風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

進め若者! 突撃タイ旅行記

~ 第4章 水上マーケット ~

*** 第4章 水上マーケットの目次 ***

~~~ §1、ココナッツファーム ~~~

<1996年9月7日>

今日もまた目覚ましの音で目が覚めました。
う~、今日は非常に眠いぞ。今日もツアーだっけ・・・たまらんな・・・ぐぅ~。
また寝ようとするものの、間髪いれず後輩に起こされました。
「朝食に遅れますよ!」 そうだ。今日は朝食を食べに行こうと約束していたっけ。
言いだしっぺなんだから起きなければ。気力なく起き、支度に取り掛かりました。
今日もツアーに参加する為に7時半にロビーに行かなければなりません。
これではサラリーマンみたいな毎日だな。
「時間に追われないのが旅なんだ。」と内心思うものの、口には出せませんでした。
言い訳にしか聞こえないし、一度決めた事は実行しないと先輩としてだけではなく、人間として信用されなくなってしまいます。

再び部屋に戻ってくるのは面倒なので、そのままチェックアウトできるように全部の荷物を持って2階のレストランに向かいました。
エレベーターを降りてみると、そこには立派で広いレストランがありました。
ウェイターの人に朝食券を出すと、ちゃんと整えられたテーブルに案内されました。
そして席に着くとメニューを渡され、この中にある4つのコースから1つ選んでくださいとの事。
四択もあるんだ。
コンチネンタルブレックファーストやらタイ風のブレックファーストなど、どれも魅力的です。
その中からそれぞれ選んでウェイトレスの人に告げました。
こんなに魅力的な朝食なら毎朝ちゃんと起きればよかったかもしれない。
その後悔は注文した料理が来てから一層強くなりました。
4星ホテルだけあっておいしいではないか。
「こんな事だったら毎朝頑張って起きればよかった。」と、みんな口々に言いましたが、起きれなかったものはしょうがない。
まったくサボるとろくな事にならない。
いや一層の事、今日も朝食をすっぽかしていれば、こんなおいしい朝食の事で悩むことはなく、それはそれで幸せだったかも。
サボるにしても中途半端はよくないような気がしました。

ゆっくりと贅沢な朝食を味わっていたかったのですが、めちゃくちゃ早起きをしたわけではないので、集合時間まであまり時間がありませんでした。
こんなにボリュームがあるなら、もうちょっと早く起きればよかった。
そう思いつつ、さっさと朝食を済ませ、くつろぐ間もなく荷物を背負ってロビーに下りました。
朝食を取ってもいつも通りの慌しい朝というのは変わりありませんでした。
そしてカギをフロントに返し、チェックアウト。
ちゃんとしたホテルだけに、終始節度ある対応でした。
チェックアウトを終え、後輩のところに戻ると、もう既にツアーの添乗員の人がいました。
今日のツアー内容は水上マーケット。
今回設定した3日間のツアーの中で一番楽しみにしていたツアーです。
そして夜にはタイ舞踏を見ながらのディナーのツアーに参加し、更にその後はピンサヌ・ローク行きの夜行に乗ってバンコクを出発するといった三本立ての予定になっています。
なかなか忙しい1日になりそうだ。

いつも通りの挨拶が終わり、ミニバンに乗りこみました。
今までと違って今日はバックパックも一緒でした。
最初の予定では、ホテルに荷物を預けるつもりにしていたのですが、添乗員の人が「持っていったほうが便利ですよ」と言うので、そうすることにしました。
少なくとも一度荷物を取りにこのホテルまで戻る手間が省けます。
初日同様にミニバンでしばらく走って、大きなバスに乗り換えました。
またガラガラなんだろうなと思って乗り込んだのですが、今日は結構多くの人が乗っていてビックリ。
我々が乗り込んだ時点で、かなりの座席が埋まっていました。
一番後部座席にバックパックを置き、後方の座席に座りました。
我々が乗った後は、二組の中年夫婦が我々の前の座席に座り、バスは出発しました。
ガイドの人が自己紹介を済ませた後、まずはココナッツファームに行きますと目的地を告げました。
そして初日同様にガイドの人がバンコクの市内観光を兼ねて色々と説明し始めましたが、朝から朝食を食べるような大仕事をしたので、すぐに眠気が襲ってきました。
着くまで寝るとするか・・・。

到着する前に目が覚めました。
窓の外を眺めると、一面ジャングルのように木がうっそうと茂っていました。
絵に書いたような南国の中をバスは走っているではないか。
起きたらそこは別世界。寝ぼけた頭にはちょっと幻想的な光景に映りました。
ボーと車窓を眺めていると、添乗員が「間もなくココナッツファームに到着するので、降りる用意をしてください。」とアナウンスしました。
到着か~。あれっ、なんだか後輩達の気配がしない。
前に座っている後輩の方を見ると、2人とも気持ち良さそうに寝ていました。
しめしめ。旅が始まって3日目にして初めての快挙。
私が後輩達を起こす事となりました。この勝ち誇った感触と後輩の驚く顔。なかなか気分がいい。

バスから降りてみると、南国の匂いがぷぅ~んとしました。
南国独特の植物と土の香りというのでしょうか。
明らかに日本の森林や林などの匂いと違っていて、その臭いが強烈というか、妙に鼻につきます。
それと共に湿っぽくて生暖かい風。体にまとわり付くようなこの不快感。
まさに思い描くようなジャングルでした。
それにしても匂いがきつい。自然の匂いなんだけど、慣れない人間のとっては何時間もいると気分が悪くなりそうなぐらい強烈な匂いでした。
これがジャングルというものか。
大袈裟な話、太平洋戦争で日本軍、ベトナム戦争でアメリカ兵がジャングルで苦しんだのもわかる気がしました。

ココナッツファームで1
ココナッツファームで2
ココナッツファームで

ここココナッツファームはココナッツ(椰子の実)の名前通り、辺り一面に椰子の木が生い茂っていました。
ガイドの人の後ろについて、その椰子の木のジャングルに入っていきました。
辺りにはココナッツミルクの精製の道具や椰子の実の残骸などが並べてありました。
ほ~、これがここに暮らす人々の生活の道具か。
最初のうちは興味深く見学していましたが、段々とジャングルに無知な私でも疑問に感じてきました。
なんだか凄くわざとらしいぞ。いかにも観光客の為に作られたものではないか。
そう考えると、今まで感じていた南国ムードがぶち壊されていき、なんだか興ざめしてきました。
やっぱりツアーではこんな程度かな。
こうなったら何が何でも楽しんでやる。さて何をするか。
周りの椰子の木には、作業用のはしごがついていました。
竹に穴を開け、そこに足をかけるための木の枝を刺しただけの簡単なものです。
これを使って木に登って椰子の実を取るのだろう。
よしっ、私もやってみるか。頑張って登ろうとしてみましたが、サンダルでは滑って登りにくい。
これでは上まで登る前に滑って落ちるという落ちが付きそうなので、少し登っただけで写真を撮り、ここココナッツファームの記念にしておきました。

ここではそんなに時間を取らず、すぐに「バスに戻ってください」と集合がかかりました。
テクテクとバスに戻りながらも、なんだか自然の匂いが強烈で頭がふらふらしていました。
こんなに自然の匂いというものは強烈だったけな。
小さい頃は田舎に住んでいたので、よく山に入って遊んだりしていたけど、全く気にすることはありませんでした。
確かに土や木の匂いはしていたけど、意識せずとも受け入れられる匂いだったような気がします。
やっぱり土や木の種類、気候が変わると、匂いも変わってくるのかもしれません。
それとも単に体調不良なのかも・・・。
でもまあよくよく考えると、普段私が暮らしている東京にはあまり匂いがありません。
特に自然や季節の匂いってやつが感じられません。
視覚的には春には桜、夏には深緑、秋にはイチョウの紅葉、冬には枯れ木と区別できるのですが、匂いとなるとそうでもありません。
絶えず臭っているのはごみや排気ガスの臭い。
とりわけ排気ガスのせいで自然の匂いが消されている感じがします。
そういった環境になれてしまったから余計に自然の匂いに対して敏感になってしまっているのかもしれません。

バスに戻ってみると、今回は集合の時間を守る人ばかりのようで、時間通りにみんな揃いました。
次は楽しみにしている水上マーケット。ここから近いようです。
楽しみだ。わくわくしてくるぞ・・・が、どうも眠い。
久しぶりに強烈な自然の匂いをかいだせいだろうか。
森林の匂いで安眠効果。枕の中に匂い袋を入れるのが昔流行ったけ。
そんな事を思い出しながら、いつの間にかうとうととし始めていました。

