風の足跡 ~風の旅人旅行記集~

ぐうたら香港滞在記

~ 第4章 旧正月の初詣 ~

*** 第4章、旧正月の初詣の目次 ***

~~~ §1、旧正月のパレード ~~~

今日は旧暦の正月、通称旧正月です。旧暦だろうが、新暦だろうが、1年のうちに2回も正月を迎える事ができるというのは、なんだか得した気分になります。とりわけ友人は今年の正月に風邪で寝こんでいたので、今回はと張りきっていました。正月をやり直す人も珍しい。但し、それは前日寝る前までの話でした。さて日が昇って目が覚めると、普段歩かない人が歩いたら次の日に必ず起こる現象が我々を襲っていました。すなわち体のだるさと、筋肉痛です。しかも昨日は夜遅くまで起きていたので、目覚ましを10時にセットしていても、誰も起きれませんでした。ようやく友人と後輩が10時半ごろ起きて、マックに朝食を買出しに出かけました。私は静かになったと、再びベッドイン。そして11時半ごろ、買出しから帰ってきた二人に「飯だぞ~」と起こされました。なかなか気の利いたルームサービスだ。いやいやご苦労さん。チップは友達の仲という事でいらないね。とまあ、なんともひどいぐうたらぶり。これぞ個人旅行の醍醐味。ツアーに参加しての旅行だったらとうてい真似できない贅沢なことに違いありません。

買ってきてもらった朝食兼昼食のマックを食べながら、今日の予定を立てました。よく考えると、香港に来てからもう既にこれで2回目のマックになるぞ。しかも今日は旧正月の元旦。これでいいのだろうか。よくないに違いない。少々自己嫌悪に陥りながらの食事でした。それよりちゃんと予定を立てて動かなければ。さて今日の予定は・・・確か1時半に正月を祝うパレードがあると、宿のおばさんが言っていたな。せっかくの正月だからこれを見よう。正月に滞在していなければ見れない貴重なものだ。これはポイントが高い。昼まで寝ていた分を十分挽回できるぞ。と、いう事で、まずは1時頃に出発して、パレードを見に行く事が確定。その後はどうしよう。パレードっていつまでやっているんだ。まあ切りがいいところで退散する事にして、その後はぜひとも観光がしたい。そうだ。せっかくの正月だし、黄大仙という香港で一番でかい寺にお参りしてみようではないか。そう提案すると、異議なく承認されました。その後は特に行きたい場所もないので、夕食の時間まで各自で自由行動とする事にしました。せっかく昨日自分達で動き回る事が出来たんだから、今日もそれを実行したほうがいい。その方が後で思い出になるというもの。よしこれで計画が立った。出発の1時まではもう少し時間があるので、それまではゆっくりしよう。

爆睡中の友人
爆睡中の友人

時計を見ると12時40分。さてそろそろ用意をするか。独り言のようにつぶやくと、後輩の「そうですね」という返事しかかえって来ませんでした。あれ?そういえばさっきから・・・ベッドの上で横になってテレビを見ていた友人の方を見ると、スヤスヤと寝ていました。おいおい、一番張りきっていたのに。そのうち物音で起きてくるだろうと、構わず支度を始めるものの、一向に起きてきません。そろそろ出発時間が迫っているから、起こさなければ。「パレードに行くぞ」と声をかけると、「う~寝たい」と全くもって覇気のない返事。こりゃ駄目だ。無理に起こして、機嫌悪くついて来られても面倒だしと、後輩と二人で出発することにしました。

