度々ありました。

もちろんこんな曖昧な聞き方をしてくるのは普段あまり写真を撮らないような人で、話していると私が当り前というか、常識的に思っていることでも、結構普通の人は知らないんだなと思うことが多々ありました。やっぱり何事も基本からという事で、旅での写真の撮り方というより、初心者に陥りがちな落とし穴的な事を中心に幾つか旅での写真撮影について書いてみました。

説明書
説明書

フィルム時代と比べると、最近のデジカメの説明書の分厚い事。
きちんと目を通しておきましょう。

まず、一番の基本は、「操作に慣れる」「備品を確認する」です。せっかくいいカメラを持っていても操作の仕方が分からなければ宝の持ち腐れです。特に海外旅行へ行くんだと張り切って新しいカメラを購入した人。ちゃんと使い方が分かっていますか。説明書を片手に写真を撮っていたら写真のことで一杯一杯となり旅を楽しむどころではありませんし、旅行中ちゃんときれいに撮れているのだろうかといった不安もつきまといます。最低限の使い方をマスターし、何度か試し撮りをしておくべきです。

昔のデジカメは画素数やメモリーカードの容量が少なかったので、実際にプリントしようとしたら撮影したサイズが小さ過ぎてプリントにしたらひどく荒い写真になってしまった・・・といったような事もたまにありました。本人はエコモードだから枚数が増えると勘違いしたようでしたが、ちょっと気の毒に感じた例です。何度か使用し、一度でもプリントしていればそういった初歩的な失敗は回避できたはずです。

それに途中で使い方が分からなくなったり、或いはエラー表示が出てしまった場合、日本を旅しているならスマホで検索とか、実際にカメラ屋や電気量販店の店員などに聞くといった対処法もあるでしょうが、海外へ出てしまうとスマホの通信は利用しない人もいますし、誰かに聞くにしても日本語の分かる人が捕まればいいけど・・・となってしまいます。カメラ店を見つけてジェスチャーなどで伝えても、最新の機種を買った場合、現地では誰も使い方が分からないといった事もあります。

せっかく奮発して新しく買ったカメラを持っていったのに、使い方が分からず写真がうまく撮れなかったというのは虚しいものです。履き慣れた靴で旅をしろというのはカメラでも同じで、やはり使い慣れた道具を携えて旅するのが一番安心できます。売り場でカメラを販売していたことのある人間が言うのもなんですが、旅行の直前に慌ててカメラを買うぐらいなら慣れているスマホでいいんじゃない!って感じです。

デジカメは何気に複雑な家電製品です。海外旅行をする場合には特に注意が必要です。いつもよりも写真を撮り過ぎてメモリーカードの容量が小さ過ぎて現地で高いものを買わなければならなかったとか、途中で充電切れとなって写真が撮れなくなってしまうこともあります。ちゃんと充電をするための充電器やその国に対応したプラグを用意しなければとか、準備することも多いです。

フィルムカメラにしても、世界的にデジタル化の流れが進んでいるので、日本で使用する分のフィルムや予備の電池をそろえておいた方が確実です。海外へ出るのならこういった初歩的な動作確認や備品の準備はしっかりとしておきたいものです。

2、扱いに慣れる

第二の基本は「扱いに慣れる」「壊さない」です。操作もそうですが、カメラの取り扱いにも慣れておかないと、ぎこちない手つきで写真を撮ったりしていると落として壊しかねません。シャッターチャンスを逃してしまう。ツアーのみんなが待っていると急いで電池を交換しようとしてカメラを落としてしまったとか、レンズを交換するときにレンズを落としてしまったとか、写真を撮るとき以外に不注意で落としてしまうケースも多いです。

携帯と違ってカメラは落とすと壊れる確率が高いです。落とすようなドジをしなければいいんでしょ。私は大丈夫。なんて思っている人もいますが、普段カメラを持ち歩かない人は結構いい加減にカメラを扱っていたりするものです。

カメラバッグ
カメラバッグ

肩下げタイプとリュックタイプのカメラバッグ。
どちらもあると便利です。

例えばリックにカメラを無造作に入れておいて何気なく荷物を地面などに降ろしたときに、地面にガツンとカメラが当たってしまって故障するといったこともあります。食事中にちょっと机の上に置いておいて、立ち上がる時にストラップが手に引っかかって机から落下ってこともあります。ベッドの上にカメラやレンズを置いて掃除や整理しているときに立ち上がると、ベッドの下へ落ちてしまうこともあります。