~~~ §2、水上マーケットにて ~~~

船着場で
船着場で

今度はいつも通り後輩に起こされ、目が覚めました。
どうやら着いたらしい。
バスを降り、船着場まで少し歩くと、我々の乗る屋根付きの船が桟橋に用意されていました。
いかにも観光用といった感じで、風流のかけらもありません。
一隻にみんな乗り切れなく、ちょうど第1陣が出発しようとしていました。
観光客が満載された観光客専用船。
奇妙といえば奇妙に見えます。奇妙といえば、この船着場の周りには何もありません。
ここは観光客専用の船着場なのかな。
という事は、よほど多くの観光客が来るということになりそうです。
そう考えると、今まで抱いていた期待感が薄れていきました。
先ほどのココナッツファームと一緒で水上マーケットも観光客の俗物となっているかもしれない。
過大な期待をすると後で失望感も大きいというもの。あまり期待をしないようにしよう。
でもまあ来た記念に写真でも。
のんびりと写真を撮っていると添乗員の人が急いでくださいと声をかけてきました。
私がぐうすか寝ていたせいで、バスを降りたのが一番最後。
のんびりとしている場合ではなかったようです。
いそいで船に乗り込んでみると、第1陣に大半の人が乗ってしまったので、こっちの船はゆったりしていました。
「これも私の寝坊のおかげだ。」と自慢げに言ってみたのですが、後輩から返事は返ってきませんでした。

運河と船の様子1
運河と船の様子2
運河の様子

エンジンの振動が伝わり、船がゆっくりと動き出しました。
運河はそんなに広くなく、ちょうど道路の道幅と同じぐらいでした。
水の色はチャオプラヤ川と同じで茶色く濁っていました。
日本の感覚からいうと、「汚い」とか「非衛生的」などといった言葉がすぐに頭をよぎり、こんな所で暮らすなどという発想は浮かんでこないものです。
しかし、しばらく進むと、運河の脇に民家が点在していました。
信じられないというか、不思議な光景でした。
おまけに電信柱もたっていて、今、船で通っている運河は、まさに水で舗装された道路といった感じなのです。
それにしてもこれは面白い。
日本ではまずお目にかかることができない光景です。
観光客用にアレンジされている部分があるとしても、この光景はまさにタイそのもの。
異国情緒あふれる雰囲気というか、この地に住む人々の生活感が伝わってきます。
更に驚いた事は、よくよく観察すると、ここにあるもののほとんどが木で出来ていました。
家にしても船にしてもそうです。
家の土台までが木で出来ているので、腐らないのだろうか?大雨のときには流されないのだろうか?などと、疑問に思ってしまうのですが、私の生まれるずっと前からずっとここで暮らしている事を考えれば、そんな心配も無用なものにちがいありません。

運河と船の様子3
船での様子

船は順調に運河を進んでいきました。
そして、時々地元の人の乗る船とすれ違いました。
どうやらちゃんとルールが決まっているようで、陸上の道と同じく左側通行をしていました。
地元の人が乗っている船は、小さく、手漕ぎのものが多い。
それに比べて我々の船は周りの船に比べて大きいし、モーターもついています。
おまけに日差しを避けてくれる屋根まで付いています。
ツアー最初の日のチャオプラヤ川のクルーズの時の事を思い出しました。
あの時ほどではありませんが、ここでも観光客と地元の人の間に壁を感じざるを得ません。
せめてもの救いは、地元の船と視線の高さが同じだという事と、屋根は付いていても壁が付いていない事でした。
ですから、かろうじて子供達に手を振れば返ってきそうな雰囲気がありました。
しかし行き交う船や周りの民家を眺めていると、ここに住んでいる人にとって、毎日、我々のような観光客が通行していては迷惑なんだろなと思えてきました。
自分達の日常生活を邪魔しに来る観光客ほどうっとおしいものはないはず。
来るなって思っているのだろうか。ちょっと心配になってきました。
ニューヨークのハーレムにしても、自分達の生活の場を面白半分に見に来る金持ち観光客から金を巻き上げて何が悪いというのが、地元の人の言い分だと聞いたことがあります。
それも考えようによっては一理あります。
その一方、チャイナタウンのように自分達の生活の場を公開して、地域に溶け込み、尚且つ経済効果を生んでいる町もあります。
人種の違いというか、考え方や性格の違いなのでしょうか。
ここの人は一体どう考えているのだろうか。
明るいタイ人の気質の事だから後者かな。そう信じつつ、船旅を楽しむ事にしました。