重慶マンションの1階に降りると、旧正月だけあってさすがに閉まっている店が多く、閑散としていました。もちろんそれは重慶マンションだけではなく、町全体にいえることでした。その一方、宿のおばさんに教えてもらったパレード会場となっている通りへ向かうと、そこは人人人の山で、二重三重の人壁が出来ていました。「なんか香港中の人々が集まっている感じだな。きっと香港人はこのパレードを見なければ年が明けないのかもね。」などと後輩と笑いながら話すものの、人が多すぎてこれではとてもパレードを見れる状態ではありませんでした。恐らくみんな早い時間から来て場所取りをしていたのだろう。こんなことだったらもう少し早く出発すればよかったな。そうすれば友人も寝ちゃうことはなかっただろうに。宿でぐだぐだしていた事を考えるとそう思えてくるのですが、今更後悔してもしょうがありません。

どこか見るのにいい場所はないだろうか。人込みの中を離れ離れにならないように歩きながら探すものの、どこまで行っても人のだらけ。こりゃ参ったな。とりあえずメインとなる通りに行ってみるか。パレードの中心となる通りに行ってみると、で~んと階段状の臨時スタンドが設置されていました。かなり大きく、あそこからならよく見えそうだ。入場料を取るのかな。スタンドの席のほうへ目をやると空席ばかりで、しかも白人しか座っていませんでした。なんだこりゃ。こっちは凄い人込みだというのに・・・。なんだか人種差別の風が吹き荒れていた植民地時代におけるイギリス人専用席みたいです。そう考えると、同じアジア人としてあまりいい気はしません。でも香港返還後の来年には、このスタンドには中国政府の役人が座っていたりして・・・。それはそれで嫌な感じだろうな。この付近がパレードの中心で一番華やかそうだけど、スタンドが邪魔だし、スタンドがないところは人が多いしと、朝寝坊の我々が見れる状態ではありませんでした。

メインスタンドから離れた場所で、やっと背伸びして見れる場所を確保しました。まだパレードが始まるまでには少し時間があり、路上では獅子舞が出番を待って待機していました。みんな若いな。きっと中学生ぐらいかな。一応晴れ舞台なんだろうな。母親らしき人に手を振る姿を見ると、そんな感じがしました。それにしても凄い人込みで、出来るだけいい位置で見ようと地下道の入り口の屋根までも人が沢山乗っていました。日本なら警官がすっ飛んでくるだろうに。屋根が落ちなければよいが・・・。辺りを見渡した感じでは、パレードを見物に来ている人は国際色豊かでした。欧米人やらアラブ系やらインド人やら東南アジア系やらと様々。どちらかというと香港人よりも異国人の方が多い気がします。なんか変った雰囲気の群集でした。

パレードの獅子舞
パレードの獅子舞

そして1時半になると、太鼓が鳴り響き路上で待機していた獅子舞が舞い始めました。おっ、待ってました。テンポのいい太鼓やら笛に合わせて獅子舞が舞う。そんな光景が路上のあちこちで繰り広げられていました。これぞチャイナタウンでよく見る光景です。そう、このよく見る光景というのが味噌で、5分も経つと飽きてしまいました。こんなのがずっと続くのだろうか。だとしたら、いくら本場とはいえかなり退屈だぞ。地元の香港人が少ないのはそのせいだろうか。背伸びしている足も疲れてきました。足がつる思いをしてまで見る必要もないような・・・。多分これは前座なんだろうけど、恐らくこの後に続くメインイベントも似たり寄ったりに違いない。始まって10分後、我々は地下鉄の駅へ向かって歩いていました。

