風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

ぐうたら香港滞在記

~ 第9章 別れと新たな旅立ち ~

*** 第9章 別れと新たな旅立ちの目次 ***

~~~ §1、さらばマカオ ~~~

昨夜はカジノに行き夜中に寝たせいと、久しぶりにふかふかのベッドで寝た為に目覚ましが鳴っても目が覚めませんでした。後輩に起こされてみると、チェックアウト時間の10時が迫っていました。これだからちゃんとしたホテルは不便だ。マンダリン・ゲストハウスなら昼まで寝ていられるのに・・・。いやいや、そんなぐうたらな考えでは駄目だ。早起きは三文の徳。早く起きるに越した事はない。って、もう早起きといえる時間ではないな。それよりも延長料金なんてものを取られたらしゃれにならないぞ。急いで出発の用意を始めました。今日は香港に戻り、夜にはインド行きの飛行機に乗る予定になっているので、なるべく早い時間に香港に戻っておいた方が精神的に安心なことだけは確かです。

高台から見た港
高台から見た港
マカオの町並み
マカオの町並み

チェックアウトを済ませると、港までは散歩がてら歩いて行く事にしました。現在地がバス停のある通りまで遠いし、何より昨日のカジノで負けた分を節約するんだという意味合いもありました。しかし、所詮は焼け石に水。気分的なものに過ぎない事は重々承知でした。まずはガイドブックの地図を頼りに灯台方向へ進路を取りました。この道はマカオの高台を環状に通っていて、その途中で下に降りればかなり近道です。それに高台の道なので眺めがよさそうだ。しかし歩き続けるものの、一向に下に降りる道がありません。これはおかしい。地図では近道に思えたこの道は単に灯台のある高台を一周するだけの道だったようです。おかげでかなり後戻りをするはめになってしまいました。ついていない時はとことんついていないようです。でも高台からの眺めは良く、町並みはもちろん港の方まで見渡せました。「眺めがいいだろう。この眺めを見たくてね」と後輩に言い訳をしている私がいました。

かなり大回りしてやっと高台から降りる事が出来ました。今度は大丈夫だ。商店街のような道を歩いていると、マカオグランプリ博物館というものがありました。レースは大好きなので、とりあえず建物の中に入ってみると、入場料は20HK$とのこと。どうしようか。ちと高い気もするな。そもそもマカオグランプリの名前は聞くものの、一度もテレビで見たことがありません。同じ市街地でもF1のモナコGPなどは有名ですが、F3と格の下がるマカオGPはそこまで有名でもありません。カジノでは負けたし、ここは財布の紐を締めておくべきか。後輩に聞いてみると、大して興味がないとの事。じゃあいいか。きっと大して見るべきものはないという勝手な結論にいたり、博物館を去りました。本当に見るべきものがなかったかは疑問ですが、同じ建物の中にワイン博物館みたいなものがあったのがもっと疑問でした。一体何の関係があるのだろう。

宿代を払ったので、財布の中にはほとんど香港ドルが入っていませんでした。途中で両替をしなければと歩いていると、銀行を発見。看板には両替の文字も書かれています。ちょうどいい。寄っていこう。しかし窓口でトラベラーズチェックを出すと、「ノー」と首を振られてしまいました。なんでこうなるんだ。本当についていないと言うか、マカオと私の相性が悪いと言うか、ここは全くもって不便な町だ。先ほどの遠回りした分も混じって、マカオの町に憤りをぶつけていました。観光もつまらないし、カジノでは負けるし、入国審査では待たされるし・・・次から次へと不満が浮かんできます。結局行きつくところは「カジノに勝っていればこんなはずでは・・・」という事でした。

港に着いた時にはかなり疲れていました。それにしてもよく歩いたな。途中でバスに乗るという選択肢もあったのですが、なんやかんやと意地になって歩いてしまいました。さてチケットを・・・そうだお金がない。少し余裕のある後輩に借りて、香港で両替をするという手もあったのですが、まずは港の両替所へ。駄目ならしょうがない。トラベラーズチェックを見せて両替出来るかと聞くと、「トラベラーズチェックね~、OK」といった感じで余りいい顔をしていなかったけど、なんとか受け付けてくれました。両替が終わるとすぐに船のチケットを購入しに行きました。窓口で「エコノミークラスの切符が欲しいのですけど。」と言うと、「今日の夜の分だったらあるけど、今の時間帯はファーストクラスしかないよ」との返事。これは行きと同じパターンだ。昨日港に着いた時に、帰りのチケットを買っておけばよかったのではないか。今ごろ気が付いても遅い。当然の事ながら夜まで待てないので、行きと同様にやむなくファーストクラスの切符を購入しました。しかし何故か行きよりも数ドル安い。一体この微妙な差額は何なんだろう。マカオの方が香港よりも物価が安いという事だろうか、それとも他の事情があるのだろうか。でも微妙な差額をつけるなら同じ金額にするほうがすっきりとすると思うのだが・・・。この律儀さは香港人やマカオ人の性格なのだろうか。微妙な値段の差が妙に気になってしょうがありませんでした。

出発前の船はよく揺れるのは来る時に体験済み。今回は昨日の教訓を生かし、最初に並び、座席のシールをチケットに張ってもらうと、船に乗らず桟橋でタバコを吸って待つ事にしました。出発するギリギリに乗船しようと思っていたのですが、しばらくすると係りの人に早く乗れと小言をもらい、仕方なく乗船。そしてちょっとの間揺れに耐えていると船が動き出しました。窓の外を見るとマカオのビル群がどんどんと遠のいていきます。さらばマカオよ。そう心の中で思いながらも、特に感慨深いものはありませんでした。また来ることがあるのだろうか。いや、恐らく個人的にはもう来る事はないだろう。遠のいていく町を見ながらそんな感じがしました。もし来るとしたら・・・と考えるとカジノが頭に浮かびました。そして昨夜の興奮と熱気が再び頭によみがえってきました。やっぱりマカオといえばカジノという事になるのかな。カジノのインパクトが強烈といえばそうだけど、その他の印象が薄いのも確かでした。そんな事を考えながら小さくなったマカオを眺めると、人々の欲望によってできている蜃気楼のように見えました。