水上マーケット
水上マーケット

辺りが賑やかになり、それにともなって行き交う船の数も多くなってきました。
すれ違う船のなかには果物や野菜が満載されている船もあります。
いよいよ水上マーケットだ。そんな雰囲気が漂ってきました。
そして水路の脇に停止した船が多くなり、その船には果物や野菜が並べられています。
日避けのパラソルを差していることから、どうやらこれが水上で物を売っている船のようです。
ずっと船の上で揺られていたら気持ち悪くなりそうなものですが、平然とこっちに笑いながら買わないかといったジェスチャーをしていたりします。
人間、馴れというものは恐ろしい。
そんな花道みたいな水路を進み、大きな建物の前の桟橋に船が横付けされました。
なかなか楽しい船旅だった。
満足して船から降りたのですが、ふと顔を上げると、降りた場所はでかいお土産物屋の前でした。
やはりこういう落ちが付くわけか。がっくり・・・。
我々が降りると、待ち構えていたように物を売りに来る人もいます。
どうやら先ほど考えていた推察は当たっていて、ここでは観光客相手にも熱心に商売をしているみたいです。
こんな辺ぴな場所でも観光客の流れがあれば、かなりの経済効果になるはず。
先ほど通った運河に、じゃんじゃんとツアー用のモーターボートが通ればいいと思っている地元の人も多いかもしれません。
そんな事を考えると、再び興ざめした気分になってきました。
ツアーに参加すると、やっぱりこの程度の感動しかないのだろうか。

しばらく自由時間ということで、桟橋付近に展開しているマーケットを散歩してみました。
ガイドの人が言うには、ピークは早朝で、時間帯が少し遅い今は船も少なく、閑散としているとの事です。
という事は、この時間は観光客を目当てにした船が多い事になるのかな。
なんだかなといった感じですが、賑やかな時にツアーの船が行き交っていたら地元の人にとって邪魔なだけ。
そう考えるとしょうがない。
本当の水上マーケットの姿を見たければ、個人的に来るしかなさそうです。
そうすれば同じ水上マーケットを見学しても違った感想になるに違いありません。

水上屋台で買い物
水上屋台で買い物

マーケット内をぶらぶらしていると、後輩が果物を売っている船に興味を示しました。
先日のドリアンにめげず今度は赤い色のとげとげのある果物、ランプ-タンが気になってしょうがないようです。
どうしてもあれを食べてみたいと言って、交渉に向かいました。
私は高みの見物。ちゃんと買い物が出きるだろうか。
ここは観光客ずれしているので結構ぼってきそうですが、まあ果物程度の購入ならそんなにひどい損害はないはず。
今まで私が交渉をしていたので、こういうのもいい経験になるにちがいありません。
写真でも撮ってやるか。
私の見つめる中、2人で交渉し、うれしそうにビニール袋一杯の果物を携えて戻ってきました。
そして第一声は、「安かったですよ。これでたったの150円でした。」とのこと。
後輩の笑顔をよそに、「誰が一体こんなに食べるんだ!」と唸りそうになってしまいました。
袋の中を覗くとバナナ、ランプ-タン、ライチ、その他数種類の果物が入っていました。
値段の安い、高いはよく分からないけど、多すぎるのだけは確かでした。
口に合わなかったら、ドリアン同様にごみ箱行きになるのは目に見えているというのに・・・。
とりあえず、頑張って食べるか。その辺のベンチに腰掛けて試食開始。
まずは一番見た目が派手なランプ-タンを食べてみました。
見かけは赤くてとげとげしいけど、味はライチに似た感じでさっぱりとしていておいしい。
もっと違った味を想像していたのでちょっと意外な感じでした。
でもやっぱりたくさん食べると口の中が果汁のアクで麻痺してきそう。
南国の果物は日本で食べる一般的な果物に比べて味が濃厚だったりアクが強い傾向にあります。
これはそこまでひどくないようですが、食べ終わった後に後味を残す感じでした。
とりあえず2つほど食べたところで集合時間が迫ってきたので、これは合格点ということでバスに持ち込むことにしました。

バスに戻ると、ツアー客の大半が揃っていました。後方の自分達の席に着くと、再び後輩がランプータンを食べ始めました。
すると前の座席に座っていたおばさんが甘い匂いに引き寄せられ、こちらを振り向いてきました。
そして目が合い、ランプータンを見つけると、話しかけてきました。
「それはランプ-タンですよね?」
後輩が、「そうです。」と言うと、どんな感じですかと興味があるようであれこれ質問してきました。
これは渡した方がてっとり早いと後輩は思ったようで、「どうぞ」と半分ぐらいおばさんに渡しました。
おっ、よくやった。これで果物地獄から開放される。
と成り行きを見ていて思ったのも束の間で、おばさんはもう一度振り向きなおし、「朝市で買ったんだけど、沢山買いすぎて・・・どうぞ」と、大量のブドウをニコニコしながらくれました。
いらないんだけど・・・。しかもあげた量よりも多いし・・・。
我々は引きつった笑顔で、「あ、ありがとうございます。」というのが精一杯でした。

~~~ §3、彫刻の工場 ~~~

時間までに全員揃い、バスはゆっくりと動き出しました。
今回はなかなか集まりがいいし、マナーもいいようです。
というか、前回が単にひどすぎただけだったのかな。
こういうツアー客ばかりだったらツアーも悪くないかなと思ったりもしました。
さて、次の目的地は国立木工センターという彫刻の工場との事でした。
タイの民芸品はよく日本のデパートなどの物産展で見かけます。
象の彫刻が多いのが特徴だったっけな。
どうせ恐らく昨日の宝石工場と同様に彫刻を買わそうとする為の寄り道に違いありません。
まあ大して興味があるわけでもないし、期待すべきは今日も民族衣装を着たお姉さんが迎えてくれるかどうか・・・、ぐらいだよな。

木工センターの作業場
木工センターの作業場

睡眠モードに入る前に木工センターに到着しました。
バスを降りると、期待していたお姉さんの出迎えはなく、だだっ広い敷地の中央には、どでかい屋根だけ付いた簡素な作業場がドカンとありました。
なんかえらく簡素な場所だな。
でも風通しは抜群。その中で木彫り職人の人達が額に汗しながら作業をしていました。
作っているものがどれも馬鹿でかい。たんす、襖立て、壁飾り、椅子、調度品などなど。
それらの彫刻は我々3人の財布の中身を足しても到底手が出ないような値段が付きそうな物ばかりでした。
日本などに輸出されるのだろうか。
もし日本のデパートに並んだなら一体いくらになるのだろう。
彫刻している人がビックリして腰を抜かすような金額になるに違いありません。
この作業場の横には売店が設置されていて、ここで作られた小さな置物から、馬鹿でかい置物まで揃っていました。
やはり定番の象の置物が多く、種類も様々。これもタイの国柄なんだろう。
置物は触ってみると、なかなかしっかりしていてよさそうな物が揃っていました。
しかし値札を見てビックリ。高い。高すぎる。
高いといっても妥当な物の価値での高いではなく、観光客プライスという高いです。
確実にその辺の露店の3倍はしていました。
例えば倒れにくかったり、彫刻の彫りが細かかったりと、確かに露店で売られているものに比べて物はいいのですが、明らかに上乗せしている金額がでかい。
無知で金持ちの日本人観光客相手にボリすぎではないか。
買い物は本人が納得すれば、それはそれでいいのだが・・・。
そう納得しようとするものの、やはりすっきりしません。
あ~知らん、知らんぞ。考えるといらいらしてきます。
この値段で買う金持ちなんぞ知ったこっちゃない。表をぶらぶらし始めました。

象の上で記念撮影
象の上で記念撮影

建物の裏の方に行ってみると、人間の身長よりもでかい木彫りの象が置いてありました。
なかなか立派で、高級タイ料理屋やインド料理屋などに飾ってあるようなものを大きくしたようなものです。
これは人が乗れるではないか。
後輩も同じ事を考えていたようで、後輩と目が合ってしまいました。
辺りに人がいないのを確認して、それっと象に飛びつきました。
しかし形が丸く、表面がつるつるしているので登り難い事この上ありません。
2~3回失敗して、やっと登るのに成功しました。
そしてもう一人の後輩に頼み、写真を撮ってもらいました。
これで何となく満足。
しかし、こういう馬鹿な事をする人もいないみたいで、象から降りると服が埃で真っ黒になっていました。
してやったりと思っていたのですが、普段手の行き届かない象の置物の上部を掃除しただけだったようです。
悪い事をしたつもりが、実はいい事だったりして・・・少々複雑な心境でした。

時間が来たので、バスに戻りました。
相変わらず集まりがよく、時間通りに出発しました。
もちろん、服を真っ黒にして戻って来たのは我々だけでした。
次の目的地はエレファント園。ここでは象のショウを見るようです。
一足先に象に乗ったから行かなくてもいいかな。などと後輩と話したりしていましたが、そのうち冷房が心地良く効いてきて眠くなってきました。
疲れが溜まっているのだろうか。
夢の世界を旅していると、誰かに肩をとんとんと叩かれて目が覚めました。
ん?これは今までにない起こされ方。
無意識にそう感じたのか、いつになくぱっと目を開けると、斜め横に座っていたおばさんが「着きましたよ」と笑っていました。
え!?さすがにびっくり。
愛想笑いでごまかしながら、「すいません。ありがとうございます。」と言うと、おばさんは「どういたしまして」とバスを降りていきました。
一体どうなっているんだ?後輩は?
もしかしていつもいつも寝てばかりだから愛想をつかされてしまったのか。
あわてて前に座っている後輩の座席を見ると、二人ともスヤスヤと寝ていました。
やれやれ。こういう事か。後輩に愛想をつかされたのではなくて、ホッとしました。
いや、今はホッとしている場合ではない。すぐに二人を起こし、ドタバタとバスを降りたのでした。

