風の祭事記 風の旅人祭り訪問記
風の祭事記

風の祭事記 ~祭り、イベント訪問記~

世附の百万遍念仏

神奈川県の山北町では大数珠を巨大な滑車に取り付け、それを男衆が数珠をたぐり寄せて回転させるといった珍しい百万遍念仏が行われていて、県の文化財にも指定されています。

・場所 : 能安寺(足柄上郡山北町向原2499)
・開催日時 : 2月中旬の土・日(2019年2月16、17日)
・スケジュール : 土曜13時から、日曜10時から
・備考 : 2011年訪問
*開催場所、日時、内容等は年によって異なる場合があります。

広告

*** 世附の百万遍念仏の写真 ***

世附の百万遍念仏の写真
神寄せ

神事の開始です。

世附の百万遍念仏の写真
百万遍念仏の様子

座の真ん中で滑車に吊るされた数珠を手繰っていきます。

世附の百万遍念仏の写真
数珠回し

テンポよくうねるように回します。

世附の百万遍念仏の写真
数珠回し体験

地元の高校生が見学に来ていました。

世附の百万遍念仏の写真
剣の舞

独り立ちの獅子が演じます。

世附の百万遍念仏の写真
姫の舞

二人立ちの獅子が演じます。

世附の百万遍念仏の写真
鳥さしの舞

親子で演じていました。

世附の百万遍念仏の写真
融通念仏

座の上部の飾りが降ろされ、争奪戦になります。

* 世附の百万遍念仏について *

神奈川県指定無形民俗文化財の世附の百万遍念仏(よづくのひゃくまんべんねんぶつ)は600年前から伝承されているという念仏信仰です。毎年2月15日から17日まで山北町世附の能安寺で行われていたのですが、昭和49年の三保ダム建設に伴い三保、世附の一部は水没してしまい、現在では山北町向原に移転された能安寺で毎年2月中旬の土曜日・日曜日に行われています。

百万遍念仏とは念仏門の後生為楽の行事で、自身の極楽往生、故人への追善、或いは豊穣や除災といった祈祷を目的として念仏を百万回唱えるといったもので、全国で行われています。その中でも特に京都にある浄土宗の知恩寺が有名で、本堂に円座して中央に導師を迎え大数珠を繰りながら念仏を唱えるスタイルはここから始まったといわれています。また、後醍醐天皇の治世の時に疫病が流行し、命を受けた寺の僧が7日間にわたり百万遍念仏の修法を行い、見事に流行り病を鎮めたとか。そのときの功績として「百万遍」の寺号を賜り、今でも百万遍知恩寺と称されています。ここ世附の百万遍念仏はもっと地域に密着した感じで、先祖の霊を慰め、地域の安全祈願と、悪疫退散、また雨乞いとしても行われたとも言われています。

世附の百万遍念仏は大数珠を巨大な滑車に取り付け、それを男衆が数珠をたぐり寄せて回転させる形式で、これは全国的に珍しい行法です。600年前の南北朝時代から行われているのではと伝えられていますが、確証はないようです。現在大数珠の玉数は302個で、長さは9m程。古くはもっと多かったといわれています。この大数珠は丹沢の水桃木で作っているそうです。数珠を回す場も独特で、天井には山奥から刈り取ってきたスゲ草で縄を作り、それに赤、白、青、黄、黒の5色の小さい幣を天井一杯につり下げます。さらに中央の滑車付近に黄諦黄龍王、四隅には時計回りに黒諦黒龍王、青諦青龍王、赤諦赤龍王、白諦白龍王と書いた紙が下げられています。これは梵天と呼ばれるもので、修験道、陰陽道の儀軌によるものだそうです。また、建物の入り口には中央に「三門神、牛頭天王」右側に「大天狗」左側に「小天狗」と書いた紙がつり下げられています。これは道場を荒らしにくる悪霊を追いはらうための守り札ということです。

百万遍念仏は 修験者に扮装した司祭者が数珠車に向って九字の印を結び、白幣を持って唱言をする事から始まります。これは神寄せで、司祭者を神寄せ山伏と言います。神寄せが終わると大太鼓の音とともに念仏衆により念仏が始まり、それと同時に大数珠回しが行われます。これは1人ずつ数珠の前に立ち、数珠をひたすら手繰っていくといったもので、その作業が交代で延々と行われていきます。見ていると分かるのですが、数珠が波がしらの曲線を描いて回転するのが上級者のわざで、その様子はリズミカルで美しいものです。逆に不慣れだとただ引っ張っているだけで、そのままバタッ、バタッと地面に大きな音を立てて落ちるだけとなり、連続性がなく、見ている方も見苦しく感じてしまいます。数珠回しに色を添えているのが念仏で、よく聞いていると念仏声に平音(ひらね)、中音(ちゅうね)、高音(たかね)の三音階があります。これらは指揮者が白の指揮棒を差し出すと平音、色紙幣は中音、白幣は高音でといった感じで唱え分けられています。

念仏が終わると獅子舞や遊び神楽などの芸能が行われます。これらは一連の行事ではなく、別々に行われていたものがいつしか習合したものだそうです。まずは獅子舞が舞われます。獅子舞は、最初に幣と鈴を持ち、悪魔祓いをして世を浄める「幣の舞」、次に剣と鈴を持ち、道場を浄める「剣の舞」、そして二人で舞う「姫の舞」、「狂いの舞」と続きます。獅子舞が終わると遊び神楽が行われます。最初は最初はひょっとこが登場する「二上がりの舞」で、これは世の中を和やかにする舞です。次はおかめに扮した人物が登場し、漫才のような流れで進行する「おかめの舞」、最後は曽我兄弟が鳥さしに身を変じ、親の敵を討つまでの苦心をコミカルに物語る「鳥さしの舞」となります。実の親子で行っていたので、コントっぽい感じがして面白かったです。

2日間行われる百万遍念仏ですが、2日目の遊び神楽が終わると念仏場の中央に太鼓が置かれ、その周囲に見物人が集まります。そして融通念仏を十回唱えます。そのときに赤、白、青、黄、黒の5色の小さい幣がつり下げられた天井が少しずつ下げられていき、最後の太鼓の打ち終りを告げると、人々が天井に張られたシメ縄や幣を我先にと奪い合います。このシメ縄を家に持ち帰り戸口に掛けておくと、疫病除けになると言われているそうです。でもこれを知らないと、今までのほのぼのとした雰囲気だったのがいきなり殺伐とした展開になり、ちょっとビックリします。

風の祭事記 世附の百万遍念仏(山北)

風の旅人
<2011年訪問 - 2019年2月更新>

広告