~~~ §2、再び香港 ~~~

マカオから再び香港に戻ってきました。正確に言うと、シンセンに1回行っているので再々入国になります。だから入国審査を通過すると、私のパスポートには香港の出入国スタンプの5つ目が押されました。マカオからの船は香港島にある港に着くので、懐かしの重慶マンションに行くには九龍半島側に渡らなければなりません。昨日のように地下鉄に乗ればあっという間に重慶マンションの近くに行く事が出来ますが、値段は高いし、窓の外の風景が見れません。それにセントラルのスターフェリーの桟橋近くにある中央郵便局に郵便を出しに行きたかったので、まずはセントラルに向かう為トラムの駅を捜しました。

トラムの2階
トラムの2階
トラムの後部運転席から
トラムの後部運転席から

港の前の通りから初めて香港のトラムに乗りました。一度乗ったことのある後輩にあれこれ聞きながら乗ってみると、料金は一律1.6HK$で降りるときに払えばいいようです。なんだ昔よく乗っていた広島の路面電車と同じシステムではないか。そう考えると親近感が沸いてきます。ただ香港のトラムの凄いところは日本の路面電車と違って2階建てという事です。しかも世界唯一だとか。それならその世界唯一を体験しておかなければ。乗車すると早速狭く急な階段を登り、2階に上ってみました。2階部分は天井が低くバスの2階と同じような感じでした。ただバスよりも横幅が狭いようで、座席は左が1席、右が2席と中途半端な配置をしていました。空いた座席を探すもののあいにくと満席。うろちょろしているとまたバスの時と同じで怒られるといけない。すぐ下の階に降りました。もちろん下も満席で、立っている人もかなりいました。こりゃ駄目だ。後部の入り口付近に立っていると、目の前に空いた席があるのを発見。でも座っていいのだろうか。特に柵とかもないからいいのだろう。きっと・・・。唯一空いていた椅子、後方の運転席に腰掛けました。なかなか気分的に気持ちのいい席です。でもその辺の装置に勝手に触れると、後で面倒な事が起こるかもしれません。そういえば子供の頃、汽笛を鳴らしまくって怒られたっけな・・・大人しく腰掛けていました。窓の外に目をやると、トラム自体も混雑しているようで、数珠繋ぎとなって走っていました。おかげで目の前は別のトラムの運転手。あら、こんにちはといった感じで、町並みをゆっくりと楽しむわけにはいきませんでした。

セントラルに着くと、絵葉書を出しに中央郵便局に行きました。滞在初日に購入して、結局出すのが最終日か。ギリギリになってしまうのは私の悪い癖です。しかも旧正月はもう終わってしまったではないか・・・。でも受け取るほうはいつが旧正月だか正確に分からないから大丈夫だろう。毎年微妙にずれるし、日常生活で旧正月に関わりのある人はいないはず。郵便局に入ると、1階は為替とかの窓口はずらっと並んでいて、郵便関係は2階と案内板が出ていました。そして2階に上ってみると、ずらっと窓口が並んでいて、どこだろうと捜すと、一際長い列が出来ているのが切手の窓口でした。また行列か。しかもここだけ嫌がらせのように極端に長いし・・・。ただこの列は外国人が多く、タックルをしてこないのがいつもと違いました。でも辛抱強く並ばないといけないのは一緒で、しばらく待たされやっと私の番がやってきました。Airmail JAPANと書かれた葉書を見せると、切手代は1枚3.1HK$(55円)でした。日本から出すエアーメールよりは安いけど、日本で出す年賀状よりは高い。やっぱり年賀状は日本でちゃんと書いた方が安くついたようです。