~~~ §4、エレファント園にて ~~~

ガイドに連れられて、エレファント園に入場しました。
象をテーマにしているので園内も象に合わせてビックサイズ。かなり広いようでした。
そして園内は観光客で混みあっていました。結構人気あるんだ。
ガイドの人が「ここからは自由行動です。ショウが始まりますので奥に進んでください。終わりましたら園内の放送にしたがってバスに戻ってください。」と言い、自由行動となりました。
何も疑いなく園内を歩き出すと、驚くべき事実に気が付きました。
なんと園内を歩いている人の9割は日本人観光客でした。
なんなんだこれは。まるで日本にある南国風のテーマパークを歩いているのと同じではないか。
ちょっと憮然とした気持ちになってきました。

先に進んでいくと、道の左右が池になっていて、ワニが沢山飼育されていました。
日本にもワニ園なんてものがあったけ。
この程度のワニを展示してあってもあまり面白くありません。
足を止めることなく進んで行くと、観客席の付いた大きな池があり、その周りを観光客が取り囲んでいました。
何かショウをやっているようだ。
こんなところで象のショウ?まさかな。では、何やってるんだろう?
人垣の間から池を覗くと、ちょうどショウが始まったところでした。
ショウの内容は一人の男が棒を持って池に入り、ワニをたたいて怒らせて、威嚇させるという単純なものでした。
水族館のアシカやイルカなどのショウと比べると、知性のかけらも感じません。
哺乳類と爬虫類の差はあるにしても、あまりにもお粗末なショウではないか。
しかもショウの最中、その男の様子などを大音響の日本語の場内アナウンスで解説していました。
何が面白いんだろう。声を張り上げて解説するプロレスの実況のようなアナウンスも耳障りです。
こりゃたまらない。しかし周りを見ると、喜んで見ている人が多い。
何でなんだ。もしかして私は無感動の男になってしまったのか。
心配になって後輩に「面白い?」と聞いてみると、「全然」との答え。
よかった。私だけではなくて安心しました。
しかしこれ以上この場にいるのは耐え難かったので、我々はこの池から離れました。
ショウがつまらないよりも、それを見て喜んでいる日本人を見ているのが嫌だったからです。
もっとしっかりとしてくれよ。
面白い面白くないというのは他人に合わせるべきものではなく、自分で考えるべきものなんだよ。

ワニの池の前で
ワニの池の前で

少し離れた水槽でワニを眺めたり、写真を撮ったりしていると、ショウをやっている池の方から拍手が起こりました。
どうやら無事に終わったらしい。
やれやれ。なんだってワニのショウなんだ。
象だと聞いていたはずなのに。まあいいか。
そんなことを後輩と話していると、取り囲んでいた観客がドドォ~と急ぎ足で奥の方に向かい始めました。
何だ?どうしたんだろう?バーゲンセールの始まりか?
唖然としているうちに池の周りには誰もいなくなってしまいました。
どうやら我々は取り残されているらしい。このままではまずいのでは・・・。
みんなが進んだ方向に歩いて行く事にしました。
「一体どうしたんですかね?」という後輩の問いかけにも、「さぁ~」と答えるしかありません。
バスの中で説明されたのか、今のショウでアナウンスされたのか、その両方とも聞いていなかったので、何がどうなっているのかさっぱりわかりません。
ちょっぴり焦りながら歩いていくと、奥にはグラウンドと観客席がありました。
観客席を見ると、見やすそうな中央部は完全に埋まっています。
なるほど。みんないい場所を取るために急いで移動していたんだ。
わかっていたらワニの池なんか素通りしてここに来ていたのに。
出遅れた我々は一番隅の席に座らさせられました。
席取りは所変われど激しい事には変わらないんだな。それが安らぎの国タイでも・・・。

象の行進など1
象の行進など2
象の行進など

我々が座ると同時に、グラウンドで象のショウが始まりました。
今度のはワニのショウとは違って、ちゃんとしていました。
さすがは人気者の象だけはあります。
しかし、場内アナウンスがプロレスの実況のような日本語なのはさっきと一緒でした。
ほぼ日本人しかいない状況では日本語なのは分かるのですが、なんでプロレスの実況のようなアナウンスになってしまうのだろう。
タイ人の気質にこのテンポがあっているのか。
これではせっかくのショウも台無しになりかねないので、何とかして欲しいもの。
それにしてもここはいつも日本人専用のショウを行っているのだろうか。
英語版は午後にやっているとか。色々と頭をよぎりましたが、とりあえずショウに専念することにしました。

