風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~

~カメラと写真についてのエッセイ~

§1、旅の道具、カメラ

旅を象徴するような道具といえば・・・、写真好きとしてはカメラと言いたいところですが、やっぱり鞄でしょうか。鞄がなくては旅が始まらないといった感じで、旅の必需品であり、旅を象徴する道具ともいえる気がします。そして誰もが持っているものだからこそ、鞄にその人の個性や旅のスタイルがよく現れているともいえます。

かっこいい鞄を持って旅している旅行者に出会うと、いかにもこだわった旅をしていますといったオーラを発散させていて、ちょっと憧れてしまうことがあります。もちろん鞄の値段を聞くと、その憧れも夢と化してしまうのですが・・・。そういえば、ふうてんの寅さんも味わい深い鞄を持っていますよね。ああいったクラシックな鞄で旅をすると、いつもと同じ旅をしていても気分的に情緒たっぷりな旅に変わるかもしれません。

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道具、されども道具。日常でも気分を変えるために携帯電話を買い換えてみたり、プロスポーツ選手が気分を一新するために新しいメーカーや今までと違う色の道具を使用したりするのがいい例で、道具というものは意外と人間の心理に影響を与えているものです。そういった道具、とりわけ旅の道具の中で比較的多くの人が携えているものにカメラがあります。

鞄と違ってカメラがどうしても旅に必要というわけではないのですが、多くの人は旅にはカメラが欠かせないと感じているようです。一時期、カメラの売り場に出て販売をしていた事があるのですが、子供が生まれたり幼稚園や小学校に入るといった機会(特に運動会)に新しいカメラに買い換える人が多いのは自然な成り行きなのですが、旅に出ることになったからこの機会に新しいのに買い換えたいという人も結構多くいました。

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NIKON F3の写真

NIKON F3

多くの人が憧れたカメラの一つです。
(出典: Wikimedia Commons)

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日本人観光客とカメラ

日本人観光客とカメラの関係でいうなら、高度経済成長期、そしてバブル期に海外へ押し寄せた日本人観光客が必ずといっていいほど持っていたのが時代の先端をいく日本製のカメラでした。その姿は現地では特に目に付いたようで、その当時日本人観光客を揶揄した典型的な描写はカメラを持っている姿でした。洋画などに登場する日本人は、なんかさえない姿なのにカメラだけが立派といったキャラクターで描かれていることが多かったように覚えています。外国人から見た日本人観光客はまさにカメラが歩いているといった感じだったに違いありません。

まあ冷静に考えるなら海外旅行に不慣れな日本人がおどおどしながらカメラを持って歩いていたので、余計にカメラが立派に見えたのかもしれませんし、ヨーロッパを歩くアジア人というのも珍しかったのでその存在が特に話題になったのかもしれません。日本人は何でそんなに写真好きなのかと他の国の人に聞かれたこともありましたが、昔はいざ知らず、今では日本人だからというより人それぞれといった感じではないでしょうか。日本人よりも盛んにシャッターを押している中国人の姿をよく目にしますし・・・。

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それに客観的に考えるなら、海外へ出ると目にする物すべてが物珍しく感じるので、現地で暮らす人よりもシャッターを切る機会が多くなるというものです。旅に出て最初の数日は物珍しさで盛んにシャッターを切っていても、後半になるとあまり写真を撮っていないといった経験があるのではないでしょうか。いいカメラを手にしていることも合わせて一時的に写真好きになっているだけで、本当の写真好きとはまた別の次元の問題かと思います。

それから日本人の性格も少し関係しているかもしれません。周りの人がカメラを持って行くからとか、隣の人がシャッターを押していたら自分もシャッターを押さなければといった無意識に周りに合わせるといった性格もあるように感じます。「旅に出たら写真を撮るものだ!」「旅で写真を撮っていないのは恥だ!」 ツアー旅行者と一緒に行動した時に同じ場所で一斉に写真を撮り出す姿を見て、日本人旅行者にはそんな伝統が暗黙の領域で受け継がれているのかな・・・と思った事もありますが、そんな事は決してないのです。旅の楽しみ方は人それぞれなのですから。

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カメラのデジタル化で身近になった写真

近年ではデジタル化というか、時代の流れというか、写真業界でもアナログのフィルムを使用した写真機からデジタル素粒子を使用し、記録メディアに画像が保存できるデジカメが主流となってしまいました。これは写真業界では革命とも呼べるような出来事で、今まであった価値観やセオリーが通じなくなるほどの大きな変化でした。

