風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

ぐうたら香港滞在記

~ 第5章 初二の失敗 ~

*** 第5章 初二の失敗の目次 ***

~~~ §1、宋城観光~~~

宿においてあるカレンダーを見ると旧正月の所に「初一」、二日目の所には「初ニ」と書いてありました。なるほど中国語ではこう書くのか。中国語らしいなと思いました。さて、その初ニは、香港と中国の国境にある中国側の町シンセンに日帰り旅行をしようと、昨夜みんなで計画しました。こういう書き方をすれば、今までの我々の行動から考えると、この後の出来事は書かなくても分かりそうなものですが、8時起床のはずが目を覚ますと11時でした。もちろん念の為にと目覚ましは2個セットしておいたのですが、私が起きる前に友人と後輩によって消されてしまったようです。後輩の話しによると、一つ目は友人がすぐに止め、二つ目は友人が止めようとするものの、後輩の目覚ましなので止め方が分からず、「へい、パス」とばかりに後輩の所へ投げ、それを受け取った後輩がすばやく止めたらしい。そして二人とも目覚し時計の消火活動を終えると満足して寝たとの事。普段もこれだけすばやい行動力と抜群のチームワークを発揮してもらいたいものです。と、皮肉を込めて書くものの、目覚ましの音に気が付かなかった私は、この時起きてから何も言えませんでした。

そんなわけで本日の行動計画が狂ってしまったので、新たに計画を練り直す事から今日一日が始まりました。ガイドブックをぱらぱらめくっていくと、宋城というものが目にとまりました。とりあえず宗城に行ってみようか。詳しくは分からないけど、なんか歴史の勉強になりそうだし、観光地っぽいし。そう提案してみると、みんな特に行きたい場所がないせいかすぐに可決されました。その後はどうしよう。みんな特に行きたい場所がない事だし、個々に好きなように行動する事としました。よしっ、計画が立ったからすぐに準備をして出発だ。それにしても腹が減ったな。まずは途中で何か食べていこう。

準備を終え、12時に宿を出発しました。町を歩くと今日も大半の店のシャッターは閉まっていて、町全体がゴーストタウンの様に閑散としていました。おかげでめぼしい飲食店を見つけられないまま地下鉄の入り口付近まで来てしまいました。困ったな。ちょっと回り道になるけど昨夜食べた店に行ってみるか。それとも宋城付近で探すか。迷いながら地下鉄の入り口に着いてみると、目の前に台湾料理屋店が営業していました。外から見た感じでは店内にはラーメンの写真が掲げられています。ラーメンか。悪くないな。それに店の外観は日本の吉野家みたいな造りをしているので、安く、手軽に食べられそうな感じだ。こういう店が営業していてよかった。そう思って入ったのですが、通常料金に祝日営業料みたいな特別料金が加算され、想定していたよりも高くついてしまいました。

今日の移動は地下鉄。路線が複雑ではないし、アナウンスなどがしっかりしているので、乗り継ぎなどで困る事はありませんでした。そして、「美学」という駅で降りました。ガイドブックを見ると、ここから宋城までは徒歩5分と書いてあり、地図を見るかぎりでは公園を突き抜けるのが最短ルートのようです。公園ならいい散歩にもなるな。のんびりと公園の中を歩いていくことにしました。公園内は家族連れが多く、正月の暇な午後を日向ぼっこを兼ねて遊んでいる感じでした。なんだかほのぼのとする光景だな。こういう光景は日本とか香港といった概念を超えて万国共通のものなんだろうな。入ってすぐの所には池があり、子供達が親と一緒に記念撮影をしていました。正月だからなのだろうか。なんとなく我々も真似して写真を撮ったりしつつ、公園の中を進んで行きました。しかし、進めど進めど宗城が見えてきません。とっくに10分以上歩いているよな・・・。変だな。更に10分歩くものの、全く着く気配が感じられない状態でした。それにこの公園、やたらとでかいぞ。どうやら迷子になってしまったようだ。そして30分後、たまらずに地元の人にSOSを発し、なんとか宗城に到着する事ができました。「これは絶対ガイドブックの地図の書き方が悪い!」と、後輩や友人の手前、ガイドブックのせいにしておきました。