まずは十頭ぐらいの象が綺麗に整列して並びました。
大きい象が一列に並ぶと、かなり迫力があります。
これは圧巻。象もきちんと調教すれば、なかなか賢い事をやるんだと新鮮な感動がありました。
そして、並んだ象は行進や整列などをきちんとこなしていきました。
その様子を見ていると、古来、この地域に戦争で象兵というものがあったのを思い出しました。
本やゲーム、そして映画の中でしか知らない象兵。
今まではそのイメージが湧かなかったのですが、実際に目の前できちんと行進や整列をされると、なるほどなと象兵の存在を信じる事ができました。
調教さえしかっりやれば、歩みは遅そうですが、背中に数人の兵が乗る事ができて、ちょっとした櫓になります。
高い位置から弓などで攻撃すればかなり威力がありそうです。
それに性格も温厚そうで、馬と同じぐらい扱いやすそうに見えます。
中央アジアの馬。中東のラクダ。高山地帯のリャマ、そして東南アジア、インドの象とご当地物の動物達というのは、それなりに愛嬌があり、やさしい目をして、温厚な性格をしているんだなと思いました。

象に餌付け
象に餌付け

行進などが終わると、一旦グランドが片付けられて、次はサッカーをやり始めました。
象がサッカー?さすがにビックリしました。
まるでサーカスです。もちろんサッカーといってもPK戦みたいなものでしたし、ちょっと動きがぎこちなかったけど十分にショウとしてなりたっていました。
日本でこんなショウをやっている場所はまずありません。
周りが日本人ばかりだと不満を言っていたのを忘れて、いつの間にか夢中になって見ていました。
そして「入り口の方で象に乗れます」とか、「○○ツアーの人は何時までにバスに戻ってください」とアナウンスが流れて、ショウは終わりました。
その後は象とふれあい時間といった感じで、象のそばまで行って直に触ることができました。
あれだけ賢い象を見せられれば、触りに行かない手はありません。
我々も近くまで行ってみると、隅っこの席からは遠かったので象の周りは既に観光客でごった返していました。
そしてその間を縫って、係りの人が象の餌となるサトウキビを売って歩いていました。
結構買っている人が多い。私も買おうかな。象に愛着を感じつつそう思いました。
しかし隣で買っている様子をながめてみると、かなり高い値段で買っていました。
町中でサトウキビがいくらで売っていると思っているんだ。
普通のタイ人が聞いたらびっくりする値段です。
えらくボッタくった値段に買う気も象に対する愛着も失せてしまいました。
しかし、後ろから声をかけてきた後輩の手にはサトウキビの束が・・・うれしそうな笑顔に思わず苦笑い。
それにしてもこれだけ多くの日本人がさとうきびを買って与えていれば餌代がかなり浮くはず。
それにボッタくったサトウキビ代でその他の餌もまかなえるはず。賢いなと思いました。

象に触った後はさっさと出口に向かいました。
やはりなんだか憤然としません。あのサトウキビの値段はいくらなんでも高すぎるのでは・・・。
「まあいいじゃありませんか。楽しかったし、象に触る事ができたんですから。」と言う後輩の声に、「そうだね。」と納得する事にしました。
そして出口付近を通りかかると、観光客が象と記念撮影していたり、象の背中に乗って園内を一周していたりと、ここでも象が大活躍していました。
みんな象が好きだね。まあ日本ではそうお目にかかれないし、動物園に行っても柵の中だしな。
うむ、分かる気がする。
多くの観光客が楽しそうにしているのを見てそう思いました。
後輩も周りの雰囲気に負けたのか、「記念に写真でも撮りましょうよ」と言い出しました。
そうだね。否定する理由もなかったので、我々も写真を撮ってもらうことにしました。
象の前に行くと、どうやらみんなお金を払っています。
そうか、まあちょっとぐらいだったらいい。こうやって生活してるんだもんな。
しかし、値段を聞いて、唖然。100バーツ!!!とても法外な値段でした。
日本円に換算しても400円ぐらい。なんでそんなに高いんだ。ぼったくりすぎ。詐欺もいいところだ。
普通のタイの人の日収が幾らだと思っているんだ。
と、様々な思いがよぎって、笑顔で値段を言ってくるおじさんを腹ただしく思いました。

象と記念撮影
象と記念撮影

しかし、周りを見ると、口論をしている人は誰もいません。
みんな納得してして払っているようです。
やっぱり日本人は金持ちだ。それとも私がケチなのか。
いや違う!断じて言おう。
ここで普通に払っている人は金銭感覚にだらしない人達だ。
日本の金銭感覚をタイにまで持ってくる横暴な人間だ。
言われた金額を払う馬鹿な人間だ。
海外旅行先で聞く日本人観光客の金銭感覚のだらしなさの縮図がまさにこの園内で繰り広げられていました。
よく欧米人に指摘されている事です。
今まではツアーに参加する事がなかったのでこの事は感覚的にしか分からなかったのですが、実際に目の当たりにしてみると、払っている人間が無意識だと言う事に気が付きました。
無意識にボラれているというか、ボラれない努力をしないというか、周りがそうだからとか、そう決まっているからといった感じで払っています。
周りの観光客の笑顔を見ていると、怒りを越えて脱力感に襲われました。
後輩の「どうします?」の問いに、素直にこの法外な値段を払う気はなく、「高いよ、やめようよ」と言うと、後輩も納得して頷いてくれました。
後輩に悪い事をしたかなと思いつつ、その場を去ろうとすると、今まで笑顔だったおじさんが真剣な顔になり、小声で半額でいいと言ってきました。
なんとも浅ましい。いきなり50%オフか。
これでもまだ高いんだろうなと思うものの、写真を撮りたがっている後輩にも悪いしな・・・。
それに10円単位でけちけちし始めると心がすさんでくるもの。
その値段で写真を撮ってもらうことにしました。
すると、おじさんの合図で象はかがんでくれて、写真撮り用のポーズをとりだしました。
至れり尽せりだけど・・・、ちょっと複雑な気持ちでの記念撮影となってしまいました。

