風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~

~ 旅や旅人にまつわるエッセイ ~

§5、旅人になる条件

「海外を一人で旅するような旅人に自分はなれるだろうか。」 「一人旅をする為の心得や秘訣みたいなものはあるの?」 ツアーでしか海外に行った事のない人、海外に出た事のない人から興味本位で聞かれる事があります。

といっても、その人は本気で海外一人旅を行おうと思っているのではなく、一人旅とか、バックパック旅行というものは自分の普段している旅と何が違うのだろうか?もし仮に自分だったら何日ぐらい耐えられるだろうか?といったような事に興味が湧くようです。実際に一人旅を行う人はかなり少数ですし、そういった人はその人なりのスタイルやこだわりがあるだろうし、本気でこういった質問をされた事は今までほとんどありません。

ただ、「旅するにはどういう事に気をつけたらいいですか?」というような事は何度となく聞かれたり、メールを受け取ったので、その時に書いた文章を元に私なりに簡単な「風の旅人流 旅人指南書」っぽいものを作ってみました。

とはいえ、言い訳っぽいかもしれませんが、ここに書かれている事は少しばかり旅を経験した私の旅の価値観でしかありません。旅とは人それぞれのスタイルで行う自由なものだし、その人の性格にあった旅を行うのが一番いいのです。

だからこれが正しい旅といったマニュアルなどあるはずがありません。こういう考え方もあるんだと参考程度に読んでください。そして、私って旅人に向いているとか、向いていないかも・・・なんて思う程度にしてください。くれぐれも俺って旅人に向いてるじゃん!とばかりに勢いで旅に出てしまうような事はないように・・・・、ってそんな事はないでしょうけど。

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旅人の写真

旅人スケッチ5

長谷川さんと曽根さんと

(01'/9月 トルコ イスタンブールにて)

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・旅人の条件:1 「いざという時に喧嘩できる人」

ちょっと大袈裟な表現で書いてしまいましたが、これは喧嘩をする事を薦めているわけではありません。もちろん喧嘩といっても殴り合いではなく、口喧嘩で十分なのですが、要は、はっきりと文句を言ったり、断ったりしないと楽しい旅ができない場合もあるということを言いたいのです。本来なら笑顔を振り撒いて旅をしたいところなのですが、最近の旅の事情はそうはさせてくれないのが実際です。

貧しい国の観光地に行くと、しつこいほど物売り、物乞いが集ってきます。それだけなら触らぬ神にたたりなしといった感じで、貴重品などをスラれる事さえ気にしていれば特に問題ないのですが、どうしても使わなければならないタクシーや宿、レストラン等でもぼってくる事があります。こういう場合はある程度喧嘩腰で文句を言わないと埒があきません。なぜなら日本人は強く言うと泣き寝入りすると思われているからです(そういう人が多いのが実際なのですが・・・)。

例えばタクシーの料金の交渉制を取っている国は結構多いです。最初に20と決めていても、降りる時になんやかんやと屁理屈をつけて40だと言ってくる事もあります。えっ、何でそうなるの!まるで中国や北朝鮮の外交ではないか・・・ってな気分です。それまで気分よく旅をしていたのが一気に台無しです。

ここでおどおどと文句を言っても、こいつは鴨だと相手の勢いに火をつけるだけです。はっきりと文句を言いましょう。無理に現地語や英語に合わせる必要はありません。日本語でまくし立てるだけでもOKです。相手は英語やら現地語なので、端から見ればさぞかし面白い光景だと思いますが、何にしても毅然たる態度や抗議が必要なのです。警察を呼ぶぐらいの勢いでまくし立てれば、向うにやましい点がある場合には大抵引き下がりますし、何事だと野次馬が集まってくればこっちのもの。本当にぼっていたら現地の人も助けてくれます。

なんていうか、勝っても少しもうれしくもない喧嘩ですし、時間と体力と精神力の無駄なだけ。しかも後から振り返ってみても腹ただしい騒動です。でもこればかりは、外国人観光客の宿命だと思って諦めましょう。但し、武器で脅された場合や、人気のないところでは素直に従ったほうがいい場合もあります。まあ運転手が目的地がどこにあるのかよく分かっていなくて、向かってはみたものの予定外に遠くて「すまん、もうちょっと払ってくれ」といった場合やコミュニケーション不足といった事もありますが、まあぶっきらぼうによく分からない値段を言ってくる輩は怪しいです。