~~~ §2、黄大仙で初詣 ~~~

駅からの行列
駅からの行列

黄大仙のある最寄の地下鉄の改札を出ると、駅構内はかなり混雑していて、駅員らしき人が拡声器を持って怒鳴っていました。もちろん中国語なので、何を言っているのか分かりませんが、それにしてもひどい混雑です。人身事故でもあったのかな。いや、もしかして・・・。やっぱりそうでした。みんな黄大仙にお参りにきた人々でした。地上に出るとさらに凄い行列が出来ていて、警官や駅員、係りの人があちらこちらに立って、長い行列を整理していました。仕方なく列の最後尾に並ぶものの、一体どれだけ待てば本殿にたどり着けるのだろうか。先は長そうだと不安。どうやら香港でも初詣は並んで詣でるものらしい。正月だし、初詣がてら神社に行ってみるかといった安易な発想で黄大仙に来たものの、こんなに混雑しているとは全く持って予定外でした。まいったな。時間がかかりそうだ。でもパレードとは違って生活感あふれる香港の光景だよな。そう考え直すと、香港らしい香港に出会えた気がして、ここはぜひ行っておかなければとやる気が出てきました。

少し小雨が降っていました。列に並んでいるのは当然ながら地元の人達でした。香港人はパレードなどを見なく、こういうところに来ているんだなと、納得。それにしても傘をさしている人もいて歩き難いし、列のマナーもよくありません。もちろん紳士の国イギリスの植民地なので、横からの割り込みといったえげつない事はしてこないのですが、やたらと後ろから押してきます。押したっていいことないぞ。それとも貧乏旅行者の財布をスルつもりなのか。いや、もしかしたらそうかもしれない。念のため尻ポケットに入れていた財布を前ポケットに移したのですが、状況は変わりませんでした。財布ではないとしたら、一体何なんだ。俺達が観光客だからか。それとも日本人だから嫌がらせをしているのか。それともこれが香港での正しい列の並び方なのだろうか。そうなら我々も真似して前の人をタックルしなければならないだが・・・。色々考えてみるものの、香港についてあまりよく知らないので分かりません。それから傘のマナーもひどいものです。香港では人の頭に傘をぶつけても気にしないようで、こつこつと頭にぶつけてきます。一応先端は丸くなっているので、漫画のように傘が頭に刺さるような事はないけど、気になるし、何より水滴が滴ってくるので冷たい。そういった他人の迷惑は考えられないのだろうか。一応観光客だし、最初のうちは我慢していたのだが、そのうち忍耐の限界。でもここは香港。日本語でわめいても無駄だろうな。下手したら変質者と思われるかも。まずは軽く警告しておくか。後ろの香港人をいい加減にしろとばかりに睨みつけると、ようやく我々と間合いを開けるようになりました。作戦成功。しかし、しばらくするとまたこつこつと頭に傘が・・・。こらっ、喧嘩売ってるのか。あまり気の長くない私は爆発寸前。「こんな所で喧嘩はやめて下さい。罰が当たりますよ。」と、この後ずっと後輩になだめられていました。

黄大仙の入り口
黄大仙の入り口
参道の出店
参道の出店

駅を出てから約30分。我慢に我慢を重ね列に並んでいると、やっと境内への入り口に辿り着きました。ここが玄関にあたる門に違いない。門の付近には線香を焚いたり、占いをしている人が大勢座り込んでいて、ようやく寺に来たんだなといった雰囲気が味わえるようになりました。それにしても雨の中ご苦労な事です。列に並ぶのが面倒な人は、こういったところで我慢するのだろうか。それともお参りした後で、ここに来るのだろうか。香港は占いが盛んなところだというのは知っているけど、その実態やシステムはよく分からないので、なんとなく眺めていました。そして門をくぐると、今度は出店がずらっと並んでいました。売っているものは金ぴかの飾り物や線香などの参拝用の品々。きっと日本でいうなら絵馬などの縁を担ぐ飾りものにあたるのでしょう。それよりも小腹が減った我々は、日本でいう焼そばや大判焼などの軽食を売っている屋台を探したのですが、さすがにそういったものはありませんでした。

しばらく歩くと第2の門に辿り着きました。第2の門では賽銭箱みたいなものがドカッと真ん中に置いてありました。これは一体何なんだ。邪魔だなと避けて進みつつも、気になって眺めていると、多くの人がお金を入れていました。どうやら入場料の代りとなる寄付金を集めている様な感じです。入れなければまずいのかな。一応後輩は日本の仏門の関係者。尋ねてみると、「別にいいんじゃないですか。寄付って気持ちの問題ですから。」とのこと。それもそうだ。もう通過してしまったものはしょうがない。入れようといった気持ちがあればいいではないか。でも現実的に考えるなら、そういった気持ちだけではお坊さんは食べていけないんだろうけど・・・。