象との撮影が終わると、いいカモだとばかりに今度はでかいニシキヘビを持ったおじさんが声をかけてきました。
これはでかい。ちょっと興味を持って蛇を眺めると、「100バーツで写真を撮らないかい。首に巻いてあげるよ。」と言ってきました。
どうやらここではこの値段が相場になっているみたいです。
こりゃここで働く人はウハウハだな。左団扇で高収入。
さすが日本人のツアー客を相手にした商売。
地元では超法外な値段もここでは標準。
はっきり言って、ここの中は日本の遊園地と何ら変わりがありません。
海外まで来てこんな所ばかりツアーで周っているのだったら、日本にいた方がいいのではと思ってしまいます。
世界で馬鹿にされている日本人観光客。
日本人が大勢訪れる場所では物価が上がると他の国の旅行者に皮肉られる事も多々あります。
地元の人がボッて楽して儲ける事に味を占めてしまうからです。
世界中どこでも国内旅行の感覚ではないか。少
しは地元に溶け込むことも考えないといけないのではないか。
再び怒りがこみ上げてきました。
いや落ち着くんだ。旅行は楽しくあるのが基本だ。周りのことはほっておこう。
私がここで腹を立てても何が変るわけでもない。
少なくとも我々だけでも楽しく、そしてマナーのある観光客でいればいいではないか。

ニシキヘビと記念撮影
ニシキヘビと記念撮影

ニシキヘビと一緒に写真を撮るのも悪くないな。
日本ではめったにできない事だし。
ポケットを探ると25バーツありました。
「これだったら撮ってもいいよ」と言うと、おじさんは首を横に振りました。
「じゃ、いいや。」 これ以上出す気は全くないので、歩き始めるとおじさんが慌てて追いかけてきて、「OK」と言ってきました。
なんとも変な交渉。
普通なら「分かった。定価は400円だけど学生プライスで300円でどうだ。」といった風に交渉が進むものですが、それを飛び越え一気に75%オフ。
閉店セールみたいなものです。
さっきの象の時もいきなり50%オフだったし、いかにこの値段がいい加減で、ボッタくっているかがわかります。
実際にこういう実費のかからないものは、値切れば値切るほど安くなります。象は維持費が結構かかっていそうですが、蛇ならそんなにかからないはず。
きっと10バーツぐらいが本当の相場なんだろうなと推測できるのですが、まあいい。
相手の生活を脅かすような値下げはしたくないし、10円単位でけちけちすると、自分の心がすさんできます。
その値段で写真を撮る事にしました。交渉が成立すると、おじさんは私の首にニシキヘビを巻いてくれました。
なんとも変な感触。実際、ニシキヘビを触るのは始めてでした。
意外に表面はつるつるしています。
しかし、こんなのに巻きつかれたらたまらない。
人のいないところだったら、後いくら払わないと締め付けさせるぞと恐喝されるかもしれません。
そんな事を考えていたら急に怖くなり、写真を撮り終わるとすぐにおじさんに蛇を返しました。

その後はゲートを出て、バスに戻りました。
なんとも不思議な体験というか、色々と考えさせられたエレファント園でした。
象の素晴らしい行進や知性あふれる行動を見ることができた反面、日本人ツアー客の金銭感覚のだらしなさを思いっきり目の当たりにしてしまいました。
見ていると、日本人は日本語が氾濫していると日本にいる時と同じ感覚で行動してしまうようです。
そして日本人は旅に出ると財布の紐が緩みます。
その為、観光地ではツーリストプライスを承知で買い物をしていたりします。
欧米人はその逆で旅先になると財布の紐をしめる傾向があります。
そのへんは文化の違いなのですが、それ故に日本人は海外で買い物下手に思われているのも事実です。
実際に言葉が通じないのもそのせいですが、「旅の恥はかき捨て」と旅行に出ると気が大きくなり少々の事だったら許してしまう事も一因ではないのでしょうか。
「バンコクに暮らして、日本人観光客相手に商売するか。かなり儲かるぞ。」
後輩とそんなことを話していると、みんなそろい、バスは走り出しました。

~~~ §5、ローズガーデン ~~~

次の目的地はローズガーデンでした。
ガイドの人の説明では、またもや日本人をターゲットに作ったアトラクションのようです。
先ほどのような光景がまた繰り広げられているのでは。
そう考えると、ちょっと足取りが重い。
園内に入ると、大きなサーカステントみたいな建物があり、その中に連れていかれました。
鉄筋の体育館のような建物ではないのが、なかなか趣があるというか、好感が持てました。
中に入ってみると、正面にはステージがあり、予想通りサーカス小屋みたいなつくりをしていました。
これから中央のステージで様々なショウが行われるらしい。
入場の際にもらったパンフレットを眺めると、日本語でプログラムが書いてあり、「聖職者の道をゆく」 「フィンガー・ダンス」 「タイ式ボクシング」 「イサーンの民族舞踏」とコンテンツが続いていました。
なるほど、なるほど。うなづくものの、タイ式ボクシングしかピンときません。
まあ伝統舞踏なんていうものは少々退屈するものだから、タイ式ボクシングに期待しよう。
さっきのエレファント園みたいにつまらなくない事を願って上演を待ちました。

しばらく待つと、ショウが始まりました。やはりアナウンスは日本語。
見渡す限り日本人ばかりの観客席を考えれば当然の成り行きのようです。
音楽に合わせて、ぞろぞろと舞台裏から民族衣装を着た人々が入場してきました。
そしてなんだかよく分からない踊りを始めました。
場内アナウンスだと聖者の為の踊りだとか。
くねくねとした動きは軟体動物を連想してしまい、なんとも変な感じ。
15~20分ぐらいその踊りが続いた後、次のショウに変わりました。
今度は数人のかわいい踊り子が出て来て指を主体にしたダンスを始めました。
フィンガーダンスというのか、これは何かのテレビで見たことがあります。
最初のうちは奇妙だと思いながら見ていましたが、そのうち飽きてきました。
第一私たちの席からは舞台が遠い。もっと近ければ、真面目に見ようという気にもなるものだが・・・。
まったく、うちのツアーはどうなってるんだ。
ショウが面白くないのをツアーのせいにする事にしました。
「それにしても、よくもまああんなに手を動かしていて、手が疲れないな。」
「いや、普段から鍛えてるんですよ。」
「一番右側の女の人可愛いな。」
「う~ん。遠くてよく見えない。」などと後輩と話していると、踊り子がダンスを終えて舞台裏に戻ってしまいました。
きっと前のほうで見てても同じ会話内容だったに違いありません。

ここで休憩。舞台では係の人がリングを作り始めました。
次はタイ式ボクシングのようです。ここでの上演の中で一番の楽しみにしていました。
舞台を作ってやるという事は、結構本格的かもしれない。
期待に胸を膨らませて上演が待つと、独特の音楽が流れ、試合開始前の儀式が始まりました。
ひざまずいて祈っている姿は神懸り的なものさえ感じます。
それと同時に流れている音楽がまた神秘的な雰囲気を醸し出しています。
なかなか本格的だ。そして儀式が終わり、両者はそれぞれのコーナーに分かれていきました。
いよいよ試合開始だ。固唾を飲みつつゴングを待ちました。
しかし、「カーン」とゴングが鳴った瞬間、大きな失望を味わうことになってしまいました。
さっきまでの真剣な姿と打って変って、いきなりパロディーになってしまったからです。
さっきまでの真剣な姿はなんだったんだ。騙された・・・。
予想外の展開に後輩ともども言葉を失ってしまいました。
コント内容もどこかで見たことのあるもの。
そうだこれはチャップリンのどたばたコメディーのシーンだ。
明らかに「チャップリンの拳闘」「町の灯」のコントを参考にしていると思われるような内容でした。
こんな所で本場のタイ式ボクシングが見れると思ったのが甘かったな。
というか演技者もショーの度に毎回殴り合っていては体が持たないはず。
「時間があれば、ちゃんとした試合を見に行きましょう。」と後輩ががっかりしたような口調で言い出しました。
「そうだね。次バンコクに戻ってきた時に時間が合えば行ってみよう」と言い、ショウはそっちのけでガイドブックを開き、タイ式ボクシングの会場を探し始めました。

ローズガーデンの出し物をすべて見終えバスに戻りました。
これで水上マーケットの観光ツアーは終わり。後はバンコクに戻るだけです。
ローズガーデン最後の出し物は眠さに負け、見ずに終わってしまいました。
なんだか今日1日よく寝たな。寝過ぎたせいか、帰りのバスでは寝る事ができませんでした。
車内はほとんどの乗客が疲れ果てて寝ているようで、えらく静まりかえっていました。
退屈そうに起きているのは我々だけ。
この間の悪い雰囲気の中、早くバンコクに着けと退屈をしのいでいました。