もっとひどいケースになると、土産物屋で脅して買わせようとしてきたり、遺跡でガイドすると言い、人気のないところでの恐喝。砂漠ツアーなどの人気のない秘境ツアーでの脅迫。どこでも日本人は脅せばなんとかなると思っているらしく、世界中で似たような事例を聞きます。まったくもってタチが悪いというか、ここまで多いと日本人が情けなさ過ぎると言うべきなのでしょうか。

ただ日本的感覚で行動するといった危機管理がなっていない人が多いのも事実です。こういった事を起させないような態度や交渉をしておけばスキが少なくなり少しは予防になるかもしれません。一応相手も人を選びますから。

とはいえ、こういった事が起こるのは大都市や観光地だけです。あまり観光客がこないような場所、特に田舎ではまず起こりません。とりわけ有名なのが、年間何万人も訪れるような観光地であるインドのアーグラ、ヨルダンのワディ・ムーサ(ぺトラ)、エジプトのカイロ(含むギザ)やルクソールです。その他、モロッコのマラケシュやフェズ、トルコのカッパドキア、ベトナムなども観光客ズレしている事で名が知れています。

結局のところ、騙すほうとしても黙っていても鴨が次から次へとやってくるし、同じ手口で通用するのですから楽なものです。世界に名だたる超有名観光地に行く方は心しておきましょう。海千山千の猛者が手ぐすねを引いて待っている事でしょう。ちなみに自分が標準的な日本人だと思っている人ほど騙されやすいかと・・・。ちなみに日本の有名な観光地でも油断しているとやられる事がありますので、気をつけましょう。

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旅人の写真

旅人スケッチ6

中村君と小田島君と

(01’/1月 インドダージリンの年越しパーティーにて)

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・旅人の条件:2 「人を疑う事の出来る人」

素直なのは良い事なのですが、日本を離れるとあまり通じません。お金持ちから多くお金を取ることは悪いことではないといった文化もあります。そういった地域では海外旅行をする事ができる人は裕福だ。少しぐらい多くお金をもらっても何の問題もないうだろう。という事で、とりあえず倍の値段を言ってきたりします。値段が10円のものを100円と言われ、「はい」と素直に買うのもいいかもしれませんが、あまりにも無知すぎます。

安いお金で済む問題ならいい勉強になったとか、貧しい人々に寄付をしたんだと割り切って笑い話にしてしまえばいいのですが、高額の物を買わされたり、命を奪われたり、女の人ならレイプされたりと、何が起こるか分からないのが世界基準の常識。日本と同じ感覚で行動するととんでもないことが起こることもあります。絶対に日本と同じ感覚で行動しない事。特に日本と同じようにナンパされて、同じ感覚で付いていってレイプされ、身ぐるみはがされて、最悪死体で発見されてといったような悲惨な事件はたまに耳にします。でも最近では日本でも「おれおれ詐欺」や「還付金詐欺」などといった他人を騙す手口が流行っているので、少しは日本人にも免疫が付いてきたのかな・・・。どうなのでしょう。

また小さな事では、道が分からなくて道行く人に尋ねる事があります。悪意がなく明らかに違う方向を指差す人もいます。これは分からなくても親切に何とかしようといった心使いを持つ文化や、知らないということが恥だと考える文化を持つ国に多い事です。観光客にとってはまったく持っていい迷惑で、知らないなら知らないと言って欲しいものです。私が訪れた国の中でも特に実感したのがインドで、インドでは「道を尋ねるなら最低3人に聞け!」と言われているとか。実際に尋ねると本当に違う方向を指され迷子になったり、集団だったら大丈夫だろうと声を掛けても、みんなであっちだろこっちだろと相談したのち明後日の方向を教えられた事もあります。あまり人を疑うこともなく生きている日本人にはかなりしんどい事かもしれませんが、海外に出ると決めた以上、これも試練だと思って下さい。

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旅人の写真

旅人スケッチ7

島袋さんと舞踏家のムォイ君と

(00’/2月 ベトナム フエにて)

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・旅人の条件:3 「人を見下さない人」

旅は人との出会いやふれあいが大きなウエイトを占めています。条件1や2で書いたように嫌な体験も数多い事かと思いますが、せっかく他の国を訪れたのに、その国の人と分かり合えないのは面白くありませんし、上辺だけの訪問になってしまいます。できることなら友達とまでいかなくても、仲良くなってその国の人の考えた方や文化に触れたいものです。どうしたらそういう関係を築けるかという事になりますが、それは出会いとか、運命といった領域なのでなんともいえません。ただそういった関係を築きたいのなら、出会いの運命を呼び込む努力はすべきです。

