風の結晶 ~風の旅人エッセイ集~
バイクのエッセイ

バイクの草レース

バイクにも色々な使い道がありますが、乗り物としての移動手段ではなく、純粋に速く走らせること。それがレースです。

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1、バイクのレース

鈴鹿4耐のガレージでの写真
鈴鹿のガレージで

レースの準備をする後輩です。

バイクにも色々な使い道がありますが、乗り物としての移動手段ではなく、純粋に速く走らせること。それがレースです。

サーキットでの走り方は明らかに公道とは異なっていて、特別な技術や装備などが必要になりますし、限界までバイクを倒しこんだり、ブレーキをギリギリまで遅らせたりと危険も伴います。お金はかかるし、手間もかかるし、危険だしとなかなかとっつき難い活動ですが、それゆえに面白く、やりがいのある活動でもあったりします。

でも・・・、やはり一般の人には見るべきものであって、参加したいと思う人はごくわずかであるに違いありません。

ここではレース活動について少しだけ書いていますが、実際に私が参加したことがあるのは一度の草レースのみです。後は大学時代にバイクチームに入っていたので、周りの人がレースに参加したりしているのを見たり、手伝ったりして感じたことを書いたものです。ですから始めに断っておくと、素人見解でのバイクの草レースとはこんな感じだよといった内容になっています。

2002年の全日本選手権
2002年の全日本選手権

モテギGP250予選の様子です。
この年は小山選手、高橋選手、青木選手と当たり年だったようですね。

日本で車のレースの最高峰クラスのF1(フォーミュラー ワン)がテレビ中継され始めてから、それなりにテレビで観戦してきました。レースってなんて面白いのだろう。おっ、セナが抜いた!あっ、マンセルが熱くなってる!う~ん、やっぱり最後は冷静なプロストか~などと、古館さんの熱い実況とともに一喜一憂してきました。

同じ頃、もちろんバイクレースの最高峰であるWGP(ワールドグランプリ、あるいは世界ロードレース選手権)も華やかに行われていたのですが、こちらに関しては全くといっていいほど興味がありませんでした。

レースコンパニオンの写真
レースコンパニオン

大きなレースは色々と華があります。

車のレースに関してはすんなりとのめり込めたのですが、バイクのレースに関してはバイク自体に興味がないとなかなかレースを見ようという気になりませんでした。実際、車のレースに比べると地味な存在ですし、日本では世間一般への露出度も低く、テレビ中継も深夜にチョロっとやるだけでした。

私自身に関してもバイクに乗り始めたきっかけが旅のパートナーとしてだったからで、バイクに乗り始めてもレースという視点でのバイクには興味がわいてきませんでした。ただ大学のバイクチームに所属していたので、周りには走り屋と呼ばれる人たちやサーキットで走る人もいて、少しずつですが影響を受けるようになり、バイクレースにも興味がわくようになっていきました。

レースコンパニオンの写真
レースコンパニオン

大きなレースは色々と華があります。

大学を卒業した後はそれぞれ金回りが良くなった事や、退屈な日常の鬱憤を晴らすため、あるいは限られた余暇を有意義に過ごしたいといった感じで、趣味ながらも本格的にレース活動を行う仲間もいました。私のようなサーキットで走らない人間がサーキットの走行会や練習走行などについて行っても面白くはないのですが、レースならそれなりに見ていても楽しめるので、時々応援がてらサーキットを訪れるようになりました。

それに一応レース好きとしては応援だけではなく、陰ながらアドバイスや手伝いといった援護射撃が出来たりもできて一石二鳥。といっても趣味の範囲内での事なので、出場するのは草レースか良くてその一つ上のクラス。だから緻密な作戦もへったくれもないのですが、数人でチームを組む耐久レースに関してはライダーの他に外から冷静に状況を分析できる人間が必要なわけで、私もそれなりに楽しめたりしました。

友人が優勝したときの写真
表彰台の友人

つくばのビギナーレースで優勝しました。

また、仲間の友人では全日本選手権や鈴鹿8耐に出ている人もいました。一度友人に連れられてモテギサーキットに全日本ロードレース選手権を応援に行きましたが、やはりよく知った仲間が出る草レースの方が心底というか、気軽に楽しめる気がしました。

2、バイクの草レースの実情

さて本題のレース活動についてですが、親しい友人が主に出場していたのは何人かのライダーで決められた時間を走り、一番多い周回をこなしたチームが勝利という耐久レースでした。時々応援をしに行くついでにレース全般のマネージメント役を引き受けていたのですが、一度どうしてもメンバーが揃わないということで参加することとなりました。

