風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

極寒のモスクワ散策記
#10 再び空港で

<1997年12月3日>

ソビエト連邦が崩壊してから6年後、政情、経済が不安定だった1997年の冬、トランジットでモスクワを半日ほど散策した旅行記です。(全12話)

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10、再び空港で

夜の空港
夜の空港

空港前のバス停に到着した。バスから降りてみると、辺りは完全に真っ暗になっていた。

ここで朝スカーフをもらったんだよな。あの時おばちゃんにスカーフをもらったからこそ、その後の旅に弾みがついた。まだ半日も経っていないがちょっと懐かしく感じる。

でも感慨にふけっている場合ではない。雪が降り始め、一段と寒く感じる。急ぎ足で空港に入った。

空港内に入り、財布を開いてみると、結構お金が残っていた。普通に考えれば半日の観光で1万円も使わない・・・。でも色々と防寒具を買うのにお金を使ったし、お金の心配をせずに観光や買い物ができた事を考えると、失敗ではなかったはず。

空港の免税店でロシアのお金が使えるかどうか分からないので、少々割高感のある空港ビルの土産物屋で残ったお金を使うことにした。

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ロシアの民芸品を置いている土産物屋に入ると、人のよさそうなおばさんが店番をしていた。

挨拶をすると、こんな変わった格好の人もめずらしいのか、はたまた暇なのか英語で話し掛けてきた。

「どこから来たの?」「日本からです。」「はあ、やっぱり。そう思ったのよ。でもあんた、変わった服を着てるね。」と返ってきた。

私も飛行機の時間まではまだたっぷり時間があるので、モロッコを旅してきたことや、トランジットでモスクワを半日歩いてきたことなどを話した。

しばらく雑談が続き、「ロシアらしいお土産は何ですか?」と聞くと、ショウケースを指差し「このロシア人形(マトリョーシカ人形)だよ。」と指さした。

日本でいう「こけし」の様な形をした人形で、段々と小さくなっていくのが特徴だ。小さくなっているのには訳があって、人形は胴体が上下に割れ、その中に一回り小さい人形が入れられるようになっている。

人形の顔は伝統的な女性のものから、話題の人まで様々。一番大きな人形の中に全部の人形をしまうことができるのでかさばらなく、お土産としては都合がいい。

個数は様々で、大きいやつは30個で1セットと大がかりだった。しかしそういったものは恐ろしく値段が高く、値札にはビックリするぐらいゼロが並んでいた。

歴代書記長のマトリョーシカ人形
歴代書記長のマトリョーシカ人形
歴代書記長のマトリョーシカ人形
半分に割ったところ

おばさんにこの金額で買える中でのお勧めはと、持ち金を出して見せると、5個で1セットになっている歴代の書記長の人形を勧めてくれた。

これがこの店で一番人気があるとの事だった。色合もカラフルで、話題性もあり、観光客に人気となっているのも納得。できれば親しみを感じるゴルバチョフさんが一番大きかったらなと思うのだが、もう過去の人なのでしょうがない。

そんなにソビエトの書記長に思い入れがあるわけではないが、同じ顔で、同じ服を着た人形が10も20もずらっと並んでいるのは、ある意味気持ち悪いし、違った顔の方が部屋に飾るのにはいい。他に気に入るものもなかったので、これにした。

空港内の店で観光客価格のせいか思いのほか高い買い物で、この人形を買ったらほぼ手元のお金が無くなってしまった。気持ち程度残ったルーブルを見せ、これで何か買えるものはないかとおばさんに聞いてみると、小さい人形のキーホルダーを二つ出してくれた。

それも購入し、ロシアルピーを使い果たすと、これでロシア旅行に一区切りがついたといった気持ちになった。

会計をしながらおばさんに今日の気温を聞いてみると、「今日は何度だろう。特に気にならなかったな・・・。私はずっと室以内にいたから詳しくはわからないけど、いつもと一緒じゃない。昼間は0~-5℃ぐらいで、朝と夜は-10~-15℃ぐらい。」と教えてくれた。

私としては、とんでもなく寒いし、雪は積もっているし、ピンポイントでとんでもなく寒い日に来てしまったのでは、と思っていたが、ここで暮らしている人にはいつもと変わらない日常の気温だったようだ。でもやっぱりマイナスというのを当たり前に言ってのける感覚は、旅行者からすると不思議に感じる。

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袋にパッキングしてくれた商品を受け取り、「ありがとう。さよなら。」とおばさんに言って店を出た。

もうすることがないし、そのまま入国審査に向かったのだが、まだ出発時間まで少し時間があったので、ゲートは閉まっていた。

仕方なくゲート近くの椅子に腰掛けていると、目の前を日本人らしき男性が通り過ぎた。

空港で日本人が歩いていても珍しくはないが、この人はとても目立つ。年齢は40代後半か、50代ぐらい。背は低く、髪は長髪で、かなり体格がいい。しかもロシア人の連れ人がいた。

空手か柔道の師範だろうか?だいぶん前に流行った映画ベストキットに出てくるミヤギさんみたいな雰囲気をしている人だ。

鞄を持っているのは日本人だけなので、連れは見送りなのだろう。いったいどういう人なんだろう。少なくとも普通の人ではなさそう。ちょっと興味を惹かれた。

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ベンチに座っていると、今日一日のことが思い浮かんでくる。

モスクワは半日しかいなかったけど、なんか色んな事があってなかなか楽しかったな。それに自分の今まで持っていたロシアのイメージとはぜんぜん違ったのには驚いた。

テレビとかでは断片的な場面しか映さないので、偏見を生みやすい。やっぱり「百聞は一見にしかず」。自分の目で見て、自分の頭で考えることが大事ということだな。それに日本で思っている以上に世界はめまぐるしく動いているようだ。

今回半日だけだったけど、ロシアの素顔を自分の目で見る事が出来たのはとてもいい経験になった。

社会主義の国ソ連。私が高校の時ソビエト連邦が崩壊した。それまでは赤の帝国。社会主義の国。冷徹の国。その他悪いイメージしか持ち合わせていなかった。

ソ連なんて一生行くこともないだろう。いや行きたいとも思っていなかった。そういったソ連を自分の意志で自由に歩き回ることになるとは、なんとも感慨深い一日になった。

入出国スタンプ
入出国スタンプ

椅子に座って一日の体験を回想していると、ようやくゲートが開いた。ここにいても暇だ。さっさと出国審査を済ませてしまおう。

出国審査官に入国の時に切り離されたビザの半券とパスポートを提出すると、相変わらず形式的な感じでポンと出国スタンプを押し、無愛想に返してきた。

さらばモスクワ、もう一度来ることがあるのだろうか?いや、多分ないだろうな・・・。なんとなくだけどそんな気がした。

極寒のモスクワ散策記97'
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