風の足跡 ~風の旅人旅行記集~
トルコ旅行記96'

§1 カイセリ商人の洗礼
#1-3 今日はカイセリの日

<カイセリ 1996年7月27日>

乗り継ぎで立ち寄ったカイセリ。名の響きに惹かれ、町を散策してみると、思い出に残る出会いが幾つもありました。(全5ページ)

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4、ドネル・キュンベット

ミニバス乗り場とエルジェス山 カイセリ トルコ旅行記96'の写真
ミニバス乗り場とエルジェス山

エルジェス山を時々振り返りながら歩き、一旦バスターミナルに戻ってきた。そのままカイセリ市の中心に行こうと思っていたのだが、けっこうな運動をしたので途中からお腹がグゥグゥと鳴りっぱなし。

そういえばバスターミナルに手軽に入れる食堂があったな。足も疲れたし、一休みしよう。ということでバスターミナルに戻り、その食堂に入った次第だ。

食堂でパンとチャイ(紅茶)を頼むと、これからの行動予定を立て始めた。カイセリからカッパドキアまでは2時間程度。夕方前に着ければいいから、昼過ぎまでカイセリにいても問題ない。

エルジェス山という素晴らしい山を見た後なので、そのお膝元のカイセリの町にも今まで以上に興味がわいてきた。なんせティヴェリウス皇帝がこの町の美しさに感動し、皇帝カエサルにちなんでカエセレアと改名したのだから、きっと素晴らしい町に違いない。

それに中途半端な時間にカッパドキアに着いて、時間をもて遊ぶ事になるのだったら、ここでしっかりと時間を使って観光をした方が有意義というものだ。よしそうしよう。今日は予定変更してカイセリの日という事にしようではないか。

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まずは町の中心から少し離れたカイセリ考古学博物館に行ってみる事にした。ガイドブックには、とても小さくこじんまりとした博物館で、展示は少ないけど付近で出土された小さい子供のミイラを展示してあると書かれていた。

小さい博物館という記述だけなら触手が動かなかったけど、ミイラという部分に惹かれた。ミイラといえば、人間の死体。されどもミイラ。なぜだか不思議な魅力がある。

キュンベットとエルジェス山 カイセリ トルコ旅行記96'の写真
キュンベットとエルジェス山

そんな事を考えながら博物館に向かって歩いていると、道の真ん中に変わった建造物を発見。小さな石造の塔なのだが、面白い形をしている。まるで短い鉛筆というか、ロケットのようだ。

何だろう。ガイドブックを見ると、これはセルジュークトルコ朝の象徴的な建物で、トルコ語でドネル・キュンベット、霊廟となるようだ。

トルコでは町中を歩いていると、大きな串に肉をドカッと積み上げてグルグルと回転させながら焼くドネル・ケバブをよく目にする。名前が似ているだけあってこのキュンベットもなんとなく雰囲気が似ている。

もし目の前でケバブのようにクルクルと回転を始めても違和感を感じないだろう。そしてクルクルと回転しながらロケットのように空へ飛んでいったとしても、きっと驚かないだろう。

色々と想像力を駆り立てるキュンベットだが、エルジェス山を含めた周囲の雰囲気が素敵だからこそメルヘンチックに感じるのかもしれない。

5、カイセリ考古学博物館

ドネル・キュンベットから歩いてすぐのところにカイセリ考古学博物館博物館があった。さっそく中に入ると、すぐ受付兼事務室があり、覗くと奥のテーブルでおばさんが一人で書類を書いていた。

めったに客が来ないのだろうか。それとも開館して間もないからなのか、入り口に気を配る様子がない。

あまりにも熱心に書き物をしていて、邪魔をしたら悪い雰囲気。とはいっても、いつまでもここに立っているのもばつが悪い。受付にあるベルを控えめに鳴らしておばさんを呼んだ。

ベルが鳴ると、「あら、いたの。気づかないでごめんね。」といった感じで、おばさんが照れたような笑顔で窓口に来てくれた。挨拶をして、学生チケットを下さいと頼んだ。

昨日まで滞在していたトラブゾンでは「学生です。学生料金はありますか?」と尋ねたら、係のおじさんが「日本の学生かい。よく来たな。学生料金はないけど、日本の学生なら入場料はいらないよ。よく見ていきな。」と、ただで中に入れてくれた。