宗城の横は遊園地になっていました。外からはなんだかちょっと古めのジェットコースターや観覧車などが見えましたが、なんとも古めかしいものでした。なんか昭和といった感じだな。一昔前の浅草花屋敷とかを思い出すような遊園地でした。入り口付近には屋台が幾つか出ていて、歩かされたから腹が減ったとばかりに、後輩が鳥のから揚げを購入。無駄に歩いた分のカロリーを取り戻していました。さて入り口はと・・・遊園地の方は親子連れで賑わっているのに対して、宋城のチケット売り場は閑古鳥が鳴いている状態でした。暇そうにしているおばさんに、「3人分の入場券をください。いくらですか?」と聞くと、窓口の横に貼り付けられている紙を指差して、今日は半額だよと教えてくれました。その紙によると、普段は大人一人80HK$もするのが、祭日料金は半額の40HK$と書いてありました。これはラッキーだ。500円もお徳。これで昼食の特別料金が帳消しになったと喜んでしまいました。

富豪の邸宅内で
富豪の邸宅内で

敷地に入ると、まずは庭園が続きました。中国の庭園か。日本庭園とさほど変わらないというか、なんか淡泊というか、あまり興味がわかない庭でした。更に進むと、竹林の中に大きな建物がありました。竹林と赤い色を主体とした家。なんか私の知っている中国っぽくなってきました。ガイドブックを見ると大富豪の家とのこと。中に入れるようで、お邪魔しますとばかりに玄関から入ると、正面に豪華な椅子がでぇ~んと置いてあり、一際目に付きました。恐らく家の主はここに座り、玄関からやって来る客をもてなしたのでしょう。中国の映画などでそういったシーンがあったのを思い出しました。もしかしたらここで撮影したのかな。そう考えると、この椅子に座ってみたくなりました。しかし近づいてみると、「座ってはいけません。」との張り紙。なんとけちな。大富豪の家ならもっと気前よくして欲しいものだ。その他は全体的に豪勢な造りをしていて、とりわけ中国の家らしく屏風みたいな物が沢山置いてあるのが印象的でした。さて次に行くか。でも・・・誰もいないし・・・ちょっとぐらいならいいだろう。正月なんだし、遙々日本から来たんだし。我慢できなくなって、先ほどの豪華な椅子に座ってみました。なかなか座り心地がいいというか、間口の広い入り口に向かって座るという行為が気分いい。なんかえらくなったというか、すごく優越感を感じるというか、そういった意味合いがあるんだなと納得。

宋城の時代劇ストリート
宋城の時代劇ストリート
門の上で
門の上で

富豪の家を過ぎると、古い家が立ち並ぶメインストリートらしき場所に出ました。道の左右には商家や民家などに扮した建物が並んでいました。こういった光景はどっかで見た事のあるような・・・。どこだろうと考えると修学旅行で行った京都の映画村に似ています。香港も映画産業が盛んなところ。時代劇などはここで撮影しているに違いない。きっとそうだ。そんな事を考えながら左右に並んだ建物を眺めながら進みました。建物は酒屋や薬屋などとちゃんと昔の商店を模して作られています。それに混じって茶屋があり、実際に飲食が出来るようになっているのも風流です。中には飴屋があり、飴は日本の駄菓子とデザインが一緒で、とても懐かしい色をしていました。

メインストリートの終点には大きな門がありました。どうやらここからも出入りが出来るようです。この門は上に登れるようなので、さっそく登ってみました。登るとこの宗城の敷地が一望でき、なかなか見晴らしがいい。しかし見晴らしがよすぎるのも困ったもので、塀を越えた向こうの遊園地やら、敷地外の道路やら、高層住宅やらも見え、なんか変な感じです。なんというか、この狭い敷地だけが不自然に時代に取り残されている感じがし、やっぱり撮影用に造られた舞台や箱庭といった印象が強くなってしまいました。まあこんなもんか。半額だったし。と、我々は宗城の建物やアトラクションよりも、料金が半額だった事に喜びを感じつつ宗城を去りました。