~~~ §6、タイ舞踏の晩餐 ~~~

バンコクに戻ると、今度はタイ舞踏のディナーショウです。
花より団子。クーポンが余っていて夕食もついているしと何となく申し込んだツアーなので、正直言って我々は踊りよりも食事のほうを楽しみにしていました。
少なくとも初日の料理よりはましなはず。一体どんな料理が出てくるのだろうか。
タイ料理のフルコース?想像しているとお腹が鳴ってきました。
バンコクに着くと、そのままミニバンに乗り換えて、ディナーの会場まで送ってもらいました。
着いた先はなんだかよく分からない会館みたいなところ。
入場してみると、広い会場には机が並べられていて、既に多くの人が座っていました。
周りを見ると、全て日本人。
既にかなりの本数のビール瓶を空にして、酔っ払っているおっさんもいます。
なんだかな・・・。これでは温泉の宴会場の雰囲気ではないか。
顔を赤くしているおっさんを見ていると、浴衣を着せてあげたくなってきました。

またもや日本人用の出し物か。
この異様な雰囲気の会場にげんなりしていると、係りの人が来て席に案内してくれました。
遅く入ってきたからか、はたまた日本で買った安いチケットのせいか、それとも興味のなさそうな顔つきからか、我々の座席はまたもや隅の方でした。
正面の特等席に座ったとしても我々の事だから真面目に見ないだろう。
ちょっと癪な気もしましたが、文句を言わずに与えられた席に座る事にしました。
座ると、すぐに飲み物の注文を受けに係りの人がやってきました。
てきぱきとしていて、なかなかすばやい対応だ。
我々もビールを飲むか。しかし、受け取ったメニューの値段を見てビックリ。高い!!!
「な、なんでこんなに高いんだ。」と吠えたくなるような値段でした。
「高い。やめようか。」と後輩たちに言うと、「せっかくだから・・・自分がおごりますよ」と言われてしまいました。
いや、そうじゃないんだ。お金がもったいないという問題ではないんだ。
馬鹿にしたような値段を払いたくないだけなんだ。
そう伝えたかったのですが、長い説明になるのでやめました。
結局後輩になだめられる形で、我々はビールを2本頼みました。
しかし、日本よりも安く売っているビールが、日本の温泉旅館で飲む並みに高いのはどういう事だ。
しかもこんな集会場のようなちゃちな会場で。
馬鹿にしているような日本人プライスにはもううんざりでした。

タイ舞踏のステージ
タイ舞踏のステージ

司会の人が舞台に上がり、簡単な挨拶と謝意を述べ、最後につまらないギャグを言って引っ込みました。
そしてタイ舞踏が始まりました。
伝統的舞踏だけあって、踊りはゆったりと、優雅にといった感じ。
昼間見た「フィンガーダンス」に似た感じがします。
どうやら見ているとタイでは、指と腰を主体にして踊るのが主流な伝統文化なようです。
それにしても動きが静寂です。
日本の盆踊りよりもスローなテンポで踊っているので、見ているこっちとしてはどうも雰囲気に馴染んでいけません。
イスラム圏のベリーダンスやスペインのフラメンコ、ブラジルのサンバのように動的な踊りなら、比較的簡単にその場の雰囲気に溶け込む事ができるのですが、この踊りはなかなか溶け込むのが難しい。
手拍子でも打つ事ができるなら少しはテンポや雰囲気もよくなるのだろうけど・・・教養のない我々の出番は最初の5分だけで、後はひたすらストレスが溜まるだけでした。

踊り子のお姉さんと記念撮影
踊り子のお姉さんと記念撮影

舞踏の合間に料理が運ばれてきました。
次々と小鉢で出てきたのですが、どれも可もなく不可もなくといった感じでした。
こんなものか。不味くなくて安心したという気持ちと、予想よりもしょぼくてがっかりした気持ちが混じっていました。
もっとも我々の普段の食生活が屋台を中心としたものなので、ここの料理がどれほどのものか正しく判断できないというのが実際のところかもしれません。
ただ、我々3人の共通した見解は、「屋台の方が好みに合っている」でした。
そうこうしているうちに踊りは終わり、踊り子達は観光客が座っている広間の方に降りていました。
チップの催促?よくよく見ていると、みんな踊り子達と一緒に記念写真を撮っています。
なるほどいいサービスだ。踊り子の人もご苦労な事だ。
そう思っていると、我々の所にもやって来ました。
「写真を撮りませんか?」
ポラロイドカメラを持った人が一緒で、ちゃんとお金を取るようでした。
値段を聞くと、これがまた法外に高い。
3人で割り勘にすればたいした値段ではないけど、やっぱり納得がいかない。
「どこまで日本人を馬鹿にしているんだ。」と唸りそうになりましたが、周りの人達がにこにこしながら写真を撮っている雰囲気の中では、それは大人気ないのかも。
撮らなければいいんだ。
「高いからいらない」と、少し皮肉を込めて断ろう。
後輩に同意を求めようとする前に、後輩が「お願いします。」と係りの人に頼んでしまいました。
私の行動パターンが読まれ始めている・・・。こうなったら仕方ないか。
でも写真を撮って歩いている人の持っているのはポラロイドカメラなので、1枚しか写真が撮れません。
持参しているフィルムのカメラでも撮ってもらう事にしました。
これだったら帰ってから焼き増しすればいい。
他の観光客と違って、ほんのささやかな抵抗をした気分でした。
でもやはり私も他の観光客同様に甘いかも・・・。