ただ一般の人にはカメラのデジタル化は歓迎すべき事だったようで、今まで必要だったフィルム代や現像料などがかからなくなったり、フィルムカメラではフィルムを現像しなければどんな風に写っているのか分からなかったけど、デジタルではその場で画像が確認できたりと、手軽に写真を撮ることができるようになりました。そういったことから写真を趣味にする人も増え、旅先だけではなく、日常でもカメラを手にして歩く人が増えたように感じます。

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またインターネットの普及によりブログなどに写真を載せたり、ソーシャルメディアなどで見せ合ったりする人も増え、写真の世界が色々と広がった感じがします。昔ではカメラが趣味といえばオッサンくさいイメージがあったし、実際にお店で常連さんといえば気難しいオッサンが多かったのですが、今ではをカメラ女子という言葉ができるぐらい、一般の人がカメラや写真を身近に感じる存在となりました。

カメラ自体も色とりどりで、オシャレな形をしたものや女性が好きそうなかわいらしいものも普通に売られています。デジタル化が進んで色んな意味で写真というのが変わったなと感じますが、もちろん旅の写真事情も一気に様変わりしてしまいました。そういった旅の道具としてのカメラについて少し書いてみることにします。

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オリンパスペンの写真

友人にもらったペン

フィルムのハーフカメラで
今となっては家で唯一のマニュアルカメラです。

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旅カメラの初期

高度経済成長期、新婚旅行が国内から海外へ移行しつつあり、一般の人も海外旅行に行き始めた頃、世間ではマニュアルの一眼レフが流行しました。いわゆる日本人にふさわしいカメラというか、日本人観光客が世界中に宣伝して歩いたようなカメラとなるのでしょうか。カメラはドイツ製だけではない!・・・・と。

こういった種類のカメラは写真を撮るのに、まずフィルムのコマ送りをして、そしてファインダーをのぞいたらピントを合わせて、更には露出を合わせてといった作業をしないとちゃんとした写真が撮れません。当然のことながら操作に慣れないとシャッターを押すまでにえらく時間がかかってしまい、熟練者とそうでない人の差が思いっきりでました。今の感覚からするとこんなことをしていたらシャッターチャンスを逃してしまうではないかといった感じですが、これでも当時は写真がより身近な存在になった画期的なカメラでした。

その中でもニコンのFシリーズなどは評判がよく、中でもアポロ計画で月まで旅したカメラ、ニコンのF3などはその堅牢さからも多くの人の憧れになりました。基本的にこのようなカメラはシンプルかつ堅牢にできています。だから熱で電子基盤が壊れたり、雨で電源がショートしたりといった単純な故障が少なく、ある意味どんな場所を旅するのにも安心して使えるというメリットもありました。

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ただ一番の問題は素人にとってフィルムの装着が難しい事です。ちゃんと入れたつもりでも撮影が終わってフィルムを巻き戻そうとすると、あれれれ・・・、ちゃんとコマ送りされていなかった・・・といった経験をした人も多いかと思います。それに結構重たく、先に書いたように操作にはそれなりに経験が必要なので、女性などには「カメラ=難しい」といった認識で、写真は撮りたいんだけど難しいから・・・といった感じでなかなか取っつきにくい存在でした。

おかげでカメラ係はお父さんと相場が決まっていて、どこでも写真を撮っているお父さん。昔の運動会などではお母さんが写真を撮っている姿はほとんどありませんでした。今では一眼レフやらビデオカメラを持ったお母さんがずらっと並んでいたりしますが・・・。

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オートフォーカスの登場

この後に続いたのが、オートフォーカスの一眼レフカメラでした。この頃には電子機器の技術的進歩が目覚ましく、もっと手軽に誰でも写真が撮れるようにといったコンセプトの元、いわゆる高性能コンピューターにより(当時の言い方)今まで面倒だったフィルムのコマ送りやピント合わせ、露出調整が自動で行われ、専門的な知識がなくても写真が撮れるようになりました。カメラが一般大衆化していった始りであり、日本のカメラは凄いぞと改めて世界中の人に認識された瞬間でもあります。

ただ本当に便利になったかというと、初期のころはトラブルも多く、また旅先の高熱や多湿で基盤がいかれてしまうことも多々ありました。それにオートフォーカスの精度やスピードも遅く、何より安いカメラはフィルムの自動巻き戻しでのトラブルが多かったように思います。フィルムが途中で巻き戻らなくなったり、切れてしまったり、巻き戻したはずなのに蓋を開けると・・・といった感じです。写真屋で働いていると、意外とフィルムが詰まってしまって・・・とカメラを持ち込むお客さんが多かったりします。