~~~ §2、屯門へ ~~~

宗城を去った後、隣の遊園地に行くはずもなく、各々の行きたい所に行く事にしました。友人は徒歩でぶらぶらと宿に向かい、後輩は地下鉄で宿の近くまで行き、ぶらぶらするとの事。私はせっかくここまで来たなら、このまま地下鉄の終点まで行き、そこからバスに乗って、香港の西部の屯門に行ってみる事にしました。ガイドブックを見る限りでは屯門に何があるといったわけではないけど、なんか香港の郊外に出てみたくなったという感じです。それに屯門から香港島に船が出ているので、地下鉄、バス、船と乗り継いで香港をぐるっと一回りできるといったスケールのでかい散歩が出来ると思ったからです。

乗車記念プリペードカード

地下鉄の駅までは方向が一緒なので、みんなでぞろぞろと歩きました。そして入り口付近で、夕食にまた会おうと友人と別れました。階段を降り、改札で切符を購入しようとすると、後輩が「やっぱりついて行っても良いですか?」と言ってきました。まあ断る理由もないので、一緒に行く事にしました。そして券売機で切符を買おうとした時、ふとプリペイドカードの存在を思い出しました。日本でいうならオレンジカード(テレフォンカードのJR版)の地下鉄版です。券売機では売っていないようなので、窓口に行ってみると20HK$と25HK$の2種類が置いてありました。観光客用に特別にデザインされていて、使用後も乗車記念になります。地下鉄はまだ何回か乗るだろうと思い25HK$の方を購入しました。

中心ではなく、郊外へ向かう路線だったので、途中から地下鉄は地上を走り始めました。真っ暗なトンネルよりも外の景色を見れる方がうれしいにはうれしいのですが、なんとなく外を眺めるもののすぐに厭きてしまいました。車窓を流れる風景が香港の住宅街で、住宅地の景観は日本と大して変わらなかったからです。なんか東京の近郊を走る私鉄の光景と一緒だ。探せば我が家もどこかに・・・といった感じでした。

終点に着くと、今度はバスでの移動となります。ガイドブックには詳しく載っていないので、バス停を探すところから始めなければなりませんでした。駅前の大通りにたどり着くと、嫌がらせのように通り沿いのあちこちにバス停が設置されていました。な、なんじゃこれ。一体どれが当りなんだ。一つ一つ確認するか。乗りたいバスの番号が書いてあるバス停を捜しにかかりました。幸い三つ目で見つかり、バスを待ちました。やがてバスが来て、乗り込む際に念の為と思い運転手に「屯門」と書いた紙を見せると、反対側の車線を指差されてしまいました。どうやら逆方向らしい。なんとも初歩的なミスだ。笑いながらバスを降りて、長い歩道橋を渡り、今度は反対側の車線にあるバス停を探しました。今度はすぐに見つかったものの、そこには長い列が出来ていました。この列でいいのだろうか。前に並んでいる人に、先ほどの「屯門」と書いてある紙を見せると頷いてくれました。後はバスが来るのを待つだけ。しばらくするとバスが来ました。念には念を入れて運転手に、屯門に行くかと確認すると軽くうなづいてくれました。これで間違いない。異国の地では乗り物に乗るのも一苦労です。

