* 王子狐の行列について *
大晦日の夜から元旦にかけて北区の王子で狐の行列という少し変わった行事が行われます。この行事は安藤広重の浮世絵「名所江戸百景 王子装束ゑの木大晦日の狐火」に由来するもので、この絵は大晦日の晩に関東中の狐が大榎の下に集まり衣服を正して関東総社である王子稲荷に参ったという伝承を元に描かれたそうです。写真で見る限りではなかなか幻想的な絵で、まるでおとぎ話の一話というか、不思議な気分にさせられるような素晴らしい絵です。
この伝説の狐が集って正装に着替えたとされる神聖な大榎の下は「装束場」といわれ、現在の装束稲荷神社になります。この神社境内では地元の人が古くから大晦日の晩にかがり火を焚き、狐囃子を行ってきました。平成5年には実際に地域の有志数十人が浮世絵に習ってそれぞれの格好で提灯をさげ、王子稲荷神社に初詣をしたそうです。この行列はとてもささやかなものだったようですが、これが狐の行列の始まりとなり、以降、伝説の行列は徐々に地域に根付き、それとともに行列の規模が大きくなっていきました。今ではすっかり町を挙げての取り組みとなり、年明けの行事として広く名が知られ、多くの人が訪れる人気行事になりました。
この狐の行列の行事は、大晦日の夜、日付が変わる前に装束稲荷神社で式典などが行われ、行列は新年のカウントダウンが終わってから始まります。年が明ける前に装束稲荷神社を訪れてみたものの、人混みが凄すぎて近づけませんでした。新年のカウントダウンが終わると行列の準備が始まったので、駅前の大通りで行列を待つ事にしました。大通りでは道の両側に人垣ができていて、寒い中を多くの人がこの行列を楽しみにしているようでした。
行列の先頭は大きな幟を持った人と王子狐ばやし、その後ろから狐の面をかぶっている提灯を持った従者や袴姿の人々が続きます。更には色とりどりの衣装に仮装した人たちや小さな御輿、籠に乗った稚児・神子狐が続き、その後ろからそろいの狐装束をまとった婦人会の人や大きな狐の面が続き、そして講のような人達や色とりどりの衣装で参加している一般の人達が続いていました。もっと小規模な行列を、予想していたので、えっまだ続くのとビックリしました。
この行列は大通りを進み、王子駅手前で高架下に入っていきます。そして王子稲荷へ続く商店街の細い通りへ入る手前で、神社の神幸祭や御神輿渡御のように「道中案内引継ぎ式(提灯交換の儀)」が行われます。ここから神社までは岸町衆の担当になるようです。ここからは商店街通りの道中となり、道が狭く、行列との距離も近くなります。行列の人々と観客との一体感が増す分混雑は激しくなるわけで、列の進行が停まったりすることも多くありました。でもその間を利用して独特の狐の衣装をまとった人達と一緒に記念写真を撮ったり、行列の人がちょっとしたパフォーマンスをしてくれたりとなかなか楽しいものであり、終始ほのぼのとした雰囲気に感じました。
そして最後に行列は王子稲荷神社へ入っていきます。ここは既に初詣をする人達の長蛇の列が出来ていて、ただでさえ混雑しているのにそこに行列が到着したものだから恐ろしい程の混雑となります。その混雑した境内を本殿まで進むと行列は終了。代表の人は正式参拝を行うために本殿に上がるようですが、その他大勢の人は神楽殿の前で流れ解散といった感じでした。この後、神楽殿には行列で使われた大きな面が掲げられ、舞台では王子狐囃子や獅子舞などが奉納されました。そして最後にあけましておめでとうといった感じでその場にいるみんなで新年祝って狐の行列は終了となります。
訪れた感想は、楽しかったの一言でしょうか。こういった行事は地元の人が楽しみ、行っている人が楽しみ、見ている人が楽しむ事が出来るのが一番です。行事を見ている感じでは行列を運営している人、そして行列に参加している人の楽しそうなこと。楽しいですといったオーラが漂っていました。そして見ている地元の人も楽しみにしているんだといったオーラが漂っていて、新年という独特な時間というのもあり、いい雰囲気で盛り上がっていたと思います。いや、もしかしてこれは化け狐の幻術なのかな・・・。ってそんなことはないと思いますが、きっと裏で支えている人がしっかりとした準備を行っているのでしょうね。少し変わった雰囲気で年明けを迎えたい方にはお勧めの行事です。
風の祭事記 王子狐の行列
風の旅人
<2011年訪問 - 2019年2月更新>