風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~

~ 旅や旅人にまつわるエッセイ ~

§18、旅で気になる「ラストプライス」と「ノープロブレム」

~ ラーストプライス ~

旅に出ると耳にたこが出来そうなぐらい聞かされるというか、印象深い言葉があります。訪問する地域によりますが、その横綱となるのが「ラーストプライス」です。普段日本では馴染みのない言葉ですが、値札の習慣のない国で買い物をする時に、必ず最後にこの言葉を投げかけられます。買い物というものを今まで何の気なくしてきた日本人にとっては、交渉して値段を決めるという事は頭で考えているほどやさしいことではありません。

特に観光客慣れしている土産物屋などを相手に交渉するのは至難の業で、「ラーストプライス」に悩まされ、ラーストプライスノイローゼになってしまうこともあるでしょう。文化の違いに慣れるというのは大変なことですし、またお金が絡んでくると相手も容赦なく本気モードになるのでなかなか厄介です。

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タイのトゥクトゥクの交渉の写真

乗り物の交渉

交渉の場合は相場を知らないとしんどいです。

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「ラーストプライス」が使われるケースととしては、タクシーなどの交渉でお互いの言い値が合わなかったときに使われたりしますが、やはり観光客としては土産物屋での交渉が一番厄介に感じる事でしょう。とにかくしつこいですから。

例えばとても興味を引くものが置いてあったとします。値札がついていないので一体いくらなんだろう?安かったら買おうかな。そう思い、店の人に「いくら?」と聞くと、「10ドル」と返答が返ってきます。こっちが「いらない」とか、「高い」と言うと、「8ドル」といった感じで少し下げた値段を言ってきます。それでも「いらない」と言うと、この「ラーストプライス(君にとっての最終価格はいくら?の意)」がお目見えします。

こっちがいくらと言ってしまい、それが相手にとって利益があるのならすぐに交渉成立してしまうので、相場を知らないと下手に値段を言う事が出来ません。相場が分からない旅行者としては、不利な買い物のシステムです。もちろん値段を言った後に「やっぱりいらない」と言う事もできますが、奥ゆかしい日本人には言いにくい事です。あまりにもスムーズに交渉が成立してしまった場合は、まずボラれていると考えた方がいいです。

もともと不利な条件での交渉なので、毅然とした態度で断る事もありだと思います。例えば「ちょっと値段を聞いてみただけだよ。」といった感じに。ただ、あいまいに笑いながら断っていると、「今いくらと言ったではないか。とっとと金を払え!」と脅してくる事もありますので気をつけましょう。日本人はこの手でやられることが多いので・・・。

この交渉は、値切り方のコツをつかめるようになればゲーム感覚で面白いのですが、慣れるまでが大変で、毎度毎度断るのに苦労したり、ボラれ続けると「ラーストプライス・ノイローゼ」になってしまい、土産物屋に入ったり、人に物の値段を聞くのを極度に避けるようになってしまいます。それぐらいしつこいほどラーストプライスと言ってきます。

商売熱心なのか、ボリ上手なのか、とにかくこの買い物システムに不得手な日本人はよく狙われているようです。まあ観光客からいくらボッても後腐れがないし、日本人は金払いもいいし、困ったら脅せば何とかなる場合が多いしと、まあ向こうの人には日本人はネギを背負ったカモに見え、自然と口から「ラーストプライス」が出るのかもしれません。

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ラクダ市場での写真

らくだの売買

このときは真剣な顔でした。

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~ 買い物下手な日本人 ~

日本も昔は商店街の八百屋で大根一本にしても、「いくらにしなさいよ」と言うのが当たり前の時代があったと聞きました。海外に出て思ったのは 、定価に慣れすぎているのか、日本人が買い物下手になっているという事です。何処の国に行っても日本人だと分かるとぼってくる店が多いのが実際です。相場の2~3倍は当たり前、ひどい所は10倍以上もぼってきます。馬鹿にしているのかと唸ってしまうのですが、向うも前例があるからそれだけぼってくるのでしょう。