私達の乗り込んだバスは2階建てでした。香港では路面電車といい、高層ビルといい、やたらと背が高い。土地が少ない香港で、自然に生まれた文化なのだろうか。それにしても風が吹けば倒れそうで頼りない。とりあえず眺めのいい2階へ行こう。すぐに狭い2階への階段を登りました。2階部分は天井は低いけど、窓が多く明るい空間でした。しかし、あいにくと席は全て埋まっていました。困ったぞと思ってると、バスが発進しました。座る場所がないし、どうしたものか。下に降りるか。どっちつかずのまま2階で立っていると、発進、カーブ、減速の度に凄く揺れました。しっかり捕まっていないと転びそうになるぐらいです。これではまるで遊園地のアトラクションのようだ。いやいやこれはマジで危ないぞ。その揺れにしばらく耐えて乗っていると、あるバス停に停車したときに運転手がスタスタと階段の下にやってきて、「下に降りてこい!(推測)」と怒った口調で言ってきました。上に立ってはいけなかったのかな。確かに下手したら怪我するもんな。下に降り、色々考えるものの、香港のルールはよく分かりません。まあいいか。しばらくすると上から乗客が降りてきたので、ようやく2階に座る事が出来ました。座席に座り、落ち着いてよく壁を見ると、先程は気がつかなかったけど、ちゃんと英語で「No Standing」と書いてありました。これはうっかりしていた。かなりみっともない事をしてしまったようだ。