さらに進むと、第3の門に辿り着きました。ここでは関所が設けられていて、この先へ進む人数を規制していました。という事は、この先がいよいよ本殿に違いない。期待を込めて待ちました。当然、待っている間にも香港の人のタックルは続いていました。しかもこの付近では列は道幅いっぱいまで広がり、後ろからだけではなく左右からの攻撃にも耐えなければなりませんでした。そしてしばらく待たされ、ようやく警備の人の合図で前進。門をくぐると線香の煙が漂っていました。よし本殿に突入だ。しかし煙の先をよく見ると、列はつながっていて、その先にはまだ門がありました。あれっ、まだあるのか。がっかり。でもその門はこれまでの中で一番大きく、威厳のある門でした。次こそは間違いなく本殿にちがいない。ここでも入場規制の為しばらく待たなければなりませんでした。

境内の様子1
境内の様子2
境内の様子
境内の様子3
境内の様子4
祈っている様子
境内の様子5
本殿
境内の様子6
境内の様子7
参拝の様子

第4の門をくぐり、やっと本殿までたどり着きました。これまでの苦労が思い起こされます。度重なるタックル攻撃や傘攻撃。うん、よく頑張って耐え続けた。かなりフラストレーションが溜まる行列だったけど、ようやく開放されるぞ。よし、本殿だ。意気揚々と本殿の門をくぐると、なんとそこは霧の世界。というか、靄がかかったように線香の煙が本殿に充満していました。そしてよく見ると煙の中で人々が一心不乱に祈っているではないか。な、なんなんだこれは。言葉にならない光景でした。列の流れに沿って本殿の方へ進んでいきました。その間、私と後輩は一言もしゃべれませんでした。なんだか神懸り的なお祈りのパワーに圧倒され、しゃべる事などを忘れてしまっているような感じでした。それにしても凄い。写真に撮っておこう。ふと我に戻り、写真を撮ろうとするものの、そういえば香港人は写真を撮られるのを嫌うと聞いたのを思い出してしまいました。やっぱりこの場を写真に撮るのはまずいかな。でも絶好のシャッターチャンスを逃すのは悔しいしな。なるべく気付かれない様にこっそり撮影しました。下手をしたらお供え用の林檎が飛んでくるかもしれない。その時は図体のでかい後輩を縦にしよう。勝手が分からないので、かなりビクビクしていた私でした。

本殿の敷地に入ったものの、ここからも長かった。なかなか列が進まなく、お祈りをする本殿までなかなか辿りつけない状態でした。その間ずっと敷地内でお祈りやら占いやらをしている人を眺めていました。なんか不思議な光景です。地元の人達が行っているのは、線香を焚き、供え用の林檎やミカンに刺して置き、箸のようなおみくじをしています。何回かひいてその組み合わせで運勢が決まるらしい。よく見ると地元の人に混じって、スキンヘッドの西欧人が見よう見真似でやっていました。左右をきょろきょろ見ながら地元の人の真似をしている姿はなんだか滑稽で微笑ましい。少なくとも彼らの存在は私の張りつめた緊張を解いてくれました。

牛歩のような歩みの行列を進むとやっと建物の正面にたどり着きました。いよいよメインイベント。ここまで来るのに一体どれくらい待った事だろううか。前の方の人が祈っている姿を見ると、みんなでかい線香を両手に持って何度もお辞儀をしています。日本だと賽銭を「えいやっ」と投げて、パンパンと手を合わせるのが普通だけど、ここでは線香を持っているので本格的に見えます。まあ我々は線香を用意していないし、日本式にやろう。そう思って本殿に近づくものの、お賽銭入れみたいなものは見当たりませんし、誰もお金を投げていませんでした。そういえばお金を投げるってひどく失礼な事だよな。今更ながら日本の文化に疑問を持ちつつ、一番前に行けば賽銭箱があるかもと前を目指しました。しかし、それは途中で断念。周りの人の線香の煙がまともにかかって息苦しい状態。それに線香の灰が凄い。みんな一心不乱に祈っているもんだから線香の灰が前の人のところに落ちても、気が付かない。というより、どうも気にしていない感じです。気管があまり強くない私にとっては拷問のような苦しさ。涙が出てきました。こりゃいかん。その時隣の後輩が「あちっ」と叫びました。どうやら灰に混じって火の粉が襟首に入ったらしい。これは危険だ。前に行くのを諦め、この場から脱出しました。