仮に相場で100円の物があったとします。向うの売り手は日本人だと分かると、500円ぐらいと言います。遠慮深い日本人としては 半額ぐらいから値段を交渉するのがエチケットだと、250円ぐらいでどうだと言います。向うは引っかかったと思い出来るだけ値段を吊り上げてきます。そして、400円ならいいと言います。遠慮深い日本人はやっぱり半額は安過ぎたと思い300円でどうだと言います。 売り手は350円に値を下げてきます。このへんから妙に日本人は強くなるみたいで300円から値を上げなくなります。

そして、最終的に300円で交渉成立。めでたしめでたしとなるわけなのですが、交渉を始めた時点で既にぼられているのでは話になりません。できる限り一回目では買わず、相場を確かめるのが買い物上手かもしれません。しかしながら時間の少ない観光客にとっては、あそこで買っておけばよかったという事になるのも、嫌な思い出になります。かといって、ぼられっぱなしというのもよくないので、しっかりと相場を知る努力はしましょう。

でも、よくよく考えるとさっきの交渉ではお互い200円ずつ得したわけです。買い手は500円の物が300円になったと思い込んでいるので、俺の交渉力は凄い、200円も得したと考えるし、売り手は100円の物が300円で売れて、日本人はボロいぜと200円の臨時収入を得たわけです。知らぬが仏とはよく言ったものです。そう考えるとこれはこれでいいのかなと思えてくることも。そして、日本人は平和的で幸せだなとしみじみ感じてしまいます。

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カトマンドゥの市場通りの写真

カトマンドゥの市場通り

独特の雰囲気があって好きです。

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~ ノープロブレム ~

次によく聞く言葉が「ノープロブレム」です。邦訳は「問題ない」という意味なのですが、日本的感覚からすると、実に問題ありありの言葉なのです。我々日本人が細かい事を気にしすぎているのか、向うの人が大雑把過ぎるのか、何か文句や不平を言うと、言い訳のようにこの言葉が返ってきます。

インドでの出来事ですが、インドの電車は時間に遅れると聞き、乗り継ぎ時間を2時間半ぐらい取って予約を入れたのですが、最初の電車が2時間40分遅れてやってきました。駅員の人に次の電車に間に合わない、どうすればいいかと聞いたところ、「ノープロブレム、多分向うの電車も遅れてるよ。」との回答。そう言われるとなんとなく安心してしまいます。

しかし、実際に乗り継ぎの駅に着いてみると、乗るべき電車は定時にやってきたようで、えらい困った事がありました。その時は「何がノープロブレムだ!」と一人で憤慨していたのですが、今思えばその後何とか苦労しながらも旅は続けられたし、親切な人に出会ったし、やっぱりノープロブレムだったかなと思えるのが不思議です。

そういったトラブルに慣れてくると、本当に問題ありな事などこの世には僅かしかないのではないのかな。この世はノープロブレムで溢れているんだ!などと思えてきたりします。私のように旅に出てからそう感じるようになった人もいるのではないでしょうか。

また日本人は時間にうるさい人種でもあります。日本では「少々お待ちください」とか、「5分お待ちください」と言われれば5分ぐらい待てば解決するものですが、日本以外の国で「ちょっと待ってください」「5分待って」といった返答は普通に10分、30分待たされることがあります。全然ちょっとじゃないじゃないか!5分じゃなかったのか!と日本的感覚では怒りたくなってしまうのですが、これも文化の違いなのです。日本では5分は5分だけど、海外での5分という言い回しはしばらくという解釈となることも印象深いです。

特に時間にうるさい人などは「ラーストプライス」よりもこの「5分待てノイローゼ」になってしまうかもしれません。なんていうか、日本人は細かいことを気にしすぎなのでしょうか。それとも立てる計画が細かすぎるのでしょうか。郷には入れば郷に従えといった感じで海外へ出たならその国の感覚に合わせないとストレスが溜まってせっかくの旅が台無しとなります。イライラせずに悠長に待つといった事も必要かと思います。特に暑い国では。もちろん旅でおおらかな時間感覚を取得して、それを日本で実践すると、会社を首にって事になるのでご注意を!