背の高いバスの2階席は、辺りを見下ろすといった視線なのでさすがに眺めがいい。でも視線が高すぎて商店などで何を売っているのかとか、店内の様子が見えなかったりします。それはそれで不便だけどやっぱり高い位置から見下ろすというのは気分のいいものです。しかし、立っていてあれだけ揺れたので、座っていてもよく揺れる事。車に弱い人には2階席はちょっとしんどいかもしれない。しばらくは田舎道を走り続け、そのうち住宅やらマンションが増えてきました。どうやら屯門の市街に入ったようです。さて、どこで降りればいいのだろうか。屯門自体よく分かっていないし、特に当てがあるわけではないので困ってしまいます。とりあえず乗客が沢山落ちる所で我々もバスから落ちる事にしました。香港では降りることを「落ちる」と書くようで、後部出口の横に書かれている「落」の表記に思わず笑ってしまいました。

~~~ §3、屯門での失敗 ~~~

降りた場所は大きな団地の前でした。どうりで多くの人が降りたはずだ。ちょっと失敗。とりあえず大きな屯門公園が近くにあるようなので、そっちに向かって団地の中を歩きました。香港の団地は日本の団地とは比べ物にならないぐらい高層で密集しています。これも土地のない場所柄しょうがないのかもしれません。ただ団地の中の風景は日本と一緒で、小さな公園では子供が滑り台やブランコで遊び。路上では親子でバドミントンをやっていたり、洗車をしている人もいます。建物のほうに目をやると、ベランダには布団が干してあり、何も考えずに歩いていたら、間違えなく日本と錯覚してしまいます。ただよく見ると、洗濯物の干し方が日本よりも乱雑かもしれない。それは几帳面な日本人の性格のせいなのかな。いや干してある服の色がカラフルだから洗濯物が目立ち、ただそう感じるだけなのかもしれない。似ているようで微妙に違う風景を楽しみながら団地を二つばかり抜けたら屯門公園に着きました。

屯門公園は広々としていてなかなか気持ちのいい所でした。ぶらぶらと歩きながら何枚か写真を撮り、疲れたから一服するかと木陰にあるベンチに腰掛けました。そしてタバコを吸いながらボーとしました。暑くもなく、寒くもなく、なんて気持ちがいい気候だ。それに周りの木々からは小鳥のさえずりが聞こえ、なかなか気分がいい。ここは高層マンションに囲まれたオアシスみたいな所だな。とはいえ、いつまでも落ち着いてもいられません。昼から行動開始した我々なので、もうだいぶん日が傾いていました。そろそろ香港の市街地に戻った方がいいな。煙草も吸い終わった事だし、おもむろに立ち上がり、フェリー乗り場の方へ歩き始めました。そして500mぐらい歩くと、景色の良い所に出ました。写真に撮っておくか。と、おもむろにカメラを取り出そうとするものの、カメラがない!あれ~、どこにやったけ。さっきまで写真を撮っていたから、ないはずはないのだが・・・。さすがに顔が青ざめてきました。いや落ち着け。よく考えろ。う~ん。あそこで撮って、その後あそこで撮ってと順を追って考えていくと、さっき休憩した場所に置き忘れた事ぐらいしか思い当たりません。私達は慌てて、さっきタバコを吸っていた場所に戻りました。

戻ってみると、自分達の吸ったタバコの吸殻しか残っていませんでした。ない。ないぞ。参ったな。後輩がぼそっとつぶやきました。「さっきすれ違った緑色のジャンパーを着たおじさんは、スーパーのビニール袋の中にカメラらしきものを入れていましたよ。」 おい、そういう事は早く言ってくれと唸りながら、今度はその緑色のジャンパーを着たおじさんを捜しにかかりました。どこだ。どこに行った。走って追いかけたものの、見つかりません。すれ違った時に感づいて走って逃げたのだろうか。それにしても今日1日の写真がパーではないか。後輩もカメラを持っているので、何枚かは記念になる写真はあるだろうが・・・参ったな。今日撮った写真のコマが頭を巡っていきます。宋城では結構撮ったよな。それに公園でも。もし一人旅だったら大変な事になっていただろう。これもいい教訓か。今回はカメラを二つ持ってきているので、これからの旅で困る事はないけど、予備のカメラは「写るんです」のフィルムが何度でも交換できる程度のカメラでした。もちろん望遠もオートフォーカスも自動巻き上げすらも付いていません。前の旅の最中、エジプトでカメラを壊し、他の旅行者から譲り受けた代物です。よく考えると前回もカメラを壊して使い物にならなくしているではないか。どうやら私はカメラ運がないようだ。

これ以上は捜しようもないので、私達はカメラを諦め、フェリー乗り場へ向かって歩きました。さすがに気分は沈んでいました。九龍に戻り、そこでスラれた事にして、警察に盗難届けを書いてもらおう。そうすれば海外旅行保険でカメラ代は戻ってくる。そう考えると少しは気が楽になってきました。でもやっぱり悔しい。今まで旅行していてぼられた事はあっても、物を盗まれた事はありませんでした。と言っても、今回は盗まれたというよりは単に置き忘れただけ。でも失くした時は誰かのせいにしたくなるものです。もちろん今の気分は不届き者にカメラを盗まれてしまった可哀相な被害者といった感じでした。

トラムのチケット

しばらく歩くと、トラムの線路沿いに出ました。ここから港までは歩いてもそんなに距離はなさそうですが、いまいち土地勘がないので、確実に港まで行けるトラムに乗る事にしました。それに悔しいので、少しでも早くこの地を去りたいという思いもありました。少し先に見える駅に行くと、誰一人いなく、券売機が2台置いてあるだけでした。港までの料金表で調べ、切符代の3.5HK$を券売機にいれ、切符を購入しました。列車が到着するのを待っていると、「どんな写真を撮ったっけな」などとカメラの事が頭をよぎってきます。いかんいかん。違う事を考えよう。しかし、他の事を考えていても行き着く先はカメラの事でした。10分ぐらい待つとトラムがやって来ました。すぐ出せるように切符を握り締めて乗車しました。しかし切符を入れる箱もなければ、回収しに来る人もいません。変だな。きっと降りる時に回収するのだろうと思い、ポケットに閉まっておきました。2両編成の車内は家族連れが多い。正月休みなので、家族連れでお出かけなのだろうか。港まではすぐ着きました。結局買った切符はずっとポケットの中。こんなはずはないと思うので、おそらくまた何かチョンボをやらかしたに違いない。

港は結構大きく、色んな航路が出ているようでした。その中から香港のセントラルに戻るフェリー乗り場を捜すと、切符売り場はかなり混雑していました。なんか混んでいるぞ。仕方なく列の最後尾に並んで待ちました。みんな中心地に遊びに行くのかな。いやもう夕方だ。中心地に帰るのかな。どちらにせよ、そういった格好をしている乗客ばかりでした。やっと順番が回ってきて、チケットを購入すると、思いの他高く19HK$もしました。どうやら船はフェリーではなく、水上を滑るように進むホーバークラフトのようです。だから高いのか。それにフェリーと違って決められた人数しか乗れません。その為混んでいるようでした。すぐの便は乗れず、その次の便で出港しました。さすがはホーバークラフト。軽快に水の上を進んでいきます。窓の外を見ると、どんどんと他の船を追い抜いていました。これはなかなか気分がいい。そういえば乗船してから隣に座っている後輩が静かだな。後輩の方を見ると船に酔って青い顔をしていました。かなり気分が悪そう。せめて隣で吐くのだけは勘弁して欲しい。結局吐くことはなかったものの、終始後輩は青い顔して黙ったままでした。カメラをなくし、気分が沈んでいる私にとっては、まあそれはそれで自分の世界に入ることができ都合が良かったりもしました。

