* 王子稲荷神社 凧市について *
北区王子の王子稲荷神社で行われている凧市は江戸時代から続いている行事です。神社などで変わった縁起物を売る市といえば、だるま、熊手、羽子板が知られていますが、凧を売っているというのはちょっと珍しいかと思います。なぜ凧なのか。江戸時代、江戸の町はよく火事に見舞われていました。そして時として大火事につながり、千戸単位で延焼する事も多くありました。その中でも明暦の大火、明和の大火、文化の大火は江戸三大大火と呼ばれることもあるぐらい大きな火事で、少なからず名前を聞いたこともあるかと思います。大火は冬の北西風では江戸北部から、春の南西風では江戸南部からといった感じで風による影響が大きかったのです。江戸の庶民も風を切って上る凧が火事除けのお守りになるのではと考えたようで、この神社の奴凧を「火防の凧」として買い求めたのが凧市の始まりとなります。以来、凧市は江戸の伝統行事となっていき、凧市のある日は多くの出店が出て賑わってきました。
王子稲荷神社の凧市は2月の午の日に行われます。稲荷神社なので一年でも大事な2月の初午などの午の日の縁日に合わせているようです。午の日は毎年決まっていなく、酉の市と同じでだいたい2回。年によっては三回行われます。その日は境内だけではなく、参道にも露店が並び、王子の町が賑わいます。例年、初午・二の午の2日間だけで約5万人の人出があるそうです。肝心の凧市の方ですが、本殿の横に3軒ほど店を開いている程です。どちらかというとお守り売り場で正規品というのかどうか分かりませんが、そちらの方を購入している人が多いみたいでした。ただ、訪れた時がたまたまそうだったのかもしれませんが、あまり売れ行きがよくない感じがしました。縁起物というよりも火除けといったお守りなので、熊手や羽子板が華やかな剣に対して、凧は盾といった感じだからでしょうか。
社務所や凧の出店がある場所からは社殿の裏手を回ってしか出られません。社殿の裏手には末社があり、更に奥には「願掛けの石」があります。願い事を念じつつ持つ石の軽重により御神慮が伺えるとかなんとか。かなり重たい石なので女の人やお年寄りが持ち揚げるにはちょっと厳しいかもしれません。でも凧市の日には長い行列が出来ます。その「願掛けの石」から少し登ったところに「狐の穴跡」があり、「お穴さま」として祠も建てられています。これは伝説とかではなく、ここには本当に狐が住んでいたそうです。また当日は国認定重要美術品に指定されている「額面著色鬼女図」という絵馬が史料館で公開されます。これは日本画家、蒔絵師として有名な柴田是真作の大きな絵馬です。午の日以外では正月しか公開していないそうです。
王子稲荷神社といえばかつて関東総社であるほどの権威があり、安藤広重の浮世絵「名所江戸百景 王子装束ゑの木大晦日の狐火」とか、落語の「王子の狐」でも有名です。特に大晦日から元日にかけて行われる狐の行列は変わった行事で知られています。その狐の行列の出発地点は少し離れた場所にある装束稲荷神社です。ここで狐が衣装を正したことにちなんだ神社です。ここでも午の日には小さいながら午の祭や凧市が行われ、甘酒のサービスも行われています。伝説になぞってまずは装束稲荷神社にお参りして、王子稲荷神社に向かうといいでしょう。
風の祭事記 王子稲荷神社 凧市
風の旅人
<2011年訪問 - 2019年2月更新>