本殿から抜けると比較的すいていました。後輩とお互いの肩や頭に降り積もった灰を落としあい、服に焦げ後や、穴が開いていないか確認しあいました。全くひどいものだ。傘といい、線香といい香港人はマナーを知らないようだ。非難を込めた視線で本殿を振り返ると、そこは煙で取り囲まれていました。妖気が漂っているというか、あそこは別世界だな。少なくとも異教徒には危険な空間でした。あの中を通ってきた事考えると、ぞっとしてきます。それにしても凄いパワーだったな。これだけ圧倒されたのは久しぶりでした。神の存在の有無は別としても、これだけ信仰心あふれる姿を見ると、ある意味うらやましいというか、なんというか・・・なんか不思議な気持ちでした。

さて長居は無用。また新たな火種が降りかかるかもしれません。ゆっくりと出口に向かいました。入り口では寄付金を入れ損ねたし、本殿ではお賽銭は入れられなかったし、せめて出口ではと思って捜してみたけど見つかりません。無いものはしょうがない。多分寺の人は納得していないだろうけど、寄付をしようとした気持ちだけでも十分ではないか。勝手にそう納得する事にしました。駅に向かってあるいていると、出口付近では物乞いが10人ぐらい座ってました。寄付をしようとして準備していた2HK$がすぐ出せるようにポケットの中にあります。どうしようか。そのお金を物乞いの空き缶の中に入れようか。どうせ寄付するお金だったしな。そう思ったものの入れのに躊躇っていました。一人だけに入れていいものか。それにここで入れたなら今後全ての物乞いに入れないと心が痛むような気がしたからです。そもそも入れる事がいい事なのか、悪い事なのか、今の自分にはよく分かりませんでした。善と偽善、そして悪とは如何に?そのうち自ずと自分なりの答えが見つかるだろう。旅は長いのだから・・・。私が物乞いのそばを通り抜けても、置いてあるカンの中は空のままでした。

~~~ §3、九龍城跡地にて ~~~

九龍城跡地の公園1
九龍城跡地の公園2
九龍城跡地の公園

黄大仙のお参りの後、後輩と一緒にかつて悪名を轟かせていた九龍城の跡地を訪れてみました。今では悪の巣であった九龍城は影も形もなく、綺麗に整備された公園がそこにありました。九龍城といえば、無法地帯、4大マフィア、売春、賭博、ドラッグ、賄賂などなど、善良な市民?である我々には無縁の言葉しか浮かんできません。九龍城が悪の限りを尽くし始めたのは、戦後の混乱期でした。2次大戦後、中国とイギリスとの交渉のもつれで、九龍城はどちらにも属さない状態となり、おまけに中国が人民共和国となり、中国にいづらくなった大陸マフィアが香港に流れてきて、ここ九龍城で勢力をふるったそうです。警察も賄賂をもらう事により九龍城内の立ち入りをしなかったし、正義を振りかざして立ち入ったとしても消されるのが落ちでした。しかし、悪は栄えないのが世の常で、時代は変わり、返還が迫った香港政府はマフィアなどの悪いイメージを払拭しようと、悪の巣窟となっている九龍城を取り壊す事にしました。もちろん言うのは簡単ですが、実際に行うのはマフィアの抵抗などにより大変だったと思います。実際に取り壊す様子は日本でもニュースで大きく報じられ、立てこもって抵抗する人などが映っていたのを覚えています。そしてその跡地は綺麗に整備され、公園となりました。

