風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~

~ ぶちぶち歯医者日記 ~

***  第11章 差し歯の交換  ***

最後の治療が終わってから1ヵ月後、妙に歯がむず痒くなってきました。もしや虫歯?前回治療した右奥から二番目の歯、そう「しみる」と騒いでいた歯の辺りです。さすがにその歯はこの前治療したばかりだから虫歯になるはずがない。一番奥の差し歯も少し前に付け替えたばかりだし、痛さはまるで感じない。となると一番奥から三番目の歯なのか。

なんとなく注意深く探ってみると二番目と三番目の間あたりのような気もします。それとも単に神経過敏で神経がうずいているだけなのだろうか。でもまあこのぐらいの症状なら急いで歯医者に行く必要もないかな。そのうち症状がはっきりしたら歯医者に行こう。そしたらまた可愛い歯科衛生士の人に会えるな。でへぇ~、そう思うとちっと心が弾んできます。

よしっ、もっと歯よ痛くなれ~。そんな事を考えていたら、歯冠周囲炎の場所まで痛くなってきたりして・・・。うっ、こっちはちょっと勘弁。大手術になってしまう。でも、また痛み出すって事はやっぱり手術して取ってもらうほうがいいのだろうか。それとも単に神経が落ち着かなくなっているだけだろうか。歯は一箇所痛くなると、連鎖してあちこち痛くなるもの。でも下の奥歯が痛くなると大手術が待ち構えているので不安になってきます。

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まあどっちでもいいや。歯医者にかかることになっても一つは楽しみがあるから心強い。そう思いながら1ヶ月が過ぎたのですが、今度は前歯が強烈に痛み出してきました。奥歯の痛さはむず痒いような痛さなのですが、前歯の痛さは本物の痛さでした。そもそも少し前から気になっていたのですが、差し歯の付け根部分が微妙に黒くなっていました。

これはもしかして虫歯では?前回の治療で歯医者の人も何も言わなかったので、イカ墨パスタでも食べたときに汚れがこびりついてしまったのだろうぐらいにしか思っていなかったのですが、前歯が痛くなってみると気にせずはいられません。

もし虫歯ならまずいぞ。根元部分なので、ほっておくと前歯が抜けてしまうかも。ちょっと危機感を感じるようになり、一週間後、「歯が痛むので見てもらえますか」と、予約の電話を入れました。通い始めて何年になるのだろうか。今更ながらマナーのいい患者になりつつあるようです。

前回の診察を終えてから約2ヶ月。あまり時間が経っていないので、久しぶりとは言えない診察でした。「今日はどうしましたか?」と、まずは歯科衛生士の人がいつもどおりに質問してきました。「君に会う為に来たんだぜ」などと言ったら白い目で見られそうだし、そんな度胸はないので、「前歯と奥歯が痛いです。前歯の差し歯の付け根の黒い部分は虫歯ですか?」と当たり前に答えました。

すると鏡を持たされて「これは差し歯の土台部分がちょっと見えていて、こうなっているんです。」との返答。奥歯の方も、「どこが痛みますか?痛かったら教えてください。」と風を当てたり、叩いたりして調べましたが、明らかな虫歯は確認されませんでした。もしかして一人で騒いでいるだけだったとか。いや、これは・・・、また歯医者に行きたいといった願望からの精神的な仮病なのか?

旅をしていた時に正露丸病というのを聞いたことがあります。あまり正露丸を頻繁に飲んでいると、正露丸を飲みたくなって下痢が起こるといった気分的な病気というか、精神的な病気です。もしかしたら同じように私も・・・。でもあの痛さは本物だったような。とりあえず歯科衛生士の人も判断がつかないようで、レントゲンを撮ることになりました。

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レントゲンが出来上がると、いつもの先生がやってきました。簡単な挨拶を済ませると、レントゲンの写真を見て、「差し歯の部分ですが、土台がでっちゃっていますね。それに内部の神経が駄目になっていますので、穴を開けて神経を取り除きます。そうしないと歯が腐ってしまいます。」と言い、早速穴を開ける準備に取り掛かりました。なんだか今日は判断が早いぞ。ちょっと混み合っているのもあるかもしれないけど、段々と先生の技術も上がっている感じがしました。

「たぶんこうだと思う」といった説明ではやはり患者の立場からすると不安です。少々間違いはあっても自信を持って「こういう症状なのでこう治療します。」と判断してくれるほうが頼りがいがあるというものです。でも、こんな大がかりな治療になっているとは・・・まいった。歯科助手の人に会いたいといったなんちゃって仮病のほうが体裁が悪いけどよかったかも・・・。

