風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

極寒のモスクワ散策記
#3 寒さと温かさ

<1997年12月3日>

ソビエト連邦が崩壊してから6年後、政情、経済が不安定だった1997年の冬、トランジットでモスクワを半日ほど散策した旅行記です。(全12話)

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3、寒さと温かさ

入国審査を無事に終え、空港の到着ロビーに出た。思っていたよりも空港内に活気がない。朝早いせいだろうか。いや、空港内にある免税店からして活気がないのだから、これが普通に違いない。

まずは両替をしなければ・・・と、銀行を探すまでもなく、すぐ目に付くところにあった。が、窓口には結構人が並んでいる。

さてどうしたものか。ここで迷った。ロシアの物価は一体どれくらいだろう?町中で簡単に両替はできるのだろうか?さっぱりわからない。

今回の目的地はモロッコ。そしてスペインとポルトガルを足早に周ってきた。それが手いっぱいで、入国できても半日の滞在しかないロシアについてはほとんど予習をしてこなかった。実は荷物になるからとガイドブックすら持ってきていない。

ここの両替所はかなり並んでいるし、ロシアでは並ぶのが当たり前だといったイメージがある。ここである程度両替しておかないと、後で両替をしたい時にできないのではないか。

場合によっては飛行機に間に合わなくなったりして・・・。そう考えると恐ろしい。

とりあえずお金には余裕があるので、ここは思い切って1万円両替しておくか。余ったらモスクワのお土産を買えるだけ買えばいいや。今後モスクワに来る事なんてきっとないだろうし、何より不安になりながら観光するよりはいいはずだ。

両替票
両替票

10,000円=423,000ルーブル

私の順番がやってきたので、気前よく1万円札とパスポートを出した。窓口の人は若い男性で、さっきから見ていると、てきぱきとよく働き、愛想がいい。なかなかの好青年だ。

彼は紙幣の透かしなどを確認した後、結構な枚数の紙幣を渡してきた。う~ん・・・、なんだか沢山あるぞ。しかも面倒なことにゼロが多い。

予想外にもらう紙幣の数が多く、数えるのが面倒・・・。まぁいいやと思い、数える仕草だけして「オッケー、ありがとう。さようなら」と言うと、「どういたしまして、良い旅行を」とかえってきた。

なんてさわやかで好感が持てるのだろう。さっきのビザ発給係のおじさんに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

ロシアルーブル
ロシアルーブル

両替も済んだし、空港から市内へ繰り出そう。日本で調べた限りでは、バスと地下鉄を乗り継ぐのが一番安い方法だった。持参したバスと地下鉄の路線図のコピーを頼りに挑戦してみる事にした。

まずはバス停を探さないと・・・。バス停の案内板を探しウロウロしていると、一人の男の人が声をかけてきた。

「ミスター、タクシー?」って、タクシーの勧誘か。タクシーなら楽に市内の中心まで連れていってもらえるけど、ここから市内までどのくらいの距離があるのか分からないし、何より物価の分からない状態でタクシーに乗るのは危険。いくらボラれるかわかったものではない。

それに昔読んだ本では、ソ連崩壊後、空港から市内への幹線道路でタクシーを狙った強盗が多発したとか書いてあった。今は少なくなったという話だが・・・。タクシーには乗らないことに越したことはない。丁寧に「ノーサンキュウ」と断った。

断ると、そうか、といった感じで去っていった。あれれれ、それで終わりなの?値段を下げるとか、しつこく交渉してくるものだと思って身構えていたのに・・・。やっぱりここはモロッコとは違ってヨーロッパの文化圏なんだな、と感じた瞬間だった。

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更にウロウロしていると、バスのマークが描いてある出口を発見。 ここから出ればバス停に行けるのだな。何のためらいもなく二重になっている自動ドアから外に出た。が、そこは想像を遥かに超えた極寒の世界だった。

「うわぁ、な、な、なんなんだ、この寒さは。体が凍る!」あまりの寒さに、反射的に空港の中に戻ってしまった。

私の着ているものは、シャツと厚手のトレーナーの上にモロッコの民族衣装を着ているだけだった。周りを見てもこんな薄着の人はいない。あまりにも無防備というか、冬のモスクワをなめ腐っているとしか言いようのない格好だ。

こんなに寒いとは・・・。空港内が暖かかったので、外の寒さのことはすっかり頭の中から消えていた。いや、頭にはあったけど、ここまで寒いとは思っていなかった。

服屋を探すか。でも、さっき見た感じそんなものはなかったな。だいたい空港に服屋があるとは考えにくい。あってもブランド品店ぐらいではないか。

困ったな・・・。このまま暖かい空港に籠城するか。いや、それでは何のためにビザを取得したのか分からない。

きっと乗り物の中は暖かいだろうし、町に出てしまえば何とかなるはず。とりあえずバスを待つ間、我慢しよう。何よりビザ代の40ドルがもったいない。

ということで、ここは日本男児の生き様を・・・なんて少し大袈裟に思いながら、寒い中を強行することにした。

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再び自動ドアを開けると、再び凄まじい冷気が襲いかかってきた。不意を付かれた先ほどに比べると、心構えができている分少しはましとはいうものの、やはり寒い。背中を丸めて少しでも暖かいようにバス停に向かって歩いた。

バス停は歩いてすぐのところにあった。自分の乗りたい路線番号とバス停の番号があっているのを確認して、列の一番後ろに並んだ。

それにしても寒い。体の芯から冷えるというのはこういうことを言うのだろうな。正直、あまりしゃれになっていない。

震えながら列に並んでいると、2つ前に並んでいる背の低いおばさんと目が合った。そして私に向かって何か言ってきた。

「○○△△××???」なんだ?ロシア語のなので何を言っているのかさっぱり分からない。分からないといったジェスチャーをすると、おばさんはにっこりと笑いながら鞄の中から綿で出来たスカーフを取りだし、私の首に巻いてくれた。

これは助かった。首筋からの寒さが少し和らぎ、幾分ましになった。何より優しい心意気に心が温められた。

笑顔で「サンキュー」とお礼を言ったものの、反応がない。英語が全く通じない。しまった。ロシア語の「ありがとう」を覚えておけばよかった。

それでも私の感謝の意は伝わったようで、おばさんも満足そうに笑っていた。

見るからに寒そうで気の毒に思ったに違いないけど、とりあえずモロッコの民族衣装を着た日本人はモスクワで受け入れられたようだ。

ロシアに関することは悪い評判ばかり耳にするけど、実際に暮らしている人はそうでもないのかもしれない。私のロシア人に対するイメージがマイナスからプラスになっていった。

しかし気温が氷点下だという事実は変わりなく、少し温かくなった心をカイロ代わりに寒い中バスを待ち続けた。

極寒のモスクワ散策記97'
#3 寒さと温かさ
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