ここでもそういう素晴らしい展開にならないかな・・・と少し期待して「学生」をというのを強調して言ってみたのだが、そうそう都合よくはいかなく、ちゃんと見せられた料金表に学生料金があった。

入場チケット
カイセリ考古学博物館のチケット

言われた料金を払うと、4枚ものチケットを渡された。ん!一人分の料金しか払っていないのに・・・なぜ?よく見るとチケットの色が微妙に違う。別の場所の入場券も兼ねているのだろうか?よくわからない。

戸惑っている私の表情を読みとってか、おばさんが「ノープロブレム(問題無い)」と言い、続けて「トルコはインフレの為に物価がすぐ上がり、入場料も上がる。そして入場料が上がるということは入場券に記載されている値段も変えなければならなく、その分を足していたらこうなったのよ。」と教えてくれた。

なるほどそういうことなのか。なんだか郵便切手みたい・・・。観光客が多く訪れる有名な博物館や遺跡では、チケットの回転が速いのであまりこういうことはないようだが、小さい博物館ではこうせざるを得ないとか。

今あるチケットがなくなれば新しくなるのよ、とおばさんは言うけど、インフレが止まらない限り、またいたちごっこになりそうだ。コロコロと値段が変わるのなら、金額の部分を日付のスタンプの様にすれば毎日でも値段が変えられるのに・・・と、押し付けられるように渡された4枚のチケットを見ながら思ってしまった。

カイセリ考古学博物館内 カイセリ トルコ旅行記96'の写真
カイセリ考古学博物館内

この小さな考古学博物館には、付近で発掘されたローマ時代の遺跡の発掘物や、子供のミイラなどが展示してあった。ギリシャの文化が強いようで、ギリシャ風の展示物が目立っていた。

一番期待していた子供のミイラは窓から入ってくるほんわかとした光の中に展示されていた。日向ぼっこをしていて気持ちよさそう。でも干乾びそう・・・ってもう干乾びているのか。

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小さな博物館だったので、10分もかからず見終わってしまった。入り口に戻ると、おばさんはまた書き物を熱心にしていた。ただ今回は気配に気が付いてこっちを見てくれた。

「見終わったよ。さようなら」と声をかけると、「気を付けて旅行してね」と返答し、再び書き物に取り掛かっていた。よほどの考古学的な大発見でもあったのだろうか。

今後はカイセリの遺跡が世界遺産にでもなったりして・・・。それとも先ほどのキュンベットが宇宙人の宇宙船を模したものだといった衝撃的な発表を控えているとか・・・。あまりの熱心さに色々と考えてしまうが、単に昨日やり忘れたことを慌ててやっているのかもしれない。

その辺の事情は分からないが、私的にはこの博物館では考古学よりも経済、とりわけインフレによる弊害について実践的に学ぶことができた気がする。

6、カイセリ城

イスラムの墓地 カイセリ トルコ旅行記96'の写真
イスラムの墓地

博物館を出ると、すぐ横がイスラムの墓地になっていたので、ちょっと寄ってみた。

墓地一帯は草が茂っていて、石柱のようなものが一面にニョキニョキと乱雑な感じで立っていた。これがイスラム教の墓地なのか。墓地なので当たり前といえば当たり前なのだが、ちょっと殺風景に感じる。

石の間隔や雰囲気的にそのまま土に埋める土葬なんだろうか。ということは人がそこに眠っているのか。そう思うと、辺りの風景が更に殺伐しているようにと感じてくる。夜は絶対に来たくないな・・・。

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墓地から少し歩くと、市内の中心部に入ったようで、道路沿いには建物が建ち並び、都市といった雰囲気になってきた。

大通りを歩いていくと、カイセリのシンボル、カイセリ城が遠くに見えてきた。堅牢そうな城壁と防御塔を持っていて、いかにも城ですといった佇まいをしている。

すぐ近くまで行くと、城壁が高くそびえていて、なかなかの威圧感。もし攻め手だったなら城壁の上に弓兵が並んでいるのを見たら、しり込みしてしまいそうだ。

カイセリ城 カイセリ トルコ旅行記96'の写真
カイセリ城

ここカイセリは古くから交通の要所にあたり、このカイセリ城はその要となっていた。城壁はエルジェス山の火山岩で築かれていて、南北に800m、東西に200mもあり、19の塔を備えている。とても大きな城砦だ。