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カトマンドゥの路上市場の写真

カトマンドゥの路上市場

多くの土産商が路上に品物を並べていました。

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~ 日本語をしゃべる外国人 ~

その他によく聞く言葉で印象的なのは、「こんにちは」です。しかもアクセントがめちゃくちゃなやつです。どの国に行っても観光地では、必ず「こんにちは」と声をかけられます。それほど日本人が海外に出ている事だと思いますが、善意で挨拶してくるよりも日本語で安心させようとか、話すきっかけをつかもうといった下心丸出しで声をかけてくる場合が多いから、非常に感じ悪いです。

それは言い過ぎでは・・・。向こうもせっかく日本語を使ってくれているのだし・・・。そんな程度のことを気にしていては旅は出来ないんじゃない。などと思う人もいるかもしれませんが、実際観光地で、例えばピラミッドなど超有名な観光地を見学している最中などに、こんにちはと声をかけてくる人間の9割以上が下心のある人間です。アクセントのむちゃくちゃな「こんにちは」という言葉と共に客引きが群がってきて、断ってもなかなか離れないし、結構邪魔に感じます。

観光地ばかり巡っているような旅をしていると、徐々に「こんにちは」という言葉が耳に触るようになってきて、またかといった感じで顔がしかめっ面になっていくものなのです。本当なら日本語で挨拶されるとうれしいのですが、なかなかそうも言っていられないのが現在の観光事情です。個人的には「ニー・ハオ」なんて声をかけられる事も多く、これはこれであまりいい気はしないです。

物価の安い国の物売りや商人が言うには「日本人はお金持ちだし、次から次へと多くやってくるし、お土産なども多く買って行くし、同じような話術で交渉すれば言い値で買ってくれるので、日本語を覚えればいい商売になるんだ」との事。

実際のところは商売というより、ぼろもうけができるというのが正しく、例えばトルコの絨毯屋は息子を日本語学校に通わせていたりします。街を歩いていても日本語を学びたいという人によく声を掛けられます。「日本が好きだから日本語を勉強したいんです」と言ってきますが、本当の目的はお金儲けという場合がほとんどです。それほどぼりやすいのが旅に出ると財布がゆるむ日本人観光客なのです。

また日本人女性相手のジゴロというのも世界ではトレンディーな商売となっているので、それを目指して日本語や日本の文化を学ぼうとする若者も多かったりします。まあ観光地で日本語をしゃべってくる輩にはご注意をとだけ言っておきます。

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イスタンブールのグランドバザールの写真

イスタンブールのグランドバザール

とても大きな市場です。
観光客も多くくるので結構ボッてきます。

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~ 旅と言葉 ~

とまあ色々書いてきましたが、言葉は文化に根付いたものです。時間厳守とか、規則厳守とかがうるさい日本では、どうしても言葉も厳格になりがちかなと思います。5分は5分でしかなく、問題がありそうなことに問題ないとは言えません。そういったことにルーズな国では少々のことは問題ないで済むだろうし、5分待てと言われれば気長に待つだろうしといった感じでその国の言葉、或いは言い回し、文化を見ていくとその国の国民性みたいなものが分かるので面白いです。

そのためにはやはり苦労してでもその国の言葉を覚えると楽しいでしょう。旅の楽しみ方は色々あります。観光地を巡るのも楽しいのでしょうが、現地の人との会話でその国の文化を知ったりするのも旅の楽しさの一つです。旅の言葉。苦労しますが、楽しいです。侮ってはいけません。ぜひ最低限の会話程度の言葉だけでもいいので覚えていきましょう。旅の楽しみが一つ増えることは請け合いです。

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<旅や旅人にまつわるエッセイ §18、旅で気になる「ラストプライス」と「ノープロブレム」 2002年4月初稿 - 2015年12月改訂>