郵便局を出ると、そのままスターフェリー乗り場へ。何度も乗っているので、もう慣れたものです。そして感慨深い最後のスターフェリーの乗船を終え、懐かしの重慶マンションに戻ってきました。友人はいるだろうか。早速E棟のエレベーターに乗り、マンダリンゲストハウスのベルを押しました。ごそごそと音がしてのぞき窓からのぞいたのはおじさんの顔でした。そしてすぐににっこりと笑顔になり、ドアを開けてくれました。さすがに8日間もお世話になれば、向こうも我々に対し、多少なりとも愛着もわいてくるものです。「あら珍しい。おばさんは?」と聞くと、「買い物に出かけているよ。もう帰ってくると思う」との事。「友人はいる?」と聞くと、「わからない。」と言い、部屋に案内してくれました。昨晩は友人1人だけだったので部屋は一段と狭い別の部屋になっていました。部屋に友人はいなく、しばらく待っても戻ってこないので、ひとまず夕食を食べに下に降りました。

香港での最後の食事を済ませ、宿に戻るとおばさんも友人も戻っていました。我々がいない間何していたの?の問いに、友人はビクトリアピークに行ったり、女人街を歩いたり、香港島をぶらぶらと歩き回ったとの事。そういえば私は香港観光のハイライトであるビクトリアピークにもナイトバザールにも行っていないではないか。100万ドルの夜景か。一度は見ておくべきだったな。あっ、でもこれから飛行機に乗るわけだから見えるかも。それに何か見るべきものを残しておけば、また香港に来る気になるだろう。いいように考える事にしました。まだ出発までは時間があるので、みんな揃って重慶マンションの1階にお土産を買いに出かけました。今ある私の全香港ドルは184HK$。空港までのバス代が12.3HK$、空港での出国税100HK$を差し引くと70HK$が私の使える金額となります。さて何を買おう。香港らしいお土産って何だろう?考えても思い浮かびません。重慶マンションの1階には色々な種類の店があるので、物色していい物があれば買おうといった感じでした。改めて一階部を散策すると、電気屋からおもちゃ屋、旅行代理店、そして隅の方ではエロ本屋もありました。本当にここはいろんな意味で多種多様な場所です。その中の雑貨屋で、後輩がこれからの旅の餞別として10HK$の電卓を買ってくれました。しばらくいろんな店を物色していると、ある土産物屋で隅の方に置かれたドミノに惹かれました。値段を聞くと80HK$との事。どう考えても高い。しばらく交渉していたら50HK$まで値が下がりました。やはり観光客だと思って吹っかけていたようです。その他小さな置物も欲しくなり、幾つかあわせて80HK$と交渉成立しました。足りない10HK$は友人からの餞別としてもらいました。

~~~ §3、憂鬱な旅立ち ~~~

宿のおじさんとおばさんと
宿のおじさんとおばさんと

部屋に戻ると、空港への出発の時間が迫っていました。そろそろ出発するか。その前にやるべき事がありました。宿のおばさんのところへ最後の挨拶をしに行きました。「私はもう去らないと行けません。大変居心地の良い宿でした。一緒に写真を撮ってもらえますか?」と言うと、「ありがとう。もちろん。」と返ってきました。どこで撮ろうかというのは既に決めていました。それは玄関前で、みんなでぞろぞろと外に出ました。おじさんも仕事の手を休めて参加してくれました。そしてパシャ。写真を撮り終わると、おばさんは「ありがとう」と何度も言ってきました。何度も言うことは本当にうれしかったのかもしれません。そして荷物を担ぐと、いよいよ旅立です。そのまま玄関で見送ってくれるおじさんとおばさんに、「さようなら。」と言うと、「良い旅行を」とかえってきました。そして握手をしてマンダリンゲストハウスを後にしました。なかなかいい宿だったな。おばさんも面倒見がよかったし。部屋は清潔だったし。でも狭かったな・・・。まあそれはそれ。また香港にくる事があれば写真を持ってこよう。そして安く泊めてもらおうかな。

バス停での大袈裟な別れ
バス停での大袈裟な別れ
空港へのバス
空港へのバス

