佐渡島一周ツーリング記2003 タイトル

佐渡島一周ツーリング記
#1 行きたい時が行き時

2003年8月、友人と2人、バイクを佐渡島に持ち込み、1泊2日の行程で島の一周を試みた時の旅行記です。(全17ページ)

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1、旅人とバイク

冒険のイメージ(*イラスト:Nakasaさん)

(*イラスト:Nakasaさん 【イラストAC】

私は小学生の頃から旅が好きな少年だった。映画のドラえもんや兼高かおるの世界の旅などの旅番組を見て、いつか自分も世界を旅したり、凄い冒険をしてみたいと思っていた。

小中学生の頃から日帰りでちょろちょろと旅をしていたが、高校生になると青春18きっぷを使って旅をするようになり、大学生になるとバイクを相棒にして日本を周り、また長期の休みを利用し、海外を一人で旅するようになった。

社会人になると、一度きりの人生、後悔がないように生きたい。と、迷いに迷った上の決断だが、仕事を辞め、念願だったユーラシア大陸横断を試みることにした。

ユーラシア大陸横断のイメージ(地理院の地図)
一般的なユーラシア大陸横断のイメージ

旅の期間は旅費の減り具合、旅の進み具合などに拠るが、1年ほどを予定していた。迷ったのがバイクの処遇。そんな長期間、バイクを動かさずに放置していたら、サビなどで深刻な状態になってしまいかねない。手放すのは忍びなかったが、愛車を売却して出発することにした。

君と一緒に行った旅の数々、そして一緒に移動した楽しかった時間のことは、ずっと忘れないよ。さらばだ・・・。君を売却して得たお金は、旅の資金として有意義に使わせてもらうことにするよ・・・。ドナ・ドナ・ドナ、ドナ・・・・。

ドナドナのイメージ(*イラスト:食べられる前頭葉さん)

(*イラスト:食べられる前頭葉さん)

ユーラシア大陸横断の方は、最初に予定していたゴールとは違った結末となってしまったが、それもまた旅。旅することに意義があるというものなので、成功だと思っている。

ただ、人生一大イベントだ。念願だった大陸横断の旅だ。せっかくだからインターネットで公開しながら旅をしよう。などと、真剣に、かつ、張り切って旅をしたせいか、帰国後は燃え尽き症候群になってしまった。

しばらく悶々と過ごしていたが、徐々にやる気や新しい旅への意欲がわいてくると同時に、すっからかんだった貯金も増えてきた。またバイクに乗って旅をしよう。旅をしていない私は私ではない。私が私であるためにバイクが必要だ。

バイクの納車日の写真
バイクの納車日

赤い男爵さんで程度のいい中古を購入しました。

ということで、6月の終わりに中古ながらブラックバード(HONDA CBR100XX)を購入し、約3年半ぶりにバイクのある生活が戻ってきた。

なぜブラックバードにしたのか。まあ旅と一緒で偶然の出会いといったやつになる。以前乗っていた400ccのアメリカンスタイルのバイクでは少し物足りなかったので、最初は排気量の大きなアメリカンにしようと考えてた。

以前乗っていたバルカンの写真
以前乗っていたアメリカンスタイルのバイク

二輪の大型免許を持っていないので、教習所で大型二輪の教習に通いながら、バイク屋を巡って、手ごろなアメリカンの中古車を探して回った。

色々と見て回っていくうちに、ブームでアメリカンの玉数が少なかったのもあるが、大型のツアラー(ツーリングバイク)もいいなと思うようになっていった。

ツアラーはアメリカンとはライディングポジション(乗車姿勢)が違うことが、一番大きな違いになる。車の乗車に近いのが、アメリカン。馬の乗馬に近いのが、ツアラー。どちらが好みとか、快適に感じるかは、人それぞれになる。

その他では、ツアラーの方はバイクの外側がしっかりとカウルで覆われている。カウルが付いていると走行中に風圧の影響を受けにくく、長距離での疲労が少なくて済むし、スピードを上げて走りやすい。

アメリカンとツアラーどっちにしよう。ツアラーでも色んなメーカーがあるし・・・。色々と迷っている最中、ある店で程度のいいブラックバードが目に止まり、これにしよう。と決めた次第。

小倉行フェリーの写真
小倉行フェリー

バイクが納車された後は、今まで乗れなかった憂さを晴らすように、7月は一週間の夏休みを利用して九州へ遠征したり、土日を利用し後輩のレースを応援しに鈴鹿へ行ったりと、バイク乗りらしい休日や余暇を過ごした。

2、行きたい時が行き時

前振りが長くなってしまったが、今回の佐渡ツーリングの話に入ろう。私がバイクを手に入れて1カ月半後。旅人全開モードに突入していた8月のお盆の話になる。暇をしている大学時代のバイク仲間が集まって、近況報告を兼ねた飲み会を行った。