現在の九龍城跡の公園はのんびりとした空気が漂っていました。地元の人々が散歩し、かつてここに悪の巣窟である九龍城があったとはまるで想像が付かない状態です。でも地面を掘ったら消された人々の人骨が・・・。いやいやそんなおっかない事は考えないでおこう。歩き回っていると、頭上を凄まじい爆音と共に飛行機が通過しました。うっ、喧しい。そう、ここは爆音の名勝でもあります。香港の空の玄関啓徳空港がすぐ近くにある為、飛行機が建物すれすれを通って着陸していきます。飛行機に詳しくなくても、どこの航空会社か分かってしまうほどです。また一機着陸してきました。それにしても凄い爆音だ。立っていると轟音の振動で全身が震えているのが分かります。ちょうどピーク時なのか、頻繁に飛行機が着陸するようになりました。よくもまあこんな喧しい所に住めるもんだ。公園の周りにマンションやら商店街がある事を考えると、多くの人が騒音に苦しんでいるはずです。

頭上を通過する飛行機
頭上を通過する飛行機

また1機着陸していきました。「あ~また駄目だ。」さっきから我々はこの迫力ある光景を写真に撮るべく苦労していました。これで3回目の失敗。飛行機が建物の影から出てきて消えるまで、わずかな時間しかないので、シャッターを押すタイミングが難しい。爆音がするので来る事は分かるのですが、建物の影から現れるタイミングがなかなか計れずにいました。それにカメラもコンパクトカメラのオートフォーカスなので、なかなかピントが合わなく、気が付いたら飛行機がビルの陰に。でも今ので来る方向や現れるタイミングが掴めた感じがするので、次こそはいけそうだ。我々はカメラを構えながら「早くこい。早くこい。」と念じていました。再び遠くの方から爆音が聞こえてきました。よ~し、来るぞ。恐らくここで飛行機が早くこいと念じているのは、我々のような観光客ぐらいだろう。建物の影から飛行機が現れた。今度こそ。パシャ。やっと撮れた・・・ような気がする。

多分写っているだろうと満足して公園から出ました。観光に来る分には、とても面白い体験ができて楽しかったけど、この爆音の中には住みたいとは思いません。それは当然毎日爆音に苦しんでいる地元の人の方が強く思っているはずです。でも2年後には離島に新しい空港ができるそうなので、ここに住む人々も爆音から解放されるはず・・・。それとも貨物便などは今までどおりなのだろうか。よく分からないけど確実に爆音に苦しむ回数は減るはずです。そうなるとこの迫力ある離着陸が見られなくなってしまうのか。そう考えると今のうちに古き良き香港らしい貴重な体験ができたのは良かったのかな。

商店街
商店街

ガイドブックによると公園の横にある商店街は最近香港でグルメな地域として人気となっているそうだ。喉も渇いたことだし、ちょっと行ってみるか。商店街はレストランというか、食堂が並び、なかなか活気のある通りとなっていました。どこかでお茶をしよう。やっぱり香港に来たなら飲茶だよな。一軒の食堂に入りました。なかなか店内は混んでいる事から、かなり地元の人に流行っているようです。私はコーヒーと肉まんみたいなものを、後輩は烏龍茶とケーキを頼みました。食事をしている間も頭上でゴォ~~と凄い音がしています。飛行機が通る度になんか妙に頭上が気になります。なんか天井が落ちてきそうな感じです。それに建物全体も轟音に合わせて振動しています。もちろんコーヒーカップも揺れ、中のコーヒーも波紋ができていました。これでは落ち着いて食事ができないではないか。結局、爆音や振動が気になっても味も分からないまま店を出ました。よくこんなところに住めるもんだな。それよりも、なんでこんな場所でグルメなんだ。香港人は食べている時は味覚の神経しか働かないのだろうか・・・。あまりにもグルメに相応しくない環境に疑問に感じつつも我々には関係ないこと。さてもう夕方だし、友人も待っているだろうから宿に戻るか。地下鉄の駅に向かう事にしました。

