* 大宮八幡宮 古神矢・古神札焼納祭について *
関東で大宮と聞けばすぐに埼玉を思い浮かべてしまいますが、杉並にも大宮という地名があります。これは大宮八幡宮にちなんだもので、この八幡宮はかつては武蔵国三大宮の一つ「多摩の大宮」、あるいは「武蔵国八幡一之宮」と称されたほど格式を誇る神社で、現在も大宮の名前に負けないほど大きな神社です。神社に隣接する善福寺川の崖には弥生時代末期の祭祀遺跡である大宮遺跡があり、この地が古代から聖域とされていたために大宮八幡宮が創建されたのではと考えられています。
このように由緒ある大宮八幡宮では小正月にあたる1月15日に古神矢古神札焼納祭、いわゆるどんど焼きが行われます。社殿前の広場に斎場が設けられ、どんど焼きで燃やされるしめ縄や古札、古矢などが積み上げられます。ここで特徴的なのは側面が白い羽の付いた矢で覆われていることです。おまけに円錐状に高く積み上げるのではなく、柴燈護摩などと同じ低い円形なのでまるで白いカップケーキといった佇まいです。鎌倉の鶴岡八幡では一面しめ縄で覆われていて無骨な感じがしたのですが、ここのはなかなかおいしそうというか、ちょっとこじゃれた感じがしました。この白い羽の付いた矢、白羽の矢は毎年正月2日に小笠原流宗家奉納で新春除魔神事として蟇目の儀と大的式が行われ、その時に用いられる鏑矢や白羽の矢に因んで、厄除け守護の神矢として授与されているものです。
神事はまず社殿内で月次祭と古神札焼納奉告祭が行われ、次いでどんど焼きが行われます。どんど焼きは祝詞などを奏上した後、火鑽(ひきり)神事を行います。これは轆轤鑽( ろくろひきり) を使って古式そのままに火をおこす神事で、二人の神官がひもの力を利用して激しく回転させ、摩擦によって火種を起こします。これがそう簡単に火が付いてくれなく、ひたすら轆轤鑽を回すのでかなりの重労働となります。火種が出来ると木くずなどに移され、火吹き竹で吹くと周りで見ていても分かるほど燃え上がります。これを松明に移し、二人の神職がうず積み上げられた古神矢古神札等に点火します。二人火付け役がいると反対側から一人が付けることが多いのですが、ここでは同じ場所に二人が火をつけていました。火が高く燃え上がると祭殿の前では神職や参列員等が大祓詞を奏上し、一年間の感謝と除災を祈り始めます。よく夏越の神事や大祓い式で行われますが、どんど焼きの時にこのような形で行うのは珍しいかもしれません。
ある程度燃えると大祓詞を奏上は終わり、どんど焼きは終了します。このときどんど焼きの火を移した松明を持った神職がテントの方へ移動します。このテントでは大宮八幡宮敬神婦人会(りんどう会) の方々が新春初奉仕を行っていて、厄除ぜんざいが販売されます。それを温めるのに使うありがたい火を入れに来たというわけです。といった感じでどんど焼きが行われるのですが、独特の櫓だったり、火を古式に起こしていたり、大祓い式が行われたりと色々と興味深い神事が続き、とても面白かったです。
風の祭事記 大宮八幡宮 古神矢・古神札焼納祭
風の旅人
<2011年訪問 - 2019年2月更新>