もちろん一度サーキットを訪れて練習をしてからレースに挑んだものの、なかなか思い通りの走りが出来ませんでした。そのうち運転が荒くなっていき、とうとう転倒。怪我はなかったものの、実際にレースを走る難しさを痛感しました。

チームのパドックの写真
チームのパドック

4st250㏄での参戦でした。

その時に少しレースを走ってみた感想としては、危ないとか危険だとかいった印象も強いのですが、一番痛感したのはとてもお金のかかる趣味だという事でした。

レースに出るだけでも、車両の整備費用、タイヤ、ガソリン、オイルなどの消耗品、そしてサーキットまでの交通費、サーキット走行費とかレースの出場料が必要です。少なからず本格的にやるには競技専用に改造したバイクと、そのバイクをサーキットまで運搬する車、それを整備するための工具一式が必要になってきます。

チームのパドックの写真
チームのパドック

4st250㏄での参戦でした。

もちろんヘルメットや革製のレーシングスーツ、安全装備やグローブ、ブーツなども必要です。それでいて危険が伴うときたら・・・、よほど好きでないとやってられません。特に家族を持つと時間的にも金銭的にも怪我のリスク的にもなかなか厳しいものがあります。

この時は参加できない後輩の装備一式を借りたので出場料や消耗品代ぐらいしか費用はかからなかったのですが、もし今後参加し続けるために全ての装備などを揃えたらと思うとぞっとしました。まして競技車両から運搬車まで揃えて、普段から暇を見つけて練習したり、車両の整備をするとなると・・・。生活が仕事とレースの2パターンしかなくなってしまいます。

筑波のスタート前
つくばのレース前

大きなサーキットでは
上のカテゴリーを狙っている人も多いです。

しかしこれはまだ草レースレベルの事。全日本までいかなくても地方の選手権などに参加するとなると、1秒を縮めるために高価なパーツを装着したり、整備を入念にしたり、定期的にエンジンなどをオーバーホールしたり、多くの練習をこなさなければなりません。

もし地方選手権に個人で出場するなら給料の全てをつぎ込み、生活をレースに捧げないととても無理でしょう。全日本選手権に出ている人に聞いても、とにかくスポンサーが付かないことには・・・との事。よほどの御曹司か、高給取りでもない限り、この世界は出ていく出費に上限がないのでかつかつな生活をしている人が大半です。

お金が全てとは言いませんが、お金をかけないと勝つことすらなかなか厳しい世界なのです。もちろん腕や才能といったものも当然必要ですが、よっぽど閃くものがない限り、やはりお金といった現実の壁の方が高くそびえています。こういった金銭的な感覚が他のスポーツと違うところです。

鈴鹿の耐久レースでの写真
鈴鹿の耐久レース

夕闇でのレースもいいものです。

趣味でやっているのならレースを楽しみながら参加すればそこまでお金はかからないのではと思うかもしれませんが、レースに出ている人は負けず嫌いがほとんどです。山に登るなら山頂を目指すのと一緒で、出るからには一番をといった気持ちになるのは当然のことです。

負けたのが自分の腕でなく、マシンのせいだと納得がいかないと感じたなら、納得いくまでマシンにお金をかけていくのです。ラップタイム鬱というべきでしょうか。最初は練習やパーツでタイムが順調に上がり続けるのでいいのですが、そのうちタイムが伸びなくなるとコンマ何秒が気になってしょうがなくなってしまいます。そして最終的には他の人と同じように大枚を叩いた後に初めて自分の才能の限界に気がつき、第一線から退いていく感じでしょうか。

レースコンパニオンの写真
レースコンパニオン

大きなレースは色々と華があります。

怪我などのリスクも高いのがモータースポーツの特徴です。ライダーはヘルメットや革製のライダースーツ、脊髄を保護するための脊髄パッドなどの安全器具を装着しているとはいえ、転び方が悪いと大怪我をしてしまいます。

バイクがつるってな感じで滑りながら転ぶのは打ち身やねんざ、火傷ぐらいで済むのですが、路面に叩き付けられるような派手な転倒などがそうで、友人などは鎖骨を骨折をして入院。危うく会社を首に・・・ってなりかけてました。友人のように色々と面倒なので勤務先に知らせないでやっている人も多いようです。

とはいえ、骨折程度の怪我なら趣味のサッカーにしても草野球にしても起こりうるわけなのですが、一般的にサッカーや野球、或いはテニスなどといったものは健全なスポーツで、怪我はしょうがないとか、運が悪かったねといったことになり、モータースポーツは・・・スポーツと名が付いていながら、そら見たことかといった感じでなんか世間の印象が悪い気がします。