乾杯のイメージ(*イラスト:amiyaoさん)

(*イラスト:amiyaoさん)

その席で友人が、「バイク乗り復活おめでとう。どうだ。ありきたりなツーリングではなく、旅を満喫できるようなツーリングに出かけないか。ちょっと遠めで。泊りがけで。」と誘ってきた。

この友人は、バイクを走らせるために箱根付近にはよく行くものの、それ以外へは滅多に行かない典型的な走り屋系のバイク乗り。乗っているバイクもレース用バイクを市販化したNSRと、筋金入りだったりする。

世間では夏休み真っ盛り。せっかくの夏だし、たまにはバイクで思い出に残るような旅をしたいな・・・。でも、一人だと億劫だし、どこへ行っていいのやら・・・。と思っていたようで、再びバイクに乗り始めた旅好きの私に話を持ち掛けてきた。

相槌を打つイメージ(*イラスト:くだみりどさん)

(*イラスト:くだみりどさん)

「そりゃいいな。どうせ泊りがけで行くなら普段行かないような場所にしよう。バイク復活記念だし。」と、ほろ酔い気分でどこか面白そうな場所は・・・と検討し、私の中でいつか行ってみたい旅行プランの一つ「佐渡島を一周っていうのはどう?」と、提案してみた。

船に自分のバイクを載せて離島をツーリングする。なかなかできないからこそ魅力的だ。大学の卒業旅行は八丈島と三宅島を訪れた。その時は現地でスクーターを借りて、島の一周を試みた。これがとても楽しく、素敵な思い出として残っている。

八丈島でスクーターに乗っている写真
八丈島で

離島をバイクで走るというのは、非日常感満点だ。走っていて、この先に何があるのだろう。何か面白いものがあるのでは・・・と、冒険しているような感覚になり、バイクを走らせることに心底ワクワクする。

あの時はレンタルスクーターだったけど、自分のバイクを持ち込んで離島を走ったのなら、更に感動的なツーリングになることは間違いない。

佐渡はちょっと遠く、行くのに手間や時間がかかるけど、せっかくのバイク復活記念旅行だし、友人とこういった旅行するのもひさしぶりだし、少し遠いぐらいがちょうどいい。それに佐渡金山をはじめ、佐渡には見所も多い。頑張って訪れるだけの価値があるはず。

地理院の地図

国土地理院地図を書き込んで使用

友人はすぐに「新潟の沖に浮かんでいる島だよね。」と、佐渡島の場所は理解した。しかし、気乗りしない表情で「佐渡ってめちゃくちゃ遠くないか。もっと近場でいいところはない?」と、そんな遠くまで行くのは面倒だ・・・といった感じで断ってきた。

彼の言う「ありきたりじゃないツーリング」という言葉に、私の中では佐渡やら能登半島やら、青森の本州最北端とか、それなりの場所が頭に浮かんでしまったのだが、どうやら彼の中では日光よりも少し遠いぐらいを想定していたようだ。

人それぞれ距離感が違う。普段あまり遠出をしない人と、頻繁に長距離を走る人とでは、遠いの感覚が違うのは当然だ。特に私の場合は、距離感が普通の人とズレているので、時々人を驚かすようなことになってしまうことがある。今回もそのケースになるだろうか。

思案するイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん)

佐渡は駄目か・・・。他の場所で探すか・・・。いや、行ってみたいな・・・、佐渡島。友人は乗る気ではないようだが、せっかくならこの機会に行っておきたい。

というより、一度行きたいモードに入ってしまうと、どうにも行きたくなってしょうがなくなるのが、旅人というもの。物欲みたいなものだ。

それに佐渡に行くなら泊りがけになる。一人で行こうと思うと、手間暇を考えると大変だし、一人で宿泊しても面白くない。友人が同行してくれそうなこの機会は、訪島する絶好のチャンス。この機を逃してはならない。友人を説得にかかった。

説得するイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん)

「新潟まで200キロちょっとだし、島もそんなに大きくないから、一周してもたかが知れている。思っているほど遠くないよ。それにある程度走るぐらいじゃないと、旅をした気分にならないぞ。」

「それはそうなんだけど・・・。結構時間がかかりそうだし、ずっと走りっぱなしだと、疲れそう。俺のバイク、レース用だから、長い時間乗っていると腰が痛くなるんだよね。もっと近いところの方がいいよ。せめて陸続きの場所にしない。」と、友人は渋る。

「船の中で休めるから、そんなにきつい旅にはならないぞ。船の中には横になるスペースがあるから、寝ていればばいい。横になっていれば腰の痛いもの回復するさ。何より船旅はいいぞ。なんか旅情とか、ロマンを感じないかい。」