~~~ §4、正月の夜 ~~~

宿に戻ると友人は寝ていて、帰ってきた我々に気が付いて起きました。もしかしてずっと寝ていたのか。話しを聞くと、2時ぐらいまで寝ていたけど、おばさんに「掃除をするよ」と起こされ、やむなくパレードを見に行き、しばらくその辺を散歩し、また帰って寝ていたそうだ。ずっと寝ていなくて安心したものの、本当によく寝るやつちゃだな。BGMがわりにテレビをつけるとパレードの事がやっていました。おっ、やっているな。やっぱり香港の旧正月を象徴的するようなイベントなんだな。人が多いし、なんかつまらなくてすぐに退散しちゃったけど、一体何がメインのパレードだったのだろう。真面目にテレビに見入るものの、なんか変な放送の仕方です。やたらと地下道の入り口の壁が壊れたところを映しているし。なんなんだこれ・・・。漢字の字幕と、映像から判断するに、どうやらパレードの車が人垣の中に突っ込んだらしい。どうも酔払い運転だったようです。しかも私達が最初に立ち止まり見ていた地点のすぐそばでした。くわばらくわばら。そんな事よりもさっきから鳴り続けている友人の腹を満たしてやるほうが重要でした。さてどこに食べに行こうか。ここ二日間行っていた食堂は、昨日行った時に正月の期間は休みだと張り紙がしてあったから、今日は別の食堂を探さなければなりません。

とりあえずあてもなく夜の香港の町に繰り出しました。正月ともあって閉まっている店が多いものの、ネオンの華やかさは変らない。やはり香港はこうでなくては。そんなネオンの花道を賑やかなほうへ向かって歩きました。えぇ~と、食堂は、食堂はと。宿の近くの通りを歩くと、三軒の大衆食堂が営業していました。どこにしようか。ガイドブックを眺めてしまうと一流レストランでの華やかな中華が香港の象徴に思えてしまうけど、実際は庶民の食がそれを支えているはず。だから庶民の食である大衆食堂や小さな個人食堂に香港らしさを求めるのも一つの方法のはず。ということで、その中で一番大衆食堂っぽい店に入ることにしました。

食堂の様子
食堂の様子

いかにも庶民の為の店といった店内は空いていました。元日の夕食にこういった店で食べる人も少ないのでしょう。家族連れといった姿はなく、一人や二人で食事している人ばかりでした。安っぽいテーブルに着くと、メニューが置いてありました。そのメニューを覗き込んでビックリ。なんと100種類もの料理が書かれていたからです。オープンキッチンなので、調理場はここからもよく見えますが、店内を入れても働いている人は三人。たった三人で100種類ものメニューをこなしているのかと思うと、素直に凄いと感心してしまいました。もちろん中華なので、味は一緒でも微妙な具材のアレンジで料理の名前が変ったりと、100種類全く別の料理を作るわけではないのですが、やはりこの多さには中華料理屋でバイトしている私は脱帽の思いがしました。

各々好きなものを頼みました。もちろん中国語が分からないので、これってな感じで指を差しての注文でした。私の頼んだのはホイコーロ。バイト先でも作っているので、こっちではどんな味かなと思ったからです。友人はチンジャオロース、後輩はチャーハンとバラバラ。でもそんなに待つ事なく、次から次へと料理がやってきました。そしてその量の多さにビックリ。かなりボリュームがあるぞ。値段も昨日まで行っていた食堂よりも安いし、これはいい店を見つけたかも。さて、いただきます。味の方はまあまあかな。ちょっと油っぽいけど。でも量を考えると、断然お得。ガツガツと三人で料理を平らげました。明日の夕食もここで決まりだな。メニューが多いし、しばらくは飽きる事もないだろう。中華料理自体に飽きなければ・・・。

食堂を出ると、コンビニで買い物をして、宿に戻りました。さすがに今日も海岸に行こうといった元気はありませんでした。それに宿のおばさんが言うには明日の夜には花火が上がるとの事。なんで二日の日に花火を上げるだ。ちょっと疑問に感じましたが、大晦日や元旦はやっぱりそれぞれ忙しいのでしょう。そんな事はさておき、今日は元旦だ。新しい年の始まりを祝わなければ。我々は旧暦の新年を祝うべく宴会を始めました。
  「A Happy New Year in Hong Kong」

第4章 旧正月の初詣  ー 完 ー

「第5章 初二の失敗」に続く

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