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すぐにドリルが用意され、麻酔なしでガキュ~ン、カリガリと削り始めました。さすがに差し歯部分に穴を開けるので、すごい音。そして振動が脳に伝わってきます。もちろん差し歯が痛まないように差し歯を手で押さえながらドリルを当てていました。しばらく耐えていると、穴が土台となっている歯の部分に貫通したようで、口の中にすさまじい悪臭が漂ってきました。奥の差し歯が取れたときもこんな臭いがしたっけな。食べかすというより薬品の匂いだろうか。それとも唾液などが腐った臭いなんだろうか。何にしてもたまらない。歯医者の人もこんな臭いばかり嗅ぎながら仕事していては大変だ。

よく口は体の中で一番汚い箇所で雑菌だらけだと聞きます。虫歯も所詮は病原菌なのでキスでうつるそうです。歯科に携わっている人はキスなんていうものは恐ろしくて出来ないのだろうか。それとも恋は盲目なりってなもんで、デザートの別腹のようなものなんだろうか。ちょっと気になる部分です。

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差し歯の裏側に穴を開けた後は、その穴から針金というか、細長いネジみたいなものを突っ込んでゴリゴリと神経を削っていきました。もう既に神経が駄目になっているので痛さはまるで感じませんでしたが、なんか変な感じです。今日のところは簡単に削って、何か薬を塗り、穴をセメントなどでふさがずにスポンジみたいなものを軽くつめて治療が終わりました。

これはガスが溜まるのを防ぐ為だとか。それとしばらくは神経を取り除いたり、化膿を防ぐ為にこの作業を繰り返さなければならないと言っていました。それにしてもなんだかえらいことになってきたな。せっかく下の親知らずが落ち着いてホッとしていたのに。またまた歯医者生活が始まってしまった。本当に私は歯に関しては不幸に思える。

一週間後、再び治療を受けに来ました。「痛みませんでしたか?」と気遣いをされ、「いえ、特に」と返事をした後、治療が開始されました。と言っても、治療内容は前回と一緒。スポンジを外して、再びゴリゴリと針金みたいなもので神経を削って、消毒して、再びスポンジを詰めて終了でした。まるで進展がない治療。このパターンは一番最初にこの歯医者を訪れた時に奥歯の神経を抜いたケースと同じです。

あのときは全く痛みがなかったので、消毒なんてかったるいと思っていたのですが、さすがに今回は痛みや突っ張った感じがあったのと、歯についての知識が付いてきたので、地味な作業の必要性を感じつつ治療を受けました。しかしながら、分かっていても患者としては時間、お金、苦痛を無駄に味わっているようなものなのでなかなか辛いものがあります。

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その翌週、治療が始まってから2週間経ったものの、まだ歯茎の辺りの突っ張った感じが治っていませんでした。下手をしたら土台となっている前歯を抜くことになってしまうような事になってしまうだろうか。奥歯の差し歯に関しては何回も付け外しをした為に、今では土台を埋め込んで差し歯をつけている状態です。差し歯といえどもいい加減にしていると大変なことになるんだと実感したいい例です。

でも、奥歯の差し歯は縦にしか力がかからないからそれでもいいかもしれないけど、前歯だと土台を埋め込んだとしても横というか、前後の力がかかって簡単にポッキって折れてしまいそうです。出来ることならそんな悲惨な状態にはなりたくないものです。最近では少し前歯に対して危機感を感じ、強い力がかかるようなことをしないようにしていました。後はこの歯医者に任せて治療を受ける続けよう。

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今日はあまり歯の状態が改善されていないせいか、はたまた予めそうする予定だったのか、「ちょっと穴を大きくします」と、穴を一回り大きくして、やはりゴリゴリと針金を入れて神経を削っていました。一体患部はどういう状態なんだろう。診察を受けていて疑問に感じるのですが、全く表面的に見えないので疑問のままです。唯一実感できるのは突っ張った感じはあるものの、日常での歯の痛みが消えた事です。なんか治ってるのかなといった感じです。

その次の週は忙しかったので、2週間後に歯医者を訪れました。穴を大きくしたせいか、この頃には痛みも突っ張った感じもほとんどなくなりました。治療の効果が表れてきたといったところ。これは間もなく完治かも。でも完治したらしたら可愛い歯科助手の人にも会えなくなってしまうな。それはそれで残念。でも所詮は治療する人と患者の関係でしかありません。だからどうこうってな事もないけど・・・。