またカメラは電子部品を多く使っているので、高温の場所、例えば真夏に車内に放置したままにしたり、入れた鞄を長い間直射日光の当たる場所に置いたりすると、次にスイッチを入れたら動かなくなっていたようなこともあります。普段からよく写真を撮っている人はやらないようなことでも平気でやってしまうところが初心者の怖いところです。

また雨の日、或いは不測の事態でカメラを濡らしてしまって、電池や電子パーツがショートしてしまい壊れてしまうということもあります。ビーチや川辺などで偶発的に濡れてしまうこともあるかもしれません。

同じように埃っぽい場所、特に砂漠で使用中に壊してしまうこともよくあるケースです。特にカメラのスイッチを入れたらウィーンとレンズ部分が出てくるタイプのものや望遠、広角にすると、レンズ部分がせり出したり、引っ込んだりするタイプのものです。砂漠などではとても小さな粒子が空気中を漂っています。それが隙間に入り込んでしまうと分解しないと直らないような致命的な故障となってしまいます。

最近のは防滴、防塵のものも増えてきました。昔よりも基盤とかも熱や湿気に強くなりました。でも値段が安いカメラと高いカメラがあるのは、こういう基本性能で現れない部分に力を入れているか、いないかの差でもあります。安い初心者クラスのカメラやレンズだと、悪条件の時に壊れやすくなってしまいます。濡れそうなとき、埃が隙間に入りそうなときはタオルやビニール袋を巻いて使用するなどの対策をするなり、いっそのこと海水浴にも使用できるといった完全防水、防塵のデジカメを購入するというのも手です。

レンズフィルターやブロアー
レンズフィルターやブロアー

レンズフィルターやブロアーは
カメラ購入時にそろえておきたいです。

壊れるまでいかないけど、ちょっと厄介なことを一つ。それはレンズの汚れです。眼鏡をかけている人はよく分かると思いますが、普通に歩いていてもレンズは汚れます。

例えば日本のお祭りに出かけたとき、レンズキャップを外したままカメラを首からさげて屋台が並んだ通りを歩き、本殿にたどり着いて、さて写真を撮ろうとファインダーを覗くと、かすんでいてビックリということがあります。屋台から飛んできた小さな油がレンズについてしまったのです。

また海岸などを歩いたときも一緒で、細かい波しぶきがレンズについてしまうことがあります。もちろん自分の指で触ってしまって汚れる場合もあります。レンズが汚れるとオートフォーカスがうまく機能しなくなったり、ひどい場合には写真が風呂の湯気の中で撮ったようにもや~とした感じになったりします。

こういった汚れはなかなか落ちなく、無理に落とそうとするとレンズを傷つけてしまうことがあります。まずは埃をブロアーで風を送って飛ばし、専用のレンズクリーナーとかで拭くのがいいのでしょうが、ない場合でも水に濡らしたティッシュでこすらない様に埃を落としてから空拭きをするといったように丁寧に汚れを落とさないとレンズに傷が入ってしまいます。実際のところ小さな傷や埃があるくらいでは写りには影響しませんが、それが繰り返され、複数になったり、大きな傷になると色々と問題が生じてしまいます。

対策としてはレンズフィルターを取り付けられるカメラの場合はフィルターをつけておいた方が安心です。カメラを購入するときに色々と備品を買わそうとするカメラ屋の陰謀だと思わず、旅行に限らず重宝するのでレンズフィルターは付けておいた方がいいです。フィルターなら少々乱暴に扱っても交換すれば済むので扱いが楽です。フィルターを付けられないコンパクトタイプのカメラでも時々レンズを見て汚れていないか確認し、気が付いたときに清掃した方がいいです。

日常と違って旅の場合はカメラを頻繁に出し入れしたり、短期間での使用頻度が高く、様々な場所や場面で使用されます。日常で使うよりも旅の方が壊れる確率は高いので、普段大丈夫だからといった油断が命取りとなることもあります。

カメラを持ってきたのに壊れて写真が撮れないというほど虚しいものはありません。旅の途中で壊すリスクを減らすためにもケース、或いは専用のバッグを使用するというのも考えたほうがいいかもしれません。ちゃんとした物は機能的にも優れていて、出し入れや持ち運びの際に壊れにくくなっています。

3、盗まれない

第三の基本は、「盗まれない」「置き忘れない」です。って、当り前じゃないか。アドバイスになっていないではないかと鼻で笑う人もいるかもしれませんが、これはとても重要な事です。カメラがなくなってしまったら写真を撮る事もできないし、場合によっては盗難届を書いてもらうために警察へ行くなど時間や手間もかかります。