まず他人と分かり合うには、その人を尊重しなければなりません。よく何処の国の人は乞食の集団だとか何人は汚いなどその国の人を嘲笑ったり軽蔑している人もいますが、そのような態度を取っている時点でその国の人とは分かり合う事が出来ません。例え嫌な事があったとしても、その国の人ばかりを責めずに、もう一度自分のした事やその国の文化を振りかえり、自分が非がなかったか確認しなければなりません。あくまでも我々観光客はその国を見せてもらっているという謙虚な心が必要です。他人を見下したり、馬鹿にしたりする考えを旅人は持つべきではないと思います。自分一人では生きていきませんし、極端なことを言えば困ったときに誰も助けてくれません。

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旅人の写真

旅人スケッチ8

大学の後輩達と

(96'/9月 タイ カンチャナブリで)

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・旅人の条件:4 「やる気のある人」

旅に限らず何事もやる気がないと上達しません。だらだらとあてもなく旅をしていても、社会適応力がどんどんとなくなっていくだけです。幾分前のページと重なってしまいますが、きちんとした目標や目的がなければ、実りのある旅や経験ができません。そして目標達成の為には努力が必要です。

西洋の諺にも「ロバが旅に出たところで、馬になって帰って来るわけではない」とあります。その国の文化、歴史、習慣、宗教、言葉を学んでいって初めてその国の価値観が分かるというものです。外国の文化を学びたければ、その国の言葉をある程度学び、十分な下調べをして行かなければ上辺だけの目標になります。遺跡や歴史的建造物を見学するのも同じです。旅を行っている時の「やる気」もそうですが、こういった下調べなどの努力を行う「やる気」も大事だと思います。

実際のところ、かなり骨の折れる事ですが、言葉を学んでいくと旅が一段と面白くなります。苦労するだけの価値はあると思います。私はトルコに興味を持ち、トルコ語を少し学んで行ったのですが、バスなどで知らないおじさん達と仲良くなり休憩所などで何回も紅茶をご馳走になったり、我が家に泊まっていけと誘われたり、値段交渉もその国の言葉で行うと、少し安くしてくれる事もありました。

若い人や観光客相手の商売人は英語を話せる人も多いのですが、そうでない普通の人はその国の言葉しか話せません。本当にその国の人と仲良くなろうと思えば英語ではなく、その国の言葉が必要になってきます。旅に出る前に下調べなどの努力をすると、きっとロバから馬へ変身するのもたやすい事でしょう。

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旅人の写真

旅人スケッチ9

田口夫妻とペンションアミーゴの管理人達

(2004年3月メキシコで)

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・旅人の条件:5 「自発的な行動力のある人」

旅では行動力がとても重要です。日々の暮らしと違って旅は限られた時間の中で行動するというのが重要な点で、決められた時間内で観光やショッピングをこなさなければなりません。そのためには計画性も大事かと思いますが、何よりもてきぱきと臨機応変に行動できる行動力が必要です。行動よりも頭で考えてばかりいると、自分で立てた計画の半分しか行動できなかったということになりかねません。時間にゆとりのある長期の旅にしても同じ事で、1日宿に閉じこもっていても、1日街を歩いていても同じ1日なのです。限られた時間を有効に使わないと後々後悔する事にもなりかねません。

もちろん行動力というのは信念という土台の上に成り立つものです。ただ当てもなく動き回るというのはすぐに方向性を見失ってしまいます。なんていうか、信念のない行動力はやる気という燃料が切れた時にあっけなく崩壊してしまい、まあいいかといった感じで動くのが億劫になってしまうものです。ですから旅に何でもいいから自分なりの目標やテーマを定めて、それを行動目標にして旅をするのが望ましいかと思います。今回の旅で三カ所の世界遺産を制覇するとか、その都市の有名な教会を制覇するといった類のものです。

そもそも旅とは誰に強制されて行うものでもありません。個人の自由な意志によって行われるものなのです。だから一所懸命動き回るのも旅ですし、動くのが面倒だと怠けても旅として成立してしまいます。同じ期間に同じ場所にいて3カ所の観光地を回った人と10カ所の観光地を回った人のどちらがいい旅かは実際に旅した人にしか判断できませんが、せっかく異国の地などを訪れて宿でだらだらとしているなら、より多くのものを見た方が楽しい事かと思います。