ちょっと複雑な心境で診察を受けると、今回はレントゲンを撮って確認することになりました。前歯の辺りの部分的なレントゲンを撮ってみると、まだ神経が完全に落ち着いていないとの事。再びゴリゴリとされ、また1週間後にきてくださいと、治療が終わりました。

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しめしめ、まだまだ治療は続くぞ。そしてこの歯医者日記は新たな展開へ。歯に関して不幸な男が歯医者の美人歯科助手と恋仲になるといったメロドラマに。歯に対して不幸の連続かと思っていたら、実はそれは幸運へ階段であり、最後は大団円に。これはテレビのドラマに負けないぐらいのよく出来た話だ。うむうむ。それはいいかも。勝手に妄想を膨らませてはみるものの、そんなことになったらそれはそれで大変。毎晩毎晩歯ブラシを口に突っ込まれたり、虫歯がうつるからキスは禁止とか。変な歯医者日記になっていきそうな・・・、いやそんな私生活、誰も知りたくないよな。

その後数回通うと、すっかり神経のほうが落ち着きました。そのまま穴をふさいで終わり。だとよかったのですが、差し歯を新しくしないといけないようでした。そもそも根元の土台部分に黒の筋が入ってみっともなかったので、交換はやむを得ないところ。

思えばインドネシアで取れて大変な思いをしたっけな。そうだ!取れなければこんなことにならなかったのでは・・・。そう考えるとちょっと納得いかない部分もありますが、もう何年も前のこと。この世に完璧なことなんてないのだからその事は割り切って考えよう。

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で、差し歯の素材は相変わらず保険の効かないセラミックか、保険の効くプラスチックのどちらかを選ばなければなりませんでした。値段の差にすると3倍以上の差があります。値段だけで考えればプラスチックのほうが安くていいのですが、強度の方に不安があります。特に歯ぎしりをしたときに欠けやすいとか。プラスチックを入れてすぐに欠けて、また付け直したりする事を考えればセラミックのほうが結果として安く付く事もあり得ます。まあ、こればかりは何とも言えない部分で、結果論でしか語れません。

とりあえずもう片方の差し歯がセラミックということを考えるならセラミックの方が強度が揃っていいだろうし、ちょっと半分見栄を張りたいし、9万円も出してセラミックの差し歯にすることにしました。だいたいセラミックにも保険が効いてもいいではないか。付けた時の見た目は同じでも機能的に違うのだから。なんかせっかく毎月健康保険を払っているのに治療に保険が効かないというのは腹立たしく思えてしまいます。

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型を取り、その10日後、セラミック製の差し歯が出来上がってきました。実際に装着してみると、なんか変な感触。前歯の噛みあわせが変わるとこんなに違和感を感じるんだなと実感しました。特に何かを噛み切るとき、今まで習慣的に噛んでいた場所で噛もうとすると噛み切れなく、いらいらすることも多々。これは不便というか、かなり不快。一週間後の検診の時に少し削って噛みあわせを徹底的に治してもらいました。それと微妙に新しく付けた差し歯だけが白っぽいのも変な感じです。でもこれはそのうち他の歯と同様に黄ばんできて見た目にも馴染むとか。

これでようやく歯医者の治療が終わった。左奥歯の歯冠周囲炎の歯茎も時々変な味の液体がにじみ出てくる様な感触がいやなのですが、今のところ特に異常はみられないとの事。右上の虫歯かなと思った歯はよく分からない状態。強烈に痛まないので小さな虫歯がちょびちょびと進行しているのかもしれませんが、まあ治療するのはずっと先のことでしょう。なんとなく歯医者に対して不信感が消えた今回、気になる歯科助手の人もいることだしもう少し通っていたいかなと思うものの、やはり歯医者は私にとって苦手なところ。無理に親知らずを抜くといった大手術をしてもいいのだが、そこまでするってのは・・・。恋は盲目なりっていうけど私には無理です。それよりももっと別の方法で頑張ろうかな。さてさてこの歯医者日記は今後どうなっていくのでしょう・・・。

~~~ 第11章 差し歯の交換  完 ~~~

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<ぶちぶち歯医者日記 第11章 差し歯の交換 2008年4月初稿 - 2015年9月改訂>