特に海外へ出る場合は気をつけなければなりません。物価の安い国では我々が考える以上にカメラはいい値段で売れるので、ターゲットにされます。財布やパスポートなどは貴重品袋に入れて懐にしまっていたり、靴の裏に隠したりとガードを堅くしているものですが、カメラはむき出しというか、けっこう隙があったりするものです。

もちろん一眼レフとか高価なカメラはそれなりに大事にしまっているのでしょうが、コンパクトタイプのものは日本と同じようにポッケにしまったり、手で持っていたりする人が多いようです。そしてところかまわず置いてしまい、そのまま忘れてしまったり、置き引きにあったりといった事もあります。日本のように警察に行けば落とし物が届けられているといったことはまずないので、置き忘れにも気をつけなければなりません。

最近のデジカメは、といっても値段はピンからキリまでありますが、一般的な売れ筋のデジカメは比較的値段の安いものです。カメラ自体そんなに高くないからそこまで金銭的には被害は大きくないかもしれませんが、デジカメでは入れているメモリーカードに旅行中の写真が全て収まってしまいます。盗まれることはそのメモリーカードも失うということです。

これはなかなかショックなことで、旅行の後半になればなるほどダメージが大きくなります。悪いことに旅の後半になればなるほど旅の環境に慣れ、気のゆるみが生じてしまうものです。カメラはあげるから、頼むからメモリーカード(フィルム)だけは返して・・・・という声はよく聞きますが、そういった親切な泥棒はまずいません。お金で買えない大切な思い出の写真が全て消えてしまうので、盗難には絶対に気を付けたいです。

特に何人かで旅行していて、代表でカメラ係を任されている場合、友達などを悲しませることになるので気をつけましょう。どうしても集団の中にいるほうが気が緩みやすくなるものです。カメラ係に任せっぱなしではなく、みんなで協力してカメラを死守するといった少々大袈裟な気持ちで旅をするといいかと思います。

4、撮影禁止を守る

第四の基本は「撮影禁止の場所では撮らない」「トラブルになりそうな場所で撮らない」です。博物館や美術館の中での撮影禁止とか、フラッシュ禁止などはよくある話ですが、宗教施設などでの撮影禁止なども多いです。日本ではマナー違反といった白い目で見られるだけで済む場合が多いのですが、海外では・・・、いや海外でもまあしょうがないかで済む場合が多いです。

でもそれがきっかけでよからぬトラブルに巻き込まれることもあります。例えばかつてはカイロ考古学博物館ではカメラ持ち込みにお金がかかっていました。ガイドの人が見てないから大丈夫といって写真を撮ったら今写真を撮っただろと賄賂を要求されたといった類の話はよく聞きました。今では全面的に撮影禁止となっているようですが。

トルコの宮殿の衛兵
トルコの宮殿の衛兵

ここは観光地で撮影スポットになっています。

その他、国境や軍事施設での撮影は基本的に禁止だと思った方がいいです。隣国と緊張関係にある国とか、テロに過敏になっている国とかの軍事施設とか、軍事関係の役所、大統領府などといった場所で写真を撮ったら普通に連行されます。日本的な感覚でやると、冗談では済まない場合もあります。

なので不用意にそういった写真を撮らないようにする方が利口です。というより、そういった施設の前で立ち止まるのもなるべく避けるべきです。これは大袈裟でもなく、本当に問答無用といった感じで処理されます。別室に連れて行かれ、色々と聞かれ、メモリーカードは没収となってしまう事もあるので気をつけてください。

また撮影禁止となっていない場所でもトラブルになる場合があります。生活の場所を興味本位で撮影されて不快に思う人もいます。スラムではお金持ちからお金を取っても悪いと思っていない人も多いので、あれこれと難癖を付けてお金をせびってくることもありますし、スリや強盗の被害に遭う可能性もあります。売春や怪しい商売をしている人が集まる場所での撮影もトラブルの素です。

ガンジス川では多くの人が沐浴し、その近くでは火葬されています。そういった場所での撮影は禁止というのが地元のルールとなるようですが、写真禁止のマークがあるわけでもなく、外国人が写真を撮るとおっかないおっさんに囲まれて、カメラを取り上げられたとか、お金を払わされたといった話もよく聞きました。こういったトラブルに巻き込まれないためにも周りの状況や空気を読んで撮影を行った方がいいかと思います。

5、背景をうまく入れる

残り二つは実際の撮影について書いていきます。第五の基本は「背景をうまく入れる」です。まず旅について考えてみてください。旅とは日常の世界からの脱出です。だから旅に出て日常と同じようにファミレスで食事をしていても面白味がないのと同じで、日常と同じような写真を撮っていても後から見たときに思い出が濁ってしまうかもしれません。