どうも不良とか、走り屋の遊びとしか思われていないような・・・、気のせいですかね。大金や手間暇かけて真面目にやっても評価されないのも辛いものがあるようです・・・(友人談)。とはいえバイクレースは取り返しの付かない大きな怪我をするリスクが高い趣味であるのは確かで、お金もかかることから家族に最も反対される趣味の一つであるに違いありません。

3、バイクレースのあれこれ

バイクのレースに出たと話すと、決まって膝を路面にすって走るのって難しい?と聞かれます。バイクを寝かせ、膝を擦りながらコーナーを抜けていくのがレースの醍醐味といった感じで、普段そういった走り方をしない人には憧れるようです。

私自身ライディングの講釈をできるほどの上級者ではないので、乗り方に関しては詳しく書けませんが、これはそういった乗り方を意識して乗るか、乗らないかの違いだと思います。バイクに長く乗っている人なら膝をすることを意識して乗り続ければ、膝をすること自体はそんなに難しくないはずです。

レースコンパニオンの写真
レースコンパニオン

大きなレースは色々と華があります。

でも私のようにツーリング的な乗り方に慣れきってしまっている人間には膝をするのは結構大変です。それに膝をすらなくてもバイクを倒し込んで早く走れてしまい、場合によっては膝をすって走る人よりも早く走れてしまうこともあります。

ならわざわざ膝をする必要なんかないじゃない。って最初の頃は思っていたのですが、ある程度レベルが上がって速い人と一緒に走ると、膝をすらない限界を悟りました。コーナーリングで進入速度を間違えたときなどに修正をしようとするとふらついて、ラップタイムのばらつきが大きくなるのです。

その点、膝をすって体でバイクを固定するような走り方では最小限のふらつきで押さえることができ、ちょっと速度を間違えてもわずかなロスで済みます。それにコーナーからの立ち上がりでの後輪の安定性も若干よく感じます。

ただ、これは私の持論で間違っているかもしれませんが、ch所苦戦があって

コーナーリングの写真
コーナーリング

コーナーリングのスタイルはそれぞれ個性があります。

なぜレーサーが膝をついて走るのかといえば、速さよりもコーナーリングの安定性を保つためで、安定して周回を重ねて走るためです。単純に一つのコーナーの速さを競うなら膝をつかないでバイクと一体となってベタっと張り付くように回る方が早い場合もあります。でもこれをやるには足を踏ん張って右へ左へ体の重心を動かさなければなりません。これが結構疲れる作業なのです。長距離のツーリングできついコーナーごとにいちいちこんな事をやっていたらバイクを降りたら歩けないほど足が疲れてしまいます。

だから基本的にツーリングが中心のライダーは膝をすって走るといった事はしませんし、感覚的に頭にないはずです。私の経験からいうと、ツーリング時に足をすることを意識し始めると、走るリズムやブレーキのタイミングがおかしくなってしまい、変に前輪のタイヤをこじらせて消耗が早くなったり、下半身や肩が痛くなったりとあまりいいことがありません。

コーナーリングの写真
コーナーリング

コーナーリングのスタイルはそれぞれ個性があります。

また、車とバイクの違いは?サーキットではどっちが早いの?・・・などと聞かれる事もあるのですが、動力性能の違いとしてはコーナーリングの車と加速のバイクといったところでしょうか。

車やバイクに詳しくない人からは「バイクは車と違ってコーナーが速いよね。」と言われることがあります。確かに山道などでバイクがコーナーをかっとんでいる光景を見るとそう感じてしまうかもしれませんが、簡単に書くとタイヤが四つ付いている車と二つしかないバイクではコーナーリング中の安定感が明らかに違います。

レースコンパニオンの写真
レースコンパニオン

大きなレースは色々と華があります。

それにバイクはバイクを傾けなければ曲がりません。よって車よりも慣性に縛られてしまいます。ですからサーキットで車がきびきびと気持ち悪いほど直角に曲がっていくのに対して、バイクは車よりもきれいな円を描いて回っていきます。その分やはりスピードが遅くなりコーナーでは車には勝てません。

峠などでバイクが速く見えるのは重たい乗用車に対しての上り坂での圧倒的な加速力。そして一人しか乗っていないので機敏な動きができることなどの事情によりコーナーで早く見えるだけです。ですから普通のサーキットでは何処でも車の方が圧倒的に速いタイムを出しています。狭く、傾斜があり、急コーナーの多いミニサーキットではまあいい勝負ができるかなといった感じでしょうか。

バイクのエッセイ
バイクの草レース
風の旅人 (2020年3月改訂)

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