~~~ §4、革命の夜 ~~~

屯門からホーバークラフトに乗り、30分ぐらいで中環(セントラル)の桟橋に到着しました。セントラルは香港島の方なので、宿のある九龍半島には海を渡らなければいけません。地下鉄の駅は桟橋を出るとすぐ前にありました。地下鉄はフェリーに比べると高いけど、重慶マンションのすぐ近くに地下鉄の駅があるので、値段の差額以上に便利です。でもフェリーに乗って歩けば、手間はかかるけど安く済みます。カメラをなくしたばかりのせいか、少しでも安く上げたいという気持ちが強く、スターフェリーの桟橋の方へ向かって歩く事にしました。歩いていると、海辺は凄い人込みとなっていて、もの凄く混雑していました。そういえば宿のおばさんが今日はこの海峡沿いで花火大会があると言っていたな。それでこんなに人がいるんだな。さっきの船も混んでいたし。見やすそうな場所では多くの人が敷物をひいて座っていました。一体何時から場所取りをしていたのだろう。敷物を敷いて座っている人の多さから、間違えなく早い人は昼頃から陣取っていたはずだ。行列や場所取りは世界共通なんだな。特に人口密度の高い地域ほど競争倍率は高いような感じです。

スターフェリーに乗る頃には、もう辺りは薄暗くなっていました。暗くなって乗るスターフェリーもなかなかいいものでした。船の上から見るビルのネオンが綺麗だし、海に街明かりが反射する様子がきらびやかだしと、とてもロマンチックな感じ。街の灯がこれだけ綺麗に思えたのは、正直初めてでした。これは写真に撮っておこう・・・。あっ、なくしてしまったんだ・・・。カメラをなくした事を思い出して、再びブルーになってしまいました。せっかくの気分と、風景が・・・くそっ。

九龍半島に着いても人の多さは変りませんでした。どっち側からが見やすいのだろうか。まあいい、とりあえず友人の待つ宿に戻らなければ。我々は人の流れに逆らうような形で重慶マンションに向い、マンダリン・ゲストハウスに戻りました。そして部屋に入ると友人は寝ていました。人の事は言えないけど本当によく寝るやっちゃ。どうしたんだいと聞くと、歩き疲れたとの事。さすがにかなりの距離があり、ぶらぶらと歩いていたら2時間以上かかったようです。それは大変だったねと話しつつ、花火大会が始まる8時まではまだ1時間ぐらいありました。今行っても10分前に行っても大して変らないな。昨日のパレードとは違って、上を見上げられる場所ならどこからでも見れるし。まずはカメラをなくした報告を友人にして、その後は雑談をしながらゆっくりとしました。そして8時前になると、おばさんに花火を見てくるねと伝え、宿を後にしました。