また比較的時間のある長期個人旅行者でも知り合った人にコバンザメのように引っ付いてばかりいる人も見かけますが、せっかく一人で行く旅行を計画したのなら、自分で計画を立てて行動しましょう。他人に付いていって他人の行動力を分けてもらうという方法もありますが、最初だけとか、体調の悪い時だけとした方がいいです。やっぱり自分で計画した事を自分で実行するというのは、苦労も多いのですが自分の為になります。そういった自発的な行動力も必要かと思います。

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旅人の写真

旅人スケッチ10

エジプトの砂漠を一緒に回った旅人達

(96’/8月 エジプト、シーワにて)

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・旅人の条件:6 「孤独に耐えられる人」

一人旅の場合は当然のことながら孤独に耐える事も必要です。私の経験の中でも極端な話ですが、辺境の地で1ヶ月も日本語を話す事がない事もあり、やっと日本語を話す機会があったと思ったらそれは病気になって保険会社に病院の手配をしてもらうために国際電話をかけた時なんていう事もありました。とはいうものの、その期間ずっと孤独だったかと言われれば、現地の人と友達になり一緒に食事をしたり、民泊させてもらったりするなど、そこまで孤独だとは感じていませんでした。

むしろ旅行者だらけのカオサンなどで3日間一人でいる方が孤独に感じましたし、日本国内をバイクで一人旅している方が孤独に感じる時が多いです。とまあ孤独にも色んな種類の孤独がありますが、根本的に一人でいる事に耐える事、一人で旅をする覚悟がないと一人旅はできません。

この辺の事情は一人旅をした事のない人に一番興味があるようで、「一人で旅するなんて寂しくない?」、「孤独に耐えられなくなったらどうするの?」、「一人で旅して楽しい・・・」とまではさすがに聞かれませんが、そういったニュアンスを含んだ言い回しで良く聞かれます。人によっては海外へ行く事よりも一人で長期で旅する事の方が勇気ある行動と思えてしまう人もいて、むしろ私の方がビックリしてしまいました。

孤独というのは人間にとっては恐ろしい闇であるのも事実で、孤独にさいなまれるのが何よりも嫌だという人もいます。水恐怖症の人に水は怖くないよと言っても泳げないように、高所恐怖症の人に絶対落ちる事はないから大丈夫と言っても吊り橋が渡れないように、一人でいる事に孤独といった恐怖を感じる人に一人旅が向いていないのも事実です。

しかしながら、必ずしも一人旅=孤独と言うわけではありません。一人旅は人里離れた山奥で座禅を組んだりするものでもないし、ジャングルや砂漠を横断するような冒険をするのならともかく、世界は人であふれかえっているからです。だからやりようによっては喋る人もその場その場でつくる事ができるし、常に孤独といった事は普通の人間感覚を持った人なら回避できるはず・・・というか、自然と本能的に回避しているはずです。だから最初は孤独と感じていても、そのうちそれが当たり前となり、自然と孤独とうまく付き合えるようになってしまうものです。

ただ、根本的な行動単位が一人なので、雄大な景色や遺跡を見た時にこの感動を分かち合える人がいたらなとか、賑やかなレストランで夕食を食べる時などにふと孤独を感じる事があります。そしてそのうちしみじみと孤独とは何かなどと悟りの局地になってしまう事も・・・あったります。でもそういった経験が自分と他人とのあり方を考えるきっかけとなったりといい方向に働く事にもなったりもするのではないでしょうか。

それに旅とは人との出会いが大きなウェイトを占めています。そういった意味では複数で旅するよりも一人旅の方が現地の人などといった他人との出会いを呼び込みやすくなり、密度の濃い旅をする事ができるとも言えます。なぜなら自分以外は他人という状況では自然と他人を頼らざるを得ないからです。

また一人だととにもかくにも自分がしっかりとしなければなりません。そういう意味では一人旅をこなすと自分に自信が付きます。こういった事から一人旅である事の利点も大きく、海外で一人旅をする人が多いのもそのため・・・、だけではありませんが、多いのも事実です。海外へ一人で出たものの、やっぱり寂しいからといって日本人宿などに行って他の旅人とつるんでばかりいてもいい旅はできません。

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と、まあ以上が私なりの旅での経験を元に考えた旅人の心構えみたいなものです。これから一人旅を行おうと不安になっている人の手助けとなれば幸いです。逆に自信喪失となったり、旅がうまくいかなくなってしまったら・・・、ごめんなさい。

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<旅や旅人にまつわるエッセイ §5、旅人になる条件 1999年8月初稿 - 2015年12月改訂>