歴史をみると、6世紀ビザンチン時代ローマのユスティ二アヌス皇帝が築き、その後1224年にセルジュークトルコのスルタン・ケイクバッド、15世紀にオスマントルコのメフメット2世とトルコ人によって改修されている。

巨大で見ごたえのありそうな城砦跡だが、なんとここは見学は無料で、自由に中に入れる。城壁沿いを回りながら歩るくと、城門というか、入り口があった。

立派な城壁から察するにとても防御力が高く、壮大な城なんだろうな。内部には兵が駐屯する部屋があったり、武器庫とか、銃眼があったりするんだろうな。中世らしい城塞や攻城戦とかの荒々しいイメージを膨らませ、期待を込めて中に入っていった。

カイセリ城の内側 カイセリ トルコ旅行記96'の写真
カイセリ城の内側

しかし中に入ってみると、なんじゃこれは・・・。呆然と立ちすくんでしまった。城内は普通の感じの広場になっていて、そこでは青空市場が開かれていた。城塞という雰囲気がまるでない。

そりゃないよ・・・。オスマントルコとか、セルジュールトルコといった勇ましいイメージが幻となって吹き飛んでいく。無料なのはこういうことだったんだ。なかなか衝撃的な展開だった。

城内を歩き回ってみると、奥の方は普通の建物があり、日用品とか土産物屋の店が並んでいた。服屋や布屋も多く、おばさんたちが当たり前のように服屋さんで洋服を品定めしている。

見ていると、小柄な店主のおじさんは貫禄あるおばさんの啖呵に押されっぱなし。立派な髭を生やしているが、あまり意味がないようだ。あれは間もなく陥落するな・・・。

ほんわかとしていて、城壁が見えなければ城の中にいることを忘れてしまいそうだ。というより、せっかくの城なんだから市場にしなくたっていいじゃないの・・・。憮然としてしまうが、観光客がいくら心の中で文句を言ってもどうにもならないこと。

せめて城壁の上に上がれないかな。城壁沿いをさまよってみるものの、どこも封鎖されていて城壁に上がれなかった。中に入れなかったほうが、想像力をかき立てられたかもしれない。

7、ドネル・ケバブ

城を見学した後は、少し当てもなく町を歩いてみた。歩いていると、建物の隙間や大通りなどの少し開けた場所からエルジェス山の美しい姿を確認することができた。ティヴェリウス皇帝がこの町の美しさに感動し、皇帝カエサルにちなんでカエセレアと改名したのもわかる気がする。

ただ市内は建物が多いので、ちょっと見え方がよくない。広々として高い場所・・・、そう、カイセリ城の城壁から見れたらどんなに素敵だっただろう。やはりそれが心残りだ。

キュンベットとミニバス カイセリ トルコ旅行記96'の写真
キュンベットとミニバス

そういえば腹が減ったな。朝食もパンを軽く食べただけだし。それに町中にあるドネル・キュンベットを見ていると、無性にドネル・ケバブが食べたくなってくる。

ケバブを食べよう。サンドイッチにしたやつがいい。肉を焼いた香ばしいにおいに誘われ、店頭でグルグルと回転させながら肉を焼いているケバブ屋に入った。

店のおじさんに「ケバブが欲しい」とグルグルと回転しているケバブを指さし、トマトが駄目なのでトマトは抜いてくれと身振り手振りでケバブサンドを頼んだつもりだったのだが、テーブルに座って待っていると、切った肉と野菜が盛られた皿と、バスケットに入ったパンを持ってきた。

店内で食べる場合はこうなるのか・・・。それとも注文の仕方を間違えたのか。いや、訳の分からん説明をする東洋人がいる。面倒だから皿に盛っておけとなったのかもしれん。まあその辺の事情はよくわからないけど、吉野家で牛丼を頼んだら牛皿が出てきた気分なのは確かだ。

まあいいか。しょうがない。食べ始めてみると、これも悪くない。何よりバスケットに沢山入っているパンがおいしい。遠慮なくバスケットの中のパンを平らげ、満足。そして満腹。

さてどうしようかな・・・。食べ終わってガイドブックを眺めていると、店のおじさんが皿を片付けにきた。

「君は日本人か」と聞いてきたので、「そうだ」と答えると、やっぱり日本人だったよといった感じで他の客や店員に大きな声で話していた。そして「うちの料理はうまかったか?」と聞いてきたので、「うまかったよ。」と空になった皿とバスケットを指さすと、満足そうな感じで頷き、皿を片づけていった。

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