オンボロエレベーターのボタンを押し、いつもどおりエレベーターが来るのを待ちました。しかし到着したエレベーターは今まではなかったことですが満員でした。の、乗れないではないか。急いでいるのに。そもそもこのエレベーターは狭く、一応定員は7人となっているけど、7人も乗れた試しがありません。大柄な人が乗ると4人でも定員オーバーのブザーが鳴る状態でした。しかも乗るのにコツがあり、4隅に均等に重量がかかるように乗らないとすぐにブザーが鳴ってしまうという曲者。香港に着いた最初の日に宿のおばさんが13階は便利なんだよと言っていた通り、確かに13階は便利でした。エレベーターは2基あり、それぞれ偶数階用、奇数階用に別れています。我々が乗る奇数階用の最上階は一つ先の15階。つまり上から降りてくるエレベーターは今回を除くといつもガラガラでした。登る時はともかく、降りる時に3人で乗れるという事がとても便利に感じました。これが7階とか5階だったら、エレベーターが上から降りてきた時には既に満員で、3人で乗ることはよほど運が良くないと出来ません。下手したら1人も乗ることすら出来ない事もあります。中途半端な階よりは上か下のほうが便利がいいというのが、ここ重慶マンションのエレベーター事情でした。

重慶マンションの階段
重慶マンションの階段

とりあえず今はあまり時間がない。再びエレベーターが来るまで5分ぐらいかかるはず。このままでは花火が始まってしまうぞ。ちょっと危機感を感じ、おばさんに教えてもらった奥の手を使う事にしました。階段で1つ下の12階に降り、そこで偶数階用のエレベーターの前で待ちました。この階段が汚く、小便の悪臭が漂っているのであまり通りたくない代物です。なんだって階段で小便をするんだ。まったく迷惑な。でも13階付近はまだましです。5階位までは結構利用者もいるのでもっとひどく、階段は食いかすなどのゴミだらけだったりします。それはさておき、そんなに待つ事もなくエレベーターが到着しました。中は誰も乗っていなく、今度は3人で乗ることが出来ました。作戦成功。段々と重慶マンションの住民になりつつあるってな感じです。というより、もっと余裕を持たせて早く宿を出発しろよといったところなのでしょう。

1階に降りると、「あれっ?」といった感じでした。いつもと雰囲気が違ったからです。まだ早い時間なのに、人がいない。まるで深夜のような状態でした。変だと思いながら重慶マンションの入り口まで来ると、我々はそこで見た光景に立ち尽くしてしまいました。人、人、人の人だらけの光景だったからです。普段激しく車が行き交っているネイザンストリートには、車の姿はなく、水牛のように行進している人の姿がありました。しかもみんな海岸の方向に向かっています。私はこれだけ多くの人が同じ方向に歩いているのを今まで見たことがありません。呆然としていると「ドン」と大きな爆発音と共に1発目の花火が上がりました。それと同時に歩いている人々の間からも奇声が上がりました。1発目の花火が赤かったために空が赤く染まっていました。まるで革命の成功を祝して歩いているような光景です。再び花火が上がりました。さっきよりも人々の奇声が大きくなり、今回は花火の爆音よりも人々の奇声のほうが迫力がありました。これだけ多くの人が同じ物に対して心を開くと凄まじいパワーが生まれるようだ。とにかく凄い光景だ。写真を撮りたかったけど、カメラがない。後輩も宿に置いてきたそうだ。今から取りに行っても間に合わないだろう。そんな事よりもこの集団の中にいるほうが楽しい。何時の間にか我々も群集に飲み込まれ、花火が上がる度に奇声を発していました。

第5章 初二の失敗  ー 完 ー

「第6章 香港競馬な一日」に続く

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