「そういえば船旅ってしたことがないな。あっ、いや、高校の修学旅行で宮島に行ったときにフェリー乗ったっけな・・・。船旅か・・・。ちょっと惹かれるかも。でもな・・・。新潟まで200キロもあるんでしょ・・・。往復だと400キロ。う~ん・・・。思っているより距離はないけど、やっぱり遠い。ちょっときびしいかな・・・。」と、なかなかいい返事がもらえない。でも、少し心が動き始めている感じ。ここはもう一押し。

困難に立ち向かうイメージ(*イラスト:なむなむさん)

(*イラスト:なむなむさん)

「離島に行くこと自体、滅多に行く機会がないのに、自分のバイクで走るなんてなかなかできることではないぞ。」「離島をバイクで走るなんて冒険みたいで楽しそうではないか。」「大変だからこそ、やりがいがあるぞ。」「何事も挑戦しないと楽しくないぞ・・・」「自分の殻を破るチャンスだ・・・」「困難を乗り越えた先にこそ真の感動があるんだ・・・」「一生の思い出になるぞ!」と、旅の魅力やら、冒険心、やりがいなどを混ぜて一生懸命口説いた。

しばらくすると、「そうだね。じゃ行こうかな。離島も面白そうだし・・・。凄い旅が出来そうな気がしてきたし・・・。」と、友人は折れ、前向きにツーリングの話が進んでいった。

考えるイメージ(*イラスト:巻さん)

(*イラスト:巻さん 【イラストAC】

次なる問題は、「いつ行くか」だ。いきなり「佐渡へ行こう」となっても、学生のように長い夏休みがあるわけではない。社会人になると、お互いのスケジュールを合わせて・・・、となる。

佐渡なら2日だと厳しい。3日欲しいところ。でも、九州へ行くために夏休みはもう消化してしまったし、この時期は他の人との兼ね合いで有給も取りにくい。それは友人も同じこと。

長く休みが取れる別の機会にするか。秋には連休があるし・・・。それとも目的地をもっと手軽な場所、日光とか、飛騨高山にするとか・・・。いやいや、一度思い立ったら無性に行きたくなってしまうのが旅人の性(さが)。

「鉄は熱いうちに打て」「欲しい時が買い時」というように、行きたいと思った時が行き時というもの。この機を逃したら次に佐渡へ向かって風が吹くのはいつになるかわからない。それに時間を空けると面倒になってくるというもの。特に友人の方が「やっぱり遠いから・・・」などと言いかねない。

お盆の間はフル稼働で働いたので、来週末の土日は連休をもらっている。朝一の船に乗って佐渡島に渡れば、2日でなんとか佐渡を周れるだろう。飲んで気が大きくなっているのもあって、この場で決定した。

やれやれなイメージ(*イラスト:ちょこぴよさん)

(*イラスト:ちょこぴよさん)

後で友人に聞くと、地理には疎いので距離感がいまいち分からなく、頭の中では新潟はもっと遠そうな感じがするけど、地理感の強い私の話しぶりからそこまでではなさそうだし・・・。船に乗るのは楽しそうだし、一人ではなく、旅慣れた私と一緒だし・・・、まあ何とかなるだろう。と、酔っぱらっているのもあって、OKの返事をしてしまったらしい。

家に帰ってから地図を見たら、新潟まで200キロちょいと言いながら300キロあるし、新潟からも船で結構時間がかかるし・・・。こんなに遠いのに1泊2日の超ハードスケジュールだし・・・。ちゃんと地図を見ていたら、その場で「うん」と返事をしなかったよ。おまえの距離感が異常なんだよ・・・と愚痴をこぼしていた。

この時代はまだ便利なスマホがなく、適当感が溢れていた時代だった。もしその場でスマホを利用して地図を見たり、距離を検索していたら、佐渡までの距離におののいて、この話は実現しなかったかもしれない。

誘いを断るイメージ(*イラスト:poosanさん)

(*イラスト:poosanさん)

せっかくなので飲み会に来ている他のバイク仲間にも、「来週末、佐渡行くことにしたけど一緒に行く?」と声をかけてみるものの、「えっ、佐渡。ちょっと遠すぎる。」、「急に言われても土曜日出社だし・・・。二日間のツーリングはちょっと無理。」と手を挙げる人はいなかった。

当たり前のことだが、「今度の週末にツーリングに行こう」と誘うには、佐渡は少々遠過ぎるようだ。

ということで、8月の終わりの週末に、友人と二人で佐渡ツーリングを行うことになった。念願の離島ツーリング。楽しみ8割、準備期間があまりないので、心配や不安が2割といった感じだった。

佐渡島一周ツーリング記03'
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