再び司会者が舞台に上がり、終わりの言葉とツアーに参加してくれた事への謝意を述べて、ディナーショウはお開きとなりました。
盛大な拍手はなく、みんな何となく周りに合わせて手をたたいているといった雰囲気の中での閉幕でした。
ここにいた日本人のうち、どれだけの人が満足したのだろう。
我々のようにクーポンが余っていたから参加したような人は、こんなもんかと半分どうでもよい感じがしますが、これが目当てで来た人は面白いと感じていたのだろうか。
ちょっと疑問に感じました。

今回日本で申し込んだツアーはこれで終了したわけですが、それにしてもどのツアーでも日本人を馬鹿にしたような高額の値段を言ってくるのが腹正しく思いました。
もちろんそれがタイの人に役立つような支出ならいいのですが、どう考えても一部の金持ちを更に裕福にするような感じなので、どうも納得がいきません。
詐欺もいいところだと思うのですが、どの日本人を見ていても何一つ文句を言わずに当たり前のように払っているのもストレスに感じてしまいます。
ツアーに参加している人達が無知過ぎるのではないか。
無知に付け込まれているだけの話と言えばそれまでですが、それが余計に腹正しさを増しているのは確かでした。
何にしてもしばらくはこういった日本人のツアーには参加しようという気は起こらないだろうと思いました。

~~~ §7、旅立ち ~~~

本来ならホテルまで送ってもらうのですが、私達には戻るべきホテルがありません。
代わりにフォアランポー駅まで送ってもらう事になりました。
法外なビール代などを取っている割には、このような事は妙に親切だったりします。
金が絡んでいないからだろうか。
いやいや人をあまり疑ってはいけない。
無口な運転手の運転するミニバンに乗り、駅に着くと9時半でした。
夜行の発車時間は11時過ぎ。あと一時間半も時間を潰さなければなりません。
飲み物とお菓子を売店で購入し、しばらく駅でまったりとする事にしました。

夜の駅構内
夜の駅構内
夜行列車と
夜行列車と

駅の構内では、みんな思い思いに時間をつぶしていました。
設置されている数少ない椅子に座れる人はまだしも、大抵の人は自分の荷物を枕代わりにして床に横になっていました。
まるでスラム化した駅みたいな感じがして、こういう光景を慣れていない我々には少し不気味に感じました。
かといって、突っ立ているのも疲れます。
我々もタイの人達と同じように地面に腰掛け、発車時間までボーとする事にしました。
夜とはいえ、バンコクの夜は非常に蒸し暑い。
じっとしているだけで汗ばんできます。
「暑い~!」「溜まりませんな」などと他愛のない会話をしていると、発車の20分ぐらい前に、駅のアナウンスが乗る列車が入線してくることを告げました。
いよいよだ。ホームに行くと、ちょうど列車が入線して来ました。
駅においてある時刻表によると、タイの鉄道の中では最新鋭のディーゼルカーらしい。
時刻表の表紙も飾っていました。じゃあまあ写真でも撮っておくか。
乗る前にわざわざ一番前まで行き、記念撮影をしておきました。
なんとなく退屈を紛らわしたかったのかもしれません。

指定席だったので我先にと椅子取りゲームのような事をする必要はありませんでした。
しかし予想外に網棚争いは激しく、乗客の多くが結構荷物を持っていたので、網棚がすぐいっぱいになってしまいました。
比較的早めに乗った我々は何とか3人分の荷物を網棚に載せる事ができ、胸を撫で下ろした次第。
そして自分達の席に着きました。
2等車の座席なのであまり快適とは言えませんが、同じアジア人サイズに作られているからそんなに不満はありませんでした。
それにリクライニングシートなので幾分寝やすくはなっています。
もちろん4星ホテルのベットとは月とすっぽんですが・・・。
まあ明日の朝まで一晩だけの辛抱です。

乗ってくる乗客などを観察していると、列車が動き出しました。
本来ならごちゃごちゃした街並みが窓の外に見えるはずですが、窓の外は真っ暗。
東京だったら11時を過ぎていても明るいし、多くの照明がともっていますが、ここではそうではないようです。
これが当たり前なんだろうな。東京が無駄に明るすぎるんだ。
そんなことを考えていると、冷房が効いてきて少し寒くなってきました。
一時的なものかとしばらく我慢していましたが、どんどん寒くなるばかり。
う~ん、寒いぞ。前の座席に座っている後輩に「寒くないか」と聞くと、「むちゃくちゃ寒いです」との答え。
こりゃたまらない。網棚の鞄から長袖を取り出して着込みました。
誰も何も言わないけど、他の人は冷房が効きすぎているとは思わないのだろうか。
東京の照明と同じで、これも無駄に冷房が効きすぎているのでは。
ただ照明が無駄についていても害はないけど、冷房が無駄についていると風邪を引いてしまうのが恐ろしい。

明日の到着は朝5時10分。
早朝の到着となりますが、終着駅なので乗り過ごす事はなく、安心して寝る事ができます。
しかし、まぶたを閉じてみるものの、なかなか寝付けません。
しょうがなく考え事をする事にしました。
しばらくはタイ中部の旅行する予定。
バンコクではツアーに参加しての行動が多かったけど、これからはまるっきり当てのない旅になります。
ようやくツアーから開放される。
それと同時に大丈夫だろうかといった不安が入り混じった不思議な感じでした。
日本人プライスには閉口しましたが、ツアーは確かに楽ちんでした。
何も考えずにガイドの人に付いていくだけでよかったのですから。
しかしこれからは全て考えて行動しなければなりません。なんて面倒臭いのだろう。
このような弱気になっている自分に少々驚きました。
日本を出発してから1ヶ月半を過ぎ、精神的にも大分疲れが溜まっているのかもしれません。

ふと物音で目を開けると、車掌が切符の検察をしていました。
後輩たちが終わると、私の番。切符を渡すと、鋏を入れて返してくれました。
後は何も眠りを妨げるものはないはず。
そうだ。椅子を倒そう。
レバーに手をかけ、ふと座席の隙間から後ろを見ると、私の後ろの座席では母親がひざの上に子供を抱いていました。
「・・・仕方ないか。」
リクライニングのレバーにかけていた手を離しました。
運が悪かったようだ。こういった巡り合わせも旅のうち。
こんな日もあるさと考えるのが一番。倒すのは諦め、体を丸めて寝る体勢を作りました。

第4章 水上マーケット  ー 完 ー

第5章 スコータイ遺跡に続く

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