たとえば普段では子供や恋人のアップの写真を多く撮っている人でも、旅先では背景を多く入れて、日常と違う場所にいるんだといった強調をするのもいいかと思います。そしてできることなら、前景、中景、背景に気を配って日常と違うものを探して取り入れてみるのも面白いかと思います。同じ撮るにもそういったアイデアを少し加えるだけで旅らしい写真になるものです。

砂漠の中での写真
砂漠の中で

どこにいるのかがわかる写真を心がけましょう。

例をあげると、結婚式の写真。新婚の顔のアップの写真は幸せ一杯まさに結婚式ならではといえます。でもどこで行った挙式なのかはある程度引いた写真ではないとわかりません。どちらか一枚なら人物アップの写真の方が後で大切な一枚となりますが、思い出としてはどんな式場で行ったのかがわかるような写真もあった方が後で見返したときの思い出になるかと思います。

まして他人に見せる場合、二人の幸せそうなアップの写真ばかり見せられても、二枚目以降はうんざりしていきます。見ている方としては幸せに当てられつづけるよりも他の話題に振りたいものです。いい結婚式場だねとか、親戚の人たちよく似ているね・・・とか、一枚だけ見せるなら式場の雰囲気と人物が写っているような広角で撮った写真の方が見せられる側としてはいい写真となるでしょうか。

砂漠の道の写真
砂漠の道

旅をしていますといった写真を心がけましょう。

構図に関してはまあ好きなようにといったところでしょうか。人物を真ん中にして風景を広くでもいいし、思いっきり左右に寄せて後は風景というのもいいかと思います。写真の本を読めば黄金比率といったものが書かれていますが、そういったものにこだわらない方が、思いっきりのいい写真になったり、個性的な感じになったりします。旅ならではと考えればそれはそれで面白味が増すかもしれませんし、個性的な旅が更に個性的に感じる事もあります。

6、楽しい写真であること

最後は基礎というより提案といった感じですが、「後で見返したときに楽しい写真であること」です。旅の思い出は楽しいものです。そういった楽しさを写真に取り込めたならそれは後で振り返ったときのいい思い出の旅写真になるのではないでしょうか。海外へ出たなら物珍しさから風景や町並みの写真を沢山撮るでしょうが、後でそれを見返すことはほとんどないはずです。

ジャングルでの生活体験
ジャングルツアーで

ジャングルを訪れたときの写真です。
ジャングル体験といった感じで思い出深い写真です。

海外で何をしたのか。何が楽しかったのか。何に興味を持ったのか。何に驚いたのか。そういった事を写真に収めておくと、後で見返したときに「あの時は・・・」と楽しかった思い出がよみがえることでしょう。一人旅だし自分の写真はいらないという人もいますが、何枚かは自分の写真を撮ってもらうことをおすすめします。しかもただ名勝の前で突っ立っている写真ではなく、何かを体験しているような写真がいいです。日本で言うなら外国人が城で甲冑姿や忍者になって写真を撮るといった部類です。

「旅の恥はかきすて」とよく言います。この言葉はこういう時に使うものだと思います。日本人が城で甲冑姿になるというのは微妙ですが、外国人にしてみれば帰国してから友人に自慢できる一枚となります。日本で侍になってきたと。

その他、テーマを持って写真を撮ってみるのもいいです。食べ物の写真とか、宿の写真とか、見かけた屋台の写真とか。それ一枚だと大した面白味のない写真ですが、旅行中継続して撮るとアルバムに並べたときに、連続した面白い写真になると思います。

ベトナムの荷物運びの写真
水運び

ベトナムでの水運び体験です。
バランスをとるのが大変です。

以上が私なりのアドバイスです。構図とか、技術的なことを教えて欲しいという人もいますが、まあ真剣に学びたいと思うのならそういった事が詳しく書いてある本を買うなり、カメラ講座みたいなものに参加するなり、中途半端にやるよりは少し投資をしてきちんと学んだ方がいいかと思います。

個人的にはまずは勉強するよりも撮って慣れろといった感じでしょうか。感覚的に写真を学んだ方が個性が伸びるというか、形にこだわらない面白い写真が撮れるような気がします。そしてもう一歩上を目指したくなったり、自分の写真に不満を感じたり、ちょっと躓いてしまったときに色々と学べばいいかなと思っています。

写真は楽しいもの。そして被写体に対して愛情を注ぐこと。そういった心があれば技術云々ではなく、写した写真にも楽しさやその人の愛情などといった思いが写っているのではないでしょうか。趣味でやっているならそのことが一番大切ではないかと思います。

旅の雑学のエッセイ
旅の写真の基礎
風の旅人 (2020年3月改訂)

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