久しぶり背負うバックパックはとても重く感じました。多分これから一人になるという不安が実際よりも重くさせているに違いありません。友人と後輩と一緒にエレベーターで1階に降り、色々と思い出深い重慶マンションを後にしました。空港へのバス停は、重慶マンションの入り口のすぐ横にあります。時間もさっき食事に出た時に調べてあるのでばっちり。後はバスが来るのを待つだけ。一応別れの写真でも撮っておくか。なんかじっとしていると不安なので、見送ってくれる友人達とあれこれして気を紛らわしていました。そしてバス停でバスを待つこと10分、やっとA1という空港行きのバスがやって来ました。ここで友人と後輩とお別れです。日本に帰ればいつでも会えるのに、何故か異国の地での別れは胸に沁みるものがあります。なるべく明るく振舞いながらバスに乗り込みました。そして料金を払い席に着くと、バスは走り出しました。さらばだ。手を振りながら最後の別れを窓越しにしました。

空港への道中はインドの事よりもこの1週間の出来事を考えていました。楽しかったな。旅は道連れ世は情け。やっぱり旅は仲間がいる方が楽しい。しかし、これからは一人旅だ。困った時や楽しい時に分かち合える仲間がいない。そう思うと、明日の飛行機で彼らと一緒に帰りたくなってきます。いや!いかん。そんな後ろ向きな気持ちでは。こんな状態ではバックパッカーの聖地と言われるインドでやっていけないぞ。それに一人旅でこそ自分が磨かれるものだ。挑戦こそが今回の旅の趣旨ではなかったのか。気落ちしている自分に活を入れなければなりませんでした。

香港のマイルドセブン
香港のマイルドセブン

空港に着くと、すぐに航空会社のカウンターに向かい、搭乗手続きを済ませることにしました。まだ出発まで時間がかなりあったので、カウンターは空いていてすぐに手続きが完了しました。しかし、この時にマイレージカードを渡すのを忘れてしまい、これが後々の騒動の元となるなどとは、この時は知る由もありません。そして出国手続きを終えると、免税店によってタバコを購入しました。ここ香港の免税店にも日本の代表的なタバコであるマイルドセブンが置いてありました。しかも香港の写真入りです。料金は100HK$(1800円)。写真までついて安いのは良い事です。タバコを購入すると、特にする事もなくなったので、出発までベンチに腰掛けて溜まっている日記を書いて過ごしました。

搭乗時間がきたので、機内に乗り込みました。そして自分の席に着いて出発を待つものの、旅立ちの時に感じる高揚感は全くありませんでした。これから新たな旅立ちだというのに、なんか気分が優れません。友人達との別れで、なぜこんなに憂鬱な気分になってしまうのだろうか。日本に帰ればいつでも会える間柄だし、日本を出発する前からこうなる事は分かっていたはずなのに・・・。これが自分の精神的に弱い部分なのだろうか。これから新しい世界であるインドが待っているんだぞと自分で言い聞かせても、インドへ一人で行くのが憂鬱な状態でした。インドか。やめておけばよかったかな。そんな気持ちになると、次々と乗り込んでくるインド人に対してもいい感情がもてなくなってしまいます。そんな私の自分勝手な気持ちを知らないインド人がぞろぞろと大量の荷物を持って乗ってきました。一体何だってこんなに荷物を持っているんだ。うっと惜しいな。少しいらいらし始めました。

いらいらする気持ちや沈んだ気持ちに耐えていると、ようやく出発時間になりました。が、定刻になっても出発する気配が感じられません。10分ぐらい待っていると、インド人の家族が乗り込んできました。なんだ、遅刻者か。困ったものだ。さてこれで出発だ。実際に飛び立ってしまえばこの不安な気持ちにも区切りがつくだろう。安心して座席に深く座るものの、まだ出発する感じではありません。今度はなんだ。機内もざわついてきました。それを察してか、他の乗客が乗り遅れていますので、少々お待ちくださいとアナウンスが流れました。沈んでいる気分が一層不機嫌となりました。「全く何やっているんだ。」と心の中で叫んでいました。そして定刻よりも30分後、やっと飛行機は離陸態勢に入りました。強烈な加速がかかり飛行機は暗闇に向かって飛び立ちました。外を見ると香港のネオンがきらびやかに光っていました。これが100万ドルの夜景か。沈んでいる気分の私にはちょっと眩しく感じました。さらば、香港。さらばだ。

第9章 別れと新たな旅立ち
ぐうたら香港滞在記  ー 完 ー

*短編旅行記 インド入国騒動記に続く

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<ぐうたら香港滞在記 第9章 別れと新たな旅立ち 2000年1月初稿 - 2015年10月改訂>