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コンタックス T2の写真

コンタックス T2

愛用していましたが、
南米で盗難にあってしまいました。
(出典: Wikimedia Commons)

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コンパクト化が進むカメラ

この後はどんどんオートフォーカスカメラの小型化と高性能化が進んでいきました。そして値段的にも手頃となり、多くの人がカメラを持つようになりました。とりわけ誰でも手軽に扱える高性能なコンパクトカメラが登場したことによって、写真は誰でもシャッターを押すだけでちゃんと撮れる道具となりました。特にコンパクトカメラはその小型で軽量なボディーから旅行において荷物にならないし、しかも誰でも気軽にそこそこいい写真が撮れるしと旅には最適のカメラで、多くの旅行者が、特に女性の旅行者には好評でした。

そして付け加えるならレンズ付きフィルム、いわゆる「写るんです」の登場も画期的だったでしょうか。旅先などでカメラを持っていなくても写真を撮れてしまうというお手軽さが受けて、かなりのヒット商品となりました。最初のうちはやっぱりインスタント的な画質だなと感じていたのですが、どんどんと改良されていき、レンズの性能が良くなり、フィルムの感度も選べ、日付が入れられたりとちょっとしたコンパクトカメラ並みに使えたりするものもありました。

とりわけ水中用の防水カバーが付いた写るんですは旅人の間では好評でした。東南アジアでの水掛け祭りなどといった場合にも自分のカメラを濡らさずに済みますし、ビーチや磯遊びでもあれば便利だし、ちょっとしたシュノーケリングにも使えてしまいます。旅のアイデア商品ってな感じかもしれません。ちなみにコンパクトカメラのことを未だにバカチョンカメラという人もいますが、これは差別用語なので絶対使わないようにしてください。

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その後、さらにコンパクトカメラを小さくしようと普通のフィルムよりも小型のAPSフィルムを使用したカメラが登場しました。確かにカメラがより小さくなり、まさにポケットサイズと呼べる大きさになったのは評価できますが、フィルムが一般のものよりも割高で、より携行を楽にしようとする旅行者ぐらいにしか受け入れられず、いまいちぱっとしませんでした。

実際に旅で持ち歩いている人も日本できちんとフィルムを揃えておかないと海外ではAPSフィルムの調達に苦労し、やっぱり普通のフィルムのカメラにすれば良かったと嘆く人が多かったのが現状です。更にはフィルムがカートリッジ式で、現像後も同じサイズのカートリッジで収納しなければならなく、まとめて写真を撮る人などは保管に困る人も多かったようです。

現像を行う立場としては、コマずれしないのと焼き増しの時は楽かなといったぐらいで、APS(アドバンス フォト システム)という割には普通のフィルムより楽になったかというと少々疑問で、その後すぐにデジタルに移行してしまったことも含めて、色々な意味で写真業界の闇の歴史、インターネットで例えるならISDNみないな感じではないかと思ってしまいます。でも写真がデジタル化した際にはイメージセンサーのAPS-Cサイズという規格だけが残っていしまい、それが一般的な言葉として定着しているのが何とも変な感じがします。

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ミノルタ707siの写真

昔愛用していたミノルタ707si

ミノルタはα9以外は使用しました。

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デジタル時代の到来

デジタルの普及は写真を取り巻く環境を大きく変えました。とはいえ、デジタルが普及し始めの頃は記録メディアは恐ろしく高いし、画質も恐ろしく悪いというか、色情報が少ないので補正しようものなら色飛びが激しく、ネガと比べるまでもないといった感じでした。フィルムで撮るのは写真で、デジタルのは画像、いわゆる立体スキャナーなんて呼んでいたものです。

その頃はそこそこ経済的に裕福な人が住む地域の写真屋に勤めていたのですが、流行始めたデジカメを購入し、海外旅行に行く人も多く、現像しながらいくらお金持ちでもこの写真のひどさは・・・と気の毒に感じてしまうことも多々ありました。

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その後デジカメの品質が上がり、メディアを含めて値段が安くなり、一般的なものとなったと思ったら、一気にフィルムの現像が少なくなってしまいました。そしてカメラと言えばデジカメという時代になってしまい、フィルムを使う人はよほどの理由やこだわりがある人だけになり、小さな写真屋からはネガフィルムの現像機が消えてしまうこととなってしまいました。

おかげでフィルムで写真を撮る人にとっては、フィルムは種類が少なくなるは、値段は高くなるは、現像は工場に送らなければならなくなって時間はかかるは、いい事なしです。旅とは関係ありませんが、証拠や記録的な写真を撮る人、いわゆる警察とか学者関係の人は予算の都合が付かなく大変な思いをしているようです。逆にスポーツカメラマンや新聞記者、そしてデジタルが高感度に強い事から天文関係者にとってはデジタルの普及は歓迎すべきことだったようです。

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s5proの写真

現在の愛用機 FUJIFILMのS5PRO

フジの現像機をいらっていると
フジの色が好みになってしまうものです。

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旅カメラのデジタル化

こういったデジタル化は旅での写真事情にも大きく変化をもたらしました。一番の変化は、今まで期間の長い旅行ではまとまった本数のフィルムを携行しなければならなかったのが、小さなメモリーカードで済むようになったことです。そもそもフィルムはとてもデリケートなものなので、高温や多湿、或いは空港でのX線に気をつけなければならなく、荷物の中でも取り扱いに苦労していました。そういったフィルムの呪縛から解き放たれたのは大きなメリットです。

それに旅は一期一会。旅先で知り合った人などに後で写真を送るからと写真を撮ったものの、現像してみたらボケボケで・・・といった事があったのですが、デジタルの場合その場で撮った写真を確認できるので安心です。ピンぼけや撮り損ねが少なくなったのは素人には大きなメリットかと思います。まあボケて写ってしまったのも思い出といえば思い出なのですが・・・。

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もちろんいいことばかりとも限らなく、フィルム何十本分もの記録が小さなメモリーカードでできてしまうということは、カメラが盗難に遭ってしまった場合、すべての写真を一瞬にして失うことになってしまいます。特に旅の後半で盗難にあった場合、旅行中の写真が全滅してしまった・・・といった人もいてとても気の毒に思えます。

また、基本的に電気製品なので、熱や衝撃、何かの弾みでメモリーカードの写真が消失してしまうという事もあります。そもそもカメラ自体が電子機器といった感じなので、以前よりも小さなトラブルが増えた気がします。もちろんフィルムが詰まったといったトラブルが今まで多かったので、必ずしも増えたとはいえませんが・・・。その他、バッテリーの充電といった作業も必要となり、電源の確保や複数の国を訪れる場合にはコンセントや電圧の問題などに気を回す場合があります。

画質的にはあれこれという人もいますが、違いが気になるならフィルムを使えばいいし、そうでないなら気にしないことです。ある程度専門的に写真に携わっていると色合い的に微妙な違いがわかるものですが、もはや普通に見る分には全く問題ないレベルかと思います。仮に画質が落ちるとわかっていても一般の人には利便性の方がそれを勝るはずです。

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t1の写真

現在の愛用機 FUJIFILMのT1

ミラーレスは小さくて携帯性がいいです。
でもバッテリーの持ちが悪いのが欠点です。

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高機能化が進むカメラ

今後のカメラはどうなっていくのでしょう。最近では多機能化が進み、手振れ補正は当たり前で、顔認識とか、いい顔機能とか、誰でも写真を撮るのに失敗しないようになっています。デザインもスタイリッシュだし、携帯電話やスマホの写真でもそこそこの写真が撮れてしまいます。更には写真だけではなく動画を撮れるのも当たり前といった感じになってきて、なかにはカメラでちょっとした映画を撮れてしまうものもあります。もはやここまでくるとなんでもありの撮影機といった感じでしょうか。

おかげでカメラは難しいものから、簡単で楽しいものへと変わりつつあるような気もします。旅の道具としてのカメラと考えるなら、やはり楽しい思い出がそのまま写真に収められるのが一番ですし、その撮影自体が楽しければいう事なしといった感じでしょうか。更には必要に応じて動画での撮影も織り交ぜれば思い出の保存の幅も広がるでしょうか。

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例えばディズニーランドに行って、普通のときは写真で、パレードのときは動画でといった感じで分ければ、後で見たときに楽しいかもしれませんね。それが簡単に撮れるようになるのならそれはいいことですし、いい写真が撮れれば後日それを見返したときに、また旅に出ようといった気持ちになれるし、いい傾向なのかもしれません。

それに個人的な意見かもしれませんが、今まで他人にシャッターを押してくださいと頼むとぶれていたり、ピントが合っていなかったりといった経験があったのですが、このように誰でもいい写真が撮れるようになると、人を選ばす任せることができますね。ひどく傾いていたりする事もありますが・・・、まあそれも旅のうちといったところでしょうか。

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<カメラと写真についてのエッセイ §1、旅の道具、カメラ 2011年8月